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百四十四話目

 今日は久々に教室で昼食をとっている。昼練は行きたかったのだが、ドクターストップをかけられてしまった。MC曰く、俺の唇は一旦限界を迎えた段階らしい。つまり、次への分岐点だ。そこで無理をした場合、最悪の方へと転がることがあると教えられた。

 ただ――案外こうしてみんなと一緒に昼食を取るのも久しぶりなので何気に嬉しかったりする。今までは昼はずっとMCたちと食べていたから、こういった時じゃないと中々話せない。

「いや、さっきはありがとう。助かったよ」

 トラが市販のパンをかじりながらそんなことを言ってくる。もう持ってきた弁当は食べ終えてしまったのか、先ほど購買に買いに行ったようだった。それでも三個はさすがに多いと思う。

「ちょっとは勉強したら?」

「そうそう。中学までとは違うんだからさ」

 燐と千尋がそれぞれ苦言をよこす。二人とも流石女子というべきか、まるでファミコンのカセットのような弁当箱だった。

「だってさ……勉強って楽しくないんだもん。アイドルのコール覚える方がよっぽどいいよ。みんなもどう? ちなみに俺の推しメンは……」

「あ~はいはい。わかったわかった。だからその写真集早く仕舞って

 校則違反の写真集――水着などのきわどい画像あり――をトラは渋々鞄に戻す。ここまで来るともはや呆れるという感情を通り越して畏敬の念すら抱いてしまう。好きなものに一直線な男はカッコいいというが……まさかこれにも適応されるとは予想外だった。

「二人は何か熱中できることないの?」

「本」

「格闘技」

 即答だった。いや、答え自体はわかっていたが、それにしても荒まじい反応速度だ。

「本はいいよ? だって自分の好きなように想像できるし、何より自由。誰からも縛られないっていいと思わない?」

「格闘技はいいよ? 飛び散る汗、舞う血しぶき。そして歓声――あれは一度知ったら病みつきだよ」

「アイドルだって同じだよ。あの一体感はもちろんだけど、何より励まされるもん。俺はそれで救われたしさ」

 三者三様の意見を述べるが、基本的に根っこは同じ。それがどうしようもなく好きだということだ。その証拠に誰もが語っている時は頬を綻ばせていた。やはり、好きなものがあると人間というものは輝くと思う。

「レイは? 何かないの?」

「えっ、俺か?」

 三人の視線が一斉にこちらを向く。隙あらば自分の好きなジャンルに引きずり込もうという魂胆が見え見えだ。全く、友人を何だと思っているのか。

「俺の好きなもの……う~ん……」

 サッカーは好きだった。中学まで。それ以外で好きなものと言えば、姉さんだが、それはまた違う気がする。とすれば……

「楽器……かな?」

『……?』

 答えた瞬間全員が不思議そうに首を傾げ、しばらくして同時に吹き出すように笑い始めた。何か変なことを言ったのだろうか?

「いや、そう言えば樫井はそういう奴だったね。忘れてたよ」

「そうそう。言われてみれば、確かに熱中してるよ」

「恋してるんじゃないの?」

「恋? ないない。だって重いし、無愛想だし、じゃじゃ馬だし、まるで俺の言うこと聞かないし」

 だが、そこで燐がニヤッと意地汚い笑いを浮かべ、ドヤ顔のまま告げた。

「ツンデレ……だね!」

 反射的に俺の手は彼女の頭をはたいていた。


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