百三十九話目
時刻はもう六時半。ちょうどみんなが飲み終えたのを見計らって先生が声をかける。
「さ、それじゃそろそろ練習始めようか」
『はい!』
ジュースを飲んだ後には歯を磨かなくても口をゆすぐだけでいいのでだいぶ楽だ。俺たちはそそくさと二階の水飲み場まで下りて口を洗いに行く。先生はその間スコアのチェックを行っていた。
「疲れてない? 大丈夫?」
「あ、はい。大丈夫です」
話しかけてきたのは大暮先輩だ。彼女は何かと後輩たちを気にかけているらしく、いつでも気さくに声をかけてくれた。最初こそ関わりがなく戸惑っていたが、今ではとても交流が深まったと思う。
「意外と体力あるよね。というか、根気?」
「そうですか? そうは思いませんけど」
「いやいや、十分ある方だよ。じゃなきゃ、毎日毎日朝から晩までチューバ吹いたりしないでしょ」
「聞いていたんですか?」
「うん。というか、あれだけ大きな音出してたらいやでも耳に入るよ……あ、別に悪く言ってるんじゃないんだよ? ただ、ここ数年そんな生徒はいなかったからね」
確か、MCたちもそんなことを言っていたように感じる。俺はただ下手なままでいるのが嫌だから、こうしてやっているだけなのだが。
「そのおかげかだいぶ上手くなってきてるよ。こうやって合奏にも出れているしね」
「あ、ありがとうございます」
何だか褒められることが本当に久しぶりすぎてどういう反応をすればいいかわからない。とりあえず、頭は下げておいた。すると先輩はクスッと笑い、
「謙虚だね。いいことだよ、満足した瞬間から成長は止まるから、気を付けてね」
「はい! ありがとうございます!」
そうこうしているうちにしたまでたどり着き、俺たちはそれぞれ別々の水飲み場へと向かう。この学校は少し特殊で、男子用の水飲み場と女子用の水飲み場が設置してあるのだ。何でも、昔共同だった頃、女子が使った後に男子が殺到したというのがこうなった所以らしい。本当に馬鹿らしいったらない。
実のところ、俺は今まで恋心を抱くどころか女性を好きになったことがない。もちろん、同性愛者ではないのだが、こうやって家族同然に島で暮らしているとどうしてもそういう風には見れなかったのだ。
ただ……やはり恋愛や女性には興味がある。綺麗な女性を見たら胸がドキドキするし、女性に触れるとなると心臓が張り裂けそうになるほどだ。なので、この島を出たらまずは恋人を探すつもりである――もちろん、できるかどうかは置いておくが。




