百三十八話目
久々に音楽室に活気が戻る。誰もが楽しげにもらったジュースを片手に談笑していた。もちろんその輪の中には先生も加わっている。
「そういえば、寺野先生ってあまり部活に来ませんよね?」
「ああ、あの人はあまり部活好きじゃないみたいだから。無理強いはできないし、しょうがないよ」
桶田先輩と燐が何やら二人で話し込んでいる。すると先生が笑みを湛えながら俺の方にやってきた。慌てて頭を下げるも、それは軽く受け流される。
「だいぶ上手くなったね。この調子で頑張って」
「はい! あ、それと先生。前から聞きたいことがあったんですけど、いいですか?」
「うん? 何だい?」
「俺が観艦式に出るのに反対したのって、誰なんですか?」
すると、先生は周りをきょろきょろと見渡し、そっとこちらに囁きかけてきた。
「実はね……寺野先生なんだよ」
「ええ!?」
「しっ! 静かに!」
バッと凄い勢いで口を押さえられた。どうやら周りの部員たちは幸いにも気付いていないらしく、俺たちはそっと胸を撫で下ろした。
「ほら、観艦式って大勢の人が来るでしょ? だから、そこで言い方は悪いけど無様な演奏をしたくなかったんだって。俺よりも先輩だから、発言力もあって中々丸め込むのには苦労したけど」
「そうだったんですか……」
「でも、今のレイなら大丈夫だよ。もう最初とは比べ物にならないぐらい上手くなった」
やはり褒めてもらえるというのは嬉しいもので、照れくささで顔が少し赤くなるのがわかった。そして一応念のため……
「あの、俺って今チューバ吹きとしてはレベルどれくらいですか?」
「レベル? 二」
クイズ王も顔負けの即答だった。もし、MCたちが今人間体だったらきっと腹を抱えて大笑いしているだろう。それほどきっぱりと、堂々と告げられたのだ。
「ち、ちなみに上限は? 十ですか?」
「百」
「音楽の才能は?」
「ない……あっ」
思わず本音がぽろっと出た感じだ。それがリアルな反応過ぎて泣きたくなる。
「まぁ、才能なんて関係ないんだよ。要はどれだけそれに向き合って打ち込めるかさ」
否定しないということはやはり才能がないのだろう。いや、日ごろから言われ慣れているとはいえ、音楽の道の先輩から告げられると精神的に来る。
「そんな顔しないでよ。俺だって才能なんてものはないさ。というか、プロの音楽家だって天才と言われるのはほんの一握り。それこそ歴史に名を残せるぐらいの人たちさ。ただ、才能っていうのは一つじゃない。別のアプローチもあるってことさ」
「ハハハ……ありがとうございます」
やはり才能がないのか……いや、てっきり俺がうぬぼれるのを防止するためにMCたちは何度もあのように言っていたのかと思ったが、どうやらそれは希望的観測にすぎなかったらしい。
あまりに辛すぎて、先ほどから摂取していた水分が目元から流れていく。もはや差し引きゼロどころか、むしろ気分的にはマイナスだ。ただ、これで心が折れなくなっただけ、あいつらからしごかれている甲斐があったというものだ。いや、勿論辛いのだが。




