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百三十四話目

『さ! ご飯も食べたところで午後からも張り切っていこう!』

 いつになくスーは饒舌で、元気いっぱいだ。おそらく俺たちを気遣っての事だろう。チューバのスタンドの付喪神ということもあってか、サポートをするのが得意なようだ。

 正直、これまでは快活な彼女をMCがリードしていると思っていたが、違う。彼女たちはいわゆる天秤のようだ。どちらかが傾けば、反対側が比重を変えてバランスを取る。それが結果的に絶妙なバランスを保っているのだ。

「ああ、よろしく頼むぜ?」

『……はい』

 まだ機嫌が悪いようだが、もう構ってはいられない。もう時間がないのだし、もしそうすれば彼女はそれに対しても怒りをあらわにするはずだ。今はただ、出来ることをするだけである。

「……っし。いくか」

 もう準備は万端だ。心のエンジンがかかり、今にも暴れ狂いそうである。

 まず目をやったのは、一番安定が求められる刻みの部分。これは以前も注意を受けたが、まだ継続して安定を保てていないのだ。おそらく、ここが一番簡単で、それでいて難しいところだと俺は考えている。

 いったん立ち上がってメトロノームを始動させ、もう一度腰かける。ピッピッと規則正しく鳴り響く電子音に合わせて息を吸い、視線を前に向けた。

 ――曰く、演奏とは複合力だ。これまでの練習で学んだことを反芻し、複合し、昇華させる。曲というのは大体が基礎練でやることの組み合わせなのだから、これは至極まっとうな考えだ。

「――ッ!」

 やがてちょうどいいタイミングで息を吹き込み、演奏を開始する。腹筋を使い、リズミカルに跳ねるように音を奏でていく……ここまではいつも通りだ。が、今日は一味違う。さらにそれをどうすればよくなるかをあらかじめ午前中に考えておいたのだ。

 具体的には、腹筋運動と呼吸運動の連動の潤滑性を上げる。俺は大きい音を出そうとすると長く息を吸い過ぎる悪癖があり、その意気も全部吐き切れていなかった。だからこそ、それをなくす。短く吸って、短く吐く。吐けば吐くだけ息苦しくなり、その分身体が酸素を求めるので、必然的に呼吸スピードが上がるのだ。

 肺が悲鳴を上げ、腹筋がねじ切れるような感覚が体中を駆け巡る。だが、やめはしない。限界を迎えたその先にこそ、見えてくるものがあるのだ――これは、MCの受け売りだが。

 これは本当に単純だが、それゆえ意識を最後まで集中させねばならず、その上同じ譜面を何度も吹くのは精神的にクる。小一時間も経つと、体中にじんわりと汗が浮かび、息苦しさで涙が浮かんできた。

「――ッ!」

 が、止めはしない。この先に、この限界を超えた先にこそ――見えてくるものがあるはずだから。


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