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百三十三話目

「……ありがとう。少し楽になった」

『いいよ。ほら、お昼休みなくなっちゃうから早くご飯食べな』

「うん。そうするよ」

 階段を駆け上り、弁当箱を取りに行く。その時MCはもう楽器体に戻っていた――本当なら改めて謝りたかったが、仕方ない。とりあえずは昼飯を食べてからにしよう。椅子の上に置いてあった弁当箱の包みを開け、膝の上にポンと置く。

 一応これは自分で作ったのだが……やはり人に作ってもらう方が好きだ。というのも、入っているのがわかるせいであのふたを開ける時感じるドキドキがないのだ。これは少し空しい。

『……あっと。まだ機嫌なおしていなかったか』

 ぼそっと本人には聞こえないほどの声量でスーが呟いた。事情が分かっているからだろう。彼女も複雑そうな顔をしていた。

「スー。何か食べるか?」

『いいの?』

「ああ、ちょっと多く作りすぎたんだ」

 ここで俺はまたも嘘をついた。本当はそうじゃなくて、ただ食欲がなかったのだ。先ほど泣いたせいかもしれないし、単純に気分が沈んでいたということもその一因だろう。何にせよ、今は食える気分じゃなかった。

『じゃあ……この唐揚げちょうだい』

「ああ、いいよ。ほら、あ~ん」

『あ~……ん。う~ん、美味しい。レイが作ったの?』

「まぁな。姉さんと二人暮らしだと、どうも男でも料理ができないとな」

『そっか……嫌なこと聞いちゃった?』

「いいや。大丈夫だよ。気を遣わないでくれ」

 彼女に笑みを返し、ミニトマトを口に放り込む。プチリと心地よい感触が伝わると同時、甘酸っぱい味が口内に広がった。これは知り合いの人からもらったものだが、普通に店で売っているものより美味い。

「なぁ、MCもどうだ?」

『……いりません』

 どうやら先ほどよりは機嫌はよくなっているようで、返事はしてくれた。が、やはりどこかそっけない。

『ほら、MC。この唐揚げなんかすごく美味しいよ?』

『……いりません』

『そう? じゃあ、二人で全部食べちゃおっか。レイ』

「でも……」

『いいのいいの。ほら、いただきま~す』

 そう言ってスーはひょいと手を伸ばして弁当箱の中身をつまむ。しかもその度にオーバーリアクションをしてMCにアピールを繰り返していた。

「というか、お前らって食事とかどうしてるんだ?」

『別に取らなくても死なないよ? 人間の三大欲求――睡眠・食欲・性欲という概念をぼくたちは持ってないからね。ただ、たまに食事とかは嗜好品としてはいるかな』

「なるほどなぁ……でも、よかったらまた何か作ってくるよ」

『いいの? 嬉しいなぁ、こんなにおいしいご飯が食べられるなんて。あ~美味しい』

 MCは今だ楽器体のままだが、確かな手ごたえを感じているのだろう。スーはにやりと笑みを浮かべた。

『特にこの煮豆なんかすっごく美味しいのに』

 その瞬間、MCが人間体へと変化する。

『そんなに美味しいんですか?』

『もっちろん。ほっぺたが落ちちゃうよ』

『……では、少しだけ……』

『おっと、その前に』

 伸ばしかけたMCの手を掴み、スーは彼女をしっかりと見据える。

『仲直りの握手。ね?』

『……はい』

「……ああ」

 スーに促されるままMCと握手を交わす……おそらく俺たちが下にいる時彼女も泣いていたのだろう。袖が少し濡れていた。

「ごめん。何も知らなくて、ごめん。もう二度と、こんなことはしない」

『私こそ、熱くなりすぎました。ごめんなさい』

『うんうん。これにて一件落着だね。さ、ご飯食べて午後からも頑張ろう』

 そう言ってまたも唐揚げを口に放り込むスー。正直こいつがいなかったら関係は修繕できなかったかもしれない。俺は彼女に心の中で感謝を言いながら梅干を口に放り込んだ。MCは無表情で煮豆を食べているけど、心なしか嬉しそうだった。


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