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百三十一話目

 暴発した直後、その場にいる全員が不審そうな視線を俺に向けてくる。明らかにそこには不満感や苛立ちも孕んでいた。

「あ……あれ? ちょ、ちょっとすいません」

 一応断りを入れてMCの体を優しくさすり、そっと顔を近づけ小さく他のみんなには聞こえないように語りかける。

「おい……さっきぶつけたところ痛むのか?」

 だが、それに対する返答はなし。

「なあ、頼むよ。機嫌なおしてくれって……な?」

 またも返事はなし。

「樫井くん。そろそろやりたいんだけどいいかな?」

「あ、はいぃ!」

「よし。じゃあ、もう一回」

 そしていつもと同じようにリズムが刻まれ、一斉に音を奏でた。今回は先ほどよりは確実にマシだが――やはりいつもと違う。完全にへそを曲げたような音だった。

「MC頼むって。後で何でもするから」

『……本当ですか?』

 ぼそり……と俺にもかろうじて聞こえるような音量で答えが返ってきた。当然というか、怒ったような口調だった。

「本当だって。オイルも差してやるし、ラッカーで体も磨いてやる。それに管も一本一本グリス塗ってやる」

『やってやる……? 自分の立場がお分かりですか?』

「やらせていただきます」

 そういったところで彼女はふぅ、と短くため息を漏らした。と同時、感覚がいつもと同じに変わる。一応は大丈夫そうだ。

「レイ。何してたの?」

「ん? ああ、ちょっとこいつが機嫌損ねて……」

 ここで、ようやく自分が口を滑らせてしまったことに気付く。もしやこいつらの存在がばれたかと身構えたが――それは結果的に杞憂だった。問いかけてきたトラはにっこりと笑い、

「わかるわかる。たまに楽器ってすっごく機嫌悪くなる時あるもんね。そういう時は結構俺も話しかけていたなぁ……」

「やっぱり楽器ってそういうところあるよね。本当に魂を持ってるみたい」

 トラと千尋が互いに頷きあう。また、彼らだけではなく他の部員たちも一様に同じ反応を示していた。彼女たち――付喪神の存在は認知していないとはいえ、やはり楽器たちはそれなりの反応は示しているらしい。本当に人間にばれない様にしているのか疑問だ。

「はいはい。それじゃ、もう一回行くよ」

『はい!』

 威勢のいい声を響かせ、楽器をそれぞれ構える。先ほどまで談笑していた時とは顔つきががらりと変わる。まるで戦場に向かう戦士のようだった。

「一……二……三ッ!」

「――ッ!」

 今度はピッタリ、音程も音量もいつも通りだ。それを聞いて満足そうに大暮先輩は手を振って制止を促す。

「うん、今のが理想だね。樫井くん最初本当にどうしたの? 全然らしくなかったじゃない」

「いやぁ……すいません。自分の実力不足でした」

 ハハハ、と乾いた笑いを返しつつ、優しくMCとスーの体を撫でる。

 これが終わったら、まず謝ろう。それで、その後は彼女たちに尽くすのだ。

 先ほどは不注意とはいえ、大事な家族を傷つけてしまったことになる。その事実は、無性に俺の心をきつく、激しく、容赦なく締め付けた。


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