十三話目
「さて……と」
あれから家に帰ったものの、先ほどの出来事がまだ後を引いていた。仲が良いと思っていた三人にあのような溝があったとは正直意外だ。険悪と言うまでもないが以前より距離ができてしまっているのは確かである。
「大丈夫か……あいつら」
吹奏楽とは団体競技だと昔教えられた。一人でも思いが違えば全くバラバラの演奏になってしまうという……このままではそうなるのは目に見えている。
「まぁ……俺が言えた話ではないか」
中学時代を振り返ると俺は彼らのような模範的な部員ではなかった。……あくまで保身のためだが、それにも理由があったことだけは分かってほしい。
「というかまずは俺か」
他人のことを言う前にまずは自分のことだ。あの部活にはたして俺は馴染めるのだろうか?
「ひとまず……寝るか」
はっきり言って頭を使うのは苦手だ。小難しいことを考えるのは特に不得意であるのでそういう時はまず寝るようにしている。そうすると頭がすっきりと冴えるのだ。
「おやすみ……」
ひとりごちて部屋の電気を消す。すると数秒もしないうちに俺の意識は闇に飲まれていった。
……気づけば俺は中学校にいた。そしてそこにはよく知った人物たち――余り思い出したくない人物たちがいてこちらを意地の悪い視線で見ている。
「お前そんな夢持っているのか?」
嗚呼……またこの夢か。全くまだ苦手意識が抜けていないとは我ながら情けない。
「お前がそんなものになれるわけがないだろ?」
「馬鹿な夢持ってんじゃないよ」
「いい加減現実を見ろよ」
五月蠅い……五月蠅い。
「自分をどれだけ過大評価しているんだ?」
「俺だったらそんなことは到底できないね。さすが」
「もうさ……お前見ていると痛々しいんだよ」
五月蠅い……五月蠅い……!
「そんな夢……早く捨てちまえ」
「黙れえええええええええええええええええええええ!」
耳をふさいでも脳に直接流れ込んでくる。彼らに殴り掛かっても靄のように消えてまた囁きかけてくる。そして彼らが最後に何かを言おうとしたところで――ようやく目覚めた。あれからまだ数時間から経っていないというのにまるでフルマラソンを完走したように汗をかいて息を切らしている。
「クソ……最悪だ」
今の光景には見覚えがある。俺がまだ中学一年のころだ。あの時のことが今でも忘れられないのだ。
中学に入った後俺はサッカー部に入部した。そして……それから数か月のうちに後悔する羽目になってしまった。
入部して、自分の夢を聞かれたとき答えたのだ――サッカー選手になりたいと。
だがそこで俺を待っていたものは嘲笑と蔑みだった。同級生は全くそういうことをしなかったのだが、上級生は違った。特に三年生だ。
顔を合わせるたびに俺を笑いものにし、わざわざ人がいる前で俺の夢を声高に叫んだ。そしてそれを面白おかしく拡張して話すのだから余計たちが悪い。
結果的に俺は夢を失った。精神的にも肉体的にも削られた。具体的には明らかなオーバーワークを強いられたせいだ。おかげで俺の膝はもう二度と使い物にならない。
「馬鹿が……忘れろよ」
もう過ぎ去ったことだ。気にしても仕方ないというのは分かっている……がいつまでもそれは俺の心にヘドロのように溜まったままだった。




