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百二十四話目

 順調に講評を終えていき、とうとう口咲先輩の番になった。先輩はやや浮かない表情をして楽器を構えている。なんだか吹くのをためらっているようだ。

「じゃあ、お願いします」

「はい」

 地面に対して水平に構えられる楽器。しばらくしてそこから音が響いてきた。

 優しく響き渡る良い音だ……だが、やはりこの曲とは色が合っていない。軍歌というよりはどことなく柔らかくて暖かい感じがする。それは他のみんなも同様だろう。先輩に気を遣ってかそんな表情は見せないが、やはり反応が芳しくない。

 やがて最後の章節を終え、さげられる楽器。自分でも満足がいかなかったのか、口咲先輩は悔しそうに顔を歪めている。だが、そんなことなど関係ないと言わんばかりに講評は開始される。

 決して意地悪をしているわけではない……が、もし俺があの立場だったら死ぬほど嫌だ。自分でも悪いということがわかっているのにそれを指摘されるというのは中々に辛い。それこそ、心が壊れてしまうほどに。

 そしてとうとう俺もそれに加担するときが来てしまった。

「やっぱり曲調に合っていない時があります……でも、一ついいですか? 昔俺が聞いた時は合っていたはずなんですが」

「それってまだ基礎練ばかりしてた頃?」

 上村先輩に頷きを返す。すると、なるほどといったように口咲先輩以外の全員が頷いた。

「言われてみれば……確かにそうだね」

 先輩はしばらくぼやいたかと思うと、ハッと目を見開いて告げた。

「もしかして先輩……最初からセカンドをやるつもりで……?」

 返されるのは小さな頷き……それが契機となってその場の空気ががらりと変わった。

「一年生はまだ知らないだろうけど、基本今までは年長者がファーストをやってたんだ。だから、私はいつもセカンド。トランペットは人気があっていつも上には先輩がいたから必然的にそうだった。でも、小林先生は違う。実力がある子や適性がある子をファーストにしれくれる……だから」

「だから、自分は身を引こうとしたんですか?」

 そう告げたのはトラだ。小さく震え、思い詰めたような顔をしている。

「そうだよ。客観的に見ても、小坂君の方が今回の曲には合ってる」

「そんな……」

 トラが絶望的な表情になってぼそりと呟く。それからは誰も、何も話さなかった――いや、話せなかった。


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