百二十三話目
奏でるのは一定のリズムの刻み。だが、ただ淡々と吹くのではなくそこに音楽を作っていく。弾むような音をイメージし、軽快かつ荘厳さを持って。聞いている人たちが思わず行進してしまう――そんな演奏を目指しながら。
視界に入れるのはメトロノーム。耳に入れるのは自分の演奏と正確に叩かれるパーカッションの音のみ。こちらに視線が注がれているのをなるべく意識しないように、緊張しないようにやって……ようやく最後の小説を終えた。
汗がどっと噴き出てきて、手のひらに汗がにじむ。緊張の糸がほどけたからか、全身に入っていた力が抜けた。
「うん。ありがとう。それじゃ、講評タイムね」
真っ先に手を挙げたのはトラ。こちらを不思議そうに見つめながらも口を開いてきた。
「まず力はいりすぎじゃない? いつも通りじゃなかったよね?」
「う……む」
「もっとリラックスしなきゃ。そしたらもっといい演奏になると思うよ?」
「……ああ! ありがとう!」
「あ、じゃあ次いいかな?」
手を挙げたのは千尋。なにやら俺の楽譜を覗き込んできている。
「もう少し軽快にした方がいいと思うな。ほら、楽譜にも書き込んでるじゃん」
「……確かに……次は気を付けてみるよ」
「それじゃ私も言わせて。なんだか少し走り気味かも。途中先輩が叩くのに合ってなかったからもっと意識するといいよ」
「了解。今度はそれも意識してみる!」
燐と千尋の指摘を受け、楽譜に新たに書き込む。するとしばらくして、口咲先輩が声を上げた。
「あの、音が若干ばらけてない? 一定じゃないと聞いてて気持ち悪いよ」
「はい! やってみます!」
威勢のいい返事をし、急いで書き加える。
「後さ、全体を通して気負い過ぎな気がするな。今も合奏中も。言っちゃ悪いけど、樫井くんが素人で下手なのはわかってるからさ。間違ってなんぼくらいに開き直ってもいいよ」
「は、はい! ありがとうございます!」
なるほど、この好評というのはなかなかいいものだ。自分では気づかないところが見えてくるし、客観的な意見というのはそれだけで十分ありがたい。
「じゃ、次は燐ちゃん。よろしくね」
「はい!」
今度は燐の番だ。書く手を止め、気持ちを切り替えて聞くとしよう。きっと聞くだけでもいい練習になるはずだ。




