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百二十二話目

「さて、それじゃあパート練始めよっか」

『お願いします!』

 上村先輩の合図に一斉にほかの部員たちが頭を下げる。本来ならこの中では一番の年長者である口咲先輩が進行を務めるのだが、本人が辞退したため次に年上である彼女が選出された。

 ただ、賢明な判断ではあると思う。口咲先輩とトラの関係は――険悪とはいかないまでも円滑なものではない。その時にまっとうな判断を下せるかと聞かれれば、今の精神状態では不可能だ。

「さて……それじゃまずはそれぞれの楽器ごとにやってみようか。みんなで聞いて、足りないところを言い合っていけば、自然と弱点も見つかるんじゃないかな?」

「一人で吹くんですか?」

「ああ、違う違う。一応私はリズムを刻んでおくから。メトロノームと並行してね」

「なるほど……了解しました」

 その言い分に凛も納得したようだった。しばらく先輩は悩ましげに眉をひそめた後、ピッと千尋を指さす。

「じゃあ、千尋ちゃん。お願い」

「はい!」

 すかさず構えられるトロンボーン。背筋がピンッと伸びる様は見ていてとても気持ちがいい。姿勢に関してはこの部活内でも一、二を争うほどいいのではないだろうか? おそらく体幹がいいのだろう。

 案外姿勢というのは馬鹿に出来ない。演奏している時はお客さんに見られるから見栄えがいいし、かつ体に息が入りやすくなる。おまけに音も飛びやすくなる――特にトロンボーンのようにベルが前を向いているタイプならなおさらだ。

「はい。一……二……三ッ!」

 そして開始される演奏。千尋は最初こそこの独奏に戸惑っていたようだったが、演奏が開始するとその名残りすら見せず堂々と吹いてみせる。軽快に、かつ繊細に。本当に軍楽隊が行進しているような、そんな気品が感じられた。

「……ん、ありがと。じゃあ、講評タイムね」

 演奏が終わると先輩は俺たち全員にそう語りかける。千尋は安堵からか胸を撫で下ろしていた。

「あの、たまに音がぶれなかった? 何だか百発百中って感じはしなかった」

「あ……確かにそうかも。ありがと、トラ」

「はい、他は?」

「あの、今回だけかもしれないんだけど音が固くなかったかな? 緊張した音というか……伸びやかさがなかった気がしたよ」

 次に口を開いたのは燐だ。的確なアドバイスに千尋も感嘆の声を漏らし、礼を言ってから楽譜に書き込む。

「後、スライドがもたつくときがあるから注意した方がいいかも」

「はい!」

 口咲先輩の助言に威勢のいい声を返し、頭を下げる千尋。上下関係というのはこの部活内でも存在し、何気に厳しかったりする。ただ、演奏に関しては互いに真摯に向き合うので今回のトラたちのような件が起こったわけだ……まぁ、これも先輩たちからの受け売りなわけだが。

「じゃあ、次は樫井くん。よろしく」

「はい! ……っと、あまり俺は深いことはわかんないんだけど、表現もつけていてよかったと思う。反省点はわからなかった……ごめん」

「いやいや、いいんだよ。講評っていうのはあくまで良い点と悪い点を見つけることなんだから、ただ今回は反省点を見つけるのが目的だからね? ま、まだ始めたばかりだからわからないもんね。わかるわかる!」

「……はい、ありがとうございます」

「じゃ、最後は私かな? もしかして緊張した? 何だかそんな気がしたんだけど、本番はこんなものじゃないから。演奏面だけでなくこういったメンタル面も鍛えていくようにしましょう」

「はい!」

 これで千尋の講評は終わったわけである。するとすぐさま先輩は俺を指さし、

「じゃあ、次は樫井くん。まだ講評上手くできないよね? だから、演奏面を今回はがんばって!」

「はい! お願いします」

 改めて深呼吸を繰り返し、ギュッとMCを抱きしめる。

「さぁ……行こうぜ? 相棒」

 そう呟いた瞬間――なぜだか力が溢れてきた。体中の血が沸騰し、煮えたぎるような感覚。気づけば俺の口角はつりあがり、不敵な笑みを浮かべていた。


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