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百二十一話目

「よしっ! 全員揃ったみたいだからそろそろ午後の合奏始めようか」

『はい!』

 音楽室に威勢のいい声が響き渡る。先ほどのミーティングはどうやら後は引いていないようだったが、果たして演奏は如何なものか。もし午前と同じようなら、先生の雷が落ちるのは間違いない。

「じゃ、最初から。本番だと思って! 一発で成功するように!」

『はい!』

「一……二……三ッ!」

 四拍目で大きく息を吸い――五拍目で一斉に吹き始める。

 午前よりは……いいが、なんだか無理をしているように感じた。トランペットは合わせてるように聞こえるだけだ。根本は違う。まるで別々の方向を向いているかのように聞こえる。

「……」

 しかし先生は何も言わない。演奏も止めない。それは二人の努力が見られるからなのか、それともこれを終えた後に言うつもりなのか……。

『……レイッ。集中集中』

 ぼそりと、スーが呟いた。確かに人のことを気にしている場合ではない。俺だってまだ完ぺきではないのだから。

 大きくブレスを取って思考をリセットし演奏を再開。午前で注意されたことや常日頃から二人から注意を受けているところに意識して丁寧に、しかし力強く吹いていく。そうしていくうちに、とうとう演奏は最後まで到達。ゆっくりとその指揮棒が下ろされた。

「ふぅ……」

 溜まっていた息を吐いて額に浮かんでいた汗をぬぐう。合奏後はいつもこうだ。三分間ずっと集中力を持続させ、ほぼ休みなく吹くのはかなりきつい。

「……うん、まぁいいかな。午前よりは、マシ」

 先生がそんなことを言ってみせる。しかし、やはりどこか満足がいかないというように首を傾げていた。見ればほかの先輩たちもそこまではしなくても苦い表情を作っている。

「……うん、決めた。もう今日は合奏しない」

「えっ!?」

 声を上げたのは桶田先輩だ。信じられないというように目をぱちぱちとさせている。

「ま、待ってください先生! あと一週間しかないんですよ!?」

「じゃあどうする? 演奏にしこりがあるまま続けてそれが癖になったら? 完全に合っていない――自分たちですら納得できない演奏でお客さんを満足させられるのかな?」

「それは……」

「別に本番までずっとしないっていうわけじゃない。ただ、今日は木管、金管、パーカッションで別れて練習した方がいいと思うんだ。トランペットの二人はがんばってくれているけど、まだまだ足りない。行き詰った時こそ原点回帰すると何か見えてくるものもあるんだよ?」

 その言い分にみんなは戸惑いを隠せないようだったが、一人また一人と頭を垂れる。それを見て先生はニッと笑い、

「じゃあ、今日はこれで終わります。ありがとうございました!」

『ありがとうございました!』

「あ、そうそう言い忘れるところだった。木管は部室で、金管とパーカッションは一緒に音楽室で練習するように。それと……みんな今日は一つ自分に何かしらの誓いを立ててみてほしい。曲調をつけるとか、リズムを正確に刻むとか、本当に何でもいい――自分に足りないところであればなおいいけどね。そして、できれば明日の合奏で改善したところを見せてほしいんだ。いいかな?」

『はい!』

「よし、いい返事だ。期待しているよ」

 そう言って先生はすたすたとドアの方へ向かってこの部屋を後にする。それと同時、俺たちも一斉にパートメンバーの元へと向かっていった。気のせいか、先ほどよりも気合に満ちている――そんな気がした。


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