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百二十話目

「……はい、できます」

「……俺も、大丈夫です」

 先生の問いに二人はそう答えた。だが、やはりきつそうに見える。それはそうだ。こんな形で迷惑をかけてしまっているのだから、今は自責の念に押しつぶされそうなことだろう。正直、少し同情した。

「はい、みんな今聞いたよね? 大丈夫だって。じゃあ、これからもし! そんなことがあったら……どうなるかわかるかな?」

 先生にしては珍しく、意地の悪い言い方だ。だが、こちらのことを思いやってくれているというのは何となくわかる。

「……はい。すみませんでした」

「すいませんでした」

「よし、それじゃミーティングはこれで終わり。早いところ歯磨きしてウォーミングアップを済ませておいてね? 午前中みたいな演奏は絶対にしないように」

『はい!』

「うん。お疲れ」

 それだけ言ってその場を後にする先生。それを契機として全員の緊張の糸がふっとゆるんだ。先輩たちなんかは机に突っ伏している。

「ところで、樫井。さっきの話だが、いいか?」

「あ、はい。何ですか、能代先輩」

「お前は十分よくやっている……けど、一つ文句があるとすれば無理しすぎだ。朝から晩まで練習漬けで、体は大丈夫か? 今はいいかもしれないが、いつか苦痛になる時が来るかもしれないんだぞ? 最悪……楽器が嫌いになるかもしれないんだぞ?」

 こちらを心配してくれているというのは目を見ればよくわかった。とても澄んだ綺麗な目だ。その真摯な思いに応えるために俺はふっと笑みを作り、

「ありがとうございます。気にかけて下さって。でも、大丈夫です。俺は絶対に楽器や音楽、それにこの部活の事も嫌いになったりしませんよ。確かにきつくていいことばかりじゃないですけど、それでも演奏がうまくいった時やこうやって褒められた時はすごく嬉しいですから……だから、心配しないでください」

「……そうか。いい奴だな、お前は。ま、困ったことがあったら何でも言いな。相談ぐらいには、乗ってやるよ」

「はい! よろしくおねがいします!」

 何でだろう……少し胸が熱くなった。まるで自分が機関車になったかのように何かが滾り、唸りを上げている。それがどうしようもなく心地よく、同時に嬉しくもあった。


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