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百十六話目

 放課後の部室。そこで桶田先輩によるメニューの発表が行われていた。

「……っと、今日は職員会議があるそうなので合奏はありません。各自個人練と合わせに使ってください」

『はい!』

 返事をしてそれぞれ楽器たちのもとへと向かっていく。気のせいか、口咲先輩は安堵したような表情を浮かべていた。やはり合奏の最中一人指名されるのは先輩でも――いや、先輩だからこそより嫌なのだろう。気持ちはよくわかる。

「……っといかんな。人のこと気にしてる場合じゃないや」

 急いで二人のもとによってベランダに連れていく。ここがもう俺のポジションとなっていた。外だとダイレクトに自分の響きがわかるし、何より風景が綺麗だ。夕焼けに映える楽器と言ったらもう……言葉にできないほど見事なものだ。

『で、今日は何するの?』

 と、そこでスーから指摘を食らう。どうやら一瞬トリップしてしまい、彼女たちに迷惑をかけてしまったようだ。反省しよう。

「ああ、今日は合奏がないらしいから気になるところを重点的にやろうと思う。特に音を弾ませる練習かな?」

『それはいいですね。じゃあ、アドバイスを一つ。弾む音を吹くときはスーパーボールが跳ねるイメージを持ちましょう』

「スーパーボール? それってあの夜店とかで売ってるあれか?」

『そうです。他にもいろんなボールや跳ねるものはありますが、あれほど理想的なものはありません。軽快でリズミカル。何より重たく引きずるような感じは一切ないのが好印象ですね』

 むぅ……なるほど。確かに言われてみるとそうだ。

 彼女たちにしてもそうだが、音楽に携わる者たちは身近にある物すべてを演奏につなげ、昇華させようとしている。もちろんすべてが適応されるわけではないそうだが、絶対に無駄にはならない。俺としてもその姿勢は徐々に身に着けていかなければならないと考えているが。

『それじゃ、急いでやろう! 善は急げってね!』

「おう。今日はやる気一杯だな」

 それに彼女はふふっと笑い、しばらくして黙りこんだ。一方MCはすでに準備万端だったらしくまだかまだかと催促してきた。本当に人使いが荒い奴らだ……ま、悪い気はしないが。

「んじゃ、まずはマウスピース練習を……」

 パァンッ!

 と、そこで突如響き渡る何かの破裂音。少し遅れて誰かの叫び声も聞こえてきた。

「っ!? 何だ!?」

 彼女たちを中に避難させると同時、そちらに急行する。するとそこで繰り広げられていたのは、いわゆる修羅場だった。トラが何やら近くの壁に背中を預けており、その向こうでは口咲先輩が泣きじゃくっている。その周りには何人かの先輩たちも見えた。

「な、なぁ。何が……」

「何でもない」

 トラの声は普段とは比べ物にならないほど冷たく、暗いものだった。辛そうに楽器を握りしめるその姿は寂しげに、儚げに俺の目に映る。

「……はいはい。みんな練習に戻って。それと、ペットの二人はこっちに」

 桶田先輩の鶴の一声によって全員その場から離脱する。気づけば遠くの空にはどす黒い雨雲が見えた……まるでそれは何かの暗示であるようにも思えてしまった。


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