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十一話目

「はい。それじゃ今日はこれまで。ありがとうございました」

 無事入学式後のレクリエーションも終わった。どうやら今日は早めに帰らせてくれるらしい。意外にも粋な計らいだ。

「小林先生。今日部活はありますか?」

 声のした方向を見るとトラたちが小林先生の周りを取り囲んでいた。早くも部活に参加する気満々らしく全員目がギラギラと輝いている。

「悪いね。今日はないんだ。体育館から音楽室まで楽器運ぶ必要もあるからね」

「じゃあ私たちも……」

「いや、それはありがたいけど遠慮しておくよ。正式に入部してからバリバリ働いてもらうからね?」

 千尋の提案をあっさりと断り先生はカラカラと陽気に笑う。

「まあ、今からちょっと時間があるから聞きたいことがあるならどうぞ……よければ樫井くんもね?」

「レイでいいですよ。そのほうが慣れてます」

「じゃあレイもおいで。俺で答えられることならなんでも答えるからさ」

 その言葉に頷き俺も先生の近くに歩み寄る。意外に背は俺と同じくらいだ。演奏をしている時はもっと大きく見えたのだが……。

「部活って毎日あるんですか?」

「もちろん。放課後から夜の六時まで……まあこれはあくまで目安だけどね」

「土日練習はありますか?」

 さすがというか燐はしっかりしている。部長をしていたからなのかそう言ったスケジュール面にまで頭が回っているとは正直恐れ入った。

「まあね。朝からだったり昼からだったり……それこそ一日使ったりね」

 一日……。長いな……。

 てっきり吹奏楽部とは他の運動部に比べて楽だと思っていたがどうやら認識を改める必要があるらしい。かなりハードのようだ。

「ジャンルはどうなんです? 演奏するにあたって」

 そこに千尋が割って入る。確かにそこは誰もが疑問に思っていたことだろう。

「ジャンルとしては何でもアリ。クラシックだったりさっき見たなポップスやアニソン。それからジャズだって何だってやるよ」

「コンクールには出ないんですか?」

「もちろん出るよ。でも、俺たちが目指す吹奏楽はちょっと違うんだ」

「それはどういうことです?」

 トラが不思議そうに首を捻る。漫画であれば頭から煙が出ていると思えるほど考え込んでいるようだった。

「そうか……この際だから教えておいた方がいいかもね。俺たちの吹奏楽部があるのは島だ。当然他の高校とは違うよね?」

 俺たちが頷いたのを確認し、

「だからさ、当然来る人も限られているんだ。それに地域と密接につながっているってこともあってどっちかとエンターテインメント的要素を強めているんだ」

「それがさっきの演奏というわけですか……」

 見れば燐は難しい顔で考え込んでいる。残念ながら俺にはその真意を読み取ることはできない。

「そう。俺たちが目指すのは……楽しい音楽。観客も、演奏者も、その場にいる全員が一体になって楽しめるような音楽なんだ」

 心底嬉しそうに語る先生。きっとそれだけの情熱をもってこの仕事に当たっているのだろう。そうでなければこんなに熱く語ってくれるはずがない。

「確かに普通の吹奏楽とは違う……でもいいじゃないか。音楽に決まった形なんてないんだよ。吹奏楽の意味って……知ってる?」

「意味? ……すいませんどういうことですか? ただの演奏形態ってことじゃないんですか?」

 ふふっと嬉しそうに小林先生は笑い……両手をバッと宙に広げた。まるでそこが彼のステージであるかのように。

「吹いて……奏でて……楽しむ音楽ってことさ」


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