百六話目
「さて……とりあえず今朝は音感を鍛えるってことでいいのか?」
『ええ。ただし軽めにして曲練を中心とします。これはこれからも変わりませんのでご注意ください』
「ん、了解。で、何をすればいいんだ?」
『そうですね……まずは昨日やったみたいに音階を口でやってみましょうか?』
だが、そこで俺は首を捻り彼女に無言の否定を見せる。すると彼女の方も気付いたらしく、優しげな笑みを浮かべて問いかけてきた。
『どうしましたか? やはり不安ですか?』
「まぁな。あまり歌は得手じゃないから……」
『そのようですね……もしかして、あまり歌を歌ったりする機会はないんですか?』
「ああ、そもそも下手だし……」
だが彼女はそこで俺の言葉を遮った。
『いえ、よほど潜在的に下手以外は回数次第でどうとでもなるのですよ。おそらくレイは楽器も吹けて音感もある方なので、足りないのは反復かと』
正直意外だった。確かにあまり歌を歌う機会がなかったとはいえ、それがこれに起因していたとは。
『ま、徐々に慣れていくよ。さ、やろやろ』
椅子に座ったスーがプラプラと手を振りながらそんなことを言ってくる。相変わらず気楽な奴だなぁ……。
『まずはやってみることが肝要なのです。それから軌道修正を行っていけばいいので間違いを恐れることなく続けていきましょう。努力に勝る才能なし……です』
「ああ、わかった。それじゃ……」
手始めに声を出す。二人は困ったような顔をしていたものの、俺がやる気になったのを感じてくれたのだろう。やがて嬉しそうな笑みを浮かべてサムズアップをしてくれた。




