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百五話目

「……よし、んじゃまた明日な」

『あ、ちょっと待ってよレイ』

「ん?」

 もうすでに帰り支度も終えたのでその場を後にしようとした俺はスーから呼び止められてしまう。何事かと思っていれば人化した彼女は何やら棚を漁り、しばらくしてこちらに向かってきた。

『はい、これ。使ってごらん』

「こ……コルューブンゲン? なんじゃこりゃ?」

『まぁ基本は基礎練本みたいな感じかな? でも、そこにあるコンフェージュっていうのはやってみるといいよ。自分で声を出してやってみるんだ』

「へぇ……つまりドの音の時はドを歌うってことか?」

『そうそう。自分の口で出来ないのに楽器を使って吹けるわけがないしね。とりあえずそれを使ってみるといいよ。今試しにやってみて』

「まぁ、もうみんな帰っちゃったし大丈夫か」

 俺がそう言った理由は主に二つ。一つはこいつらの正体がばれないため。そしてもう一つは……

『早くした方がいいのでは? あまり遅くなってはお姉さまが心配するでしょう』

「……わかったよ」

 思考を遮られ渋々相槌を打つ。そして大きく息を吸い、

「あ~~~~~~~~~~!」

 ドの音階をイメージしながらのびやかに歌った――直後、

『――ッ!?』

 目の前の二人が目を見開きとっさに眉根を寄せた。無論その原因はただ一つ。

 俺の歌が壊滅的に下手だということだ。

『これは……』

『ど、どうしよう……MC?』

「悪かったな……下手で」

 だが、そこで二人は目をギロリと輝かせてこちらを睨みつけてきた。思わずゾクリと背筋が凍る感覚――これはよく知っている。大体二人からこういう雰囲気を感じた時は、やばい時だ。

『もしかして私たちが落胆してると、呆れているとお思いですか?』

『違うよ、レイ……感動に打ち震えてるのさ。また教え甲斐があるということがわかってね!』

「ひっ……」

 にじりにじりとこちらに詰め寄ってくる二人……完全に目がイっており鬼教官モードに入っている。俺はただその場で小さく震えることしかできなかった。


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