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百四話目

「えっと……耳を使って……っと」

 チューナーを耳に当てながらマウスピースを吹き鳴らす。実はこれも先ほど先輩から教えてもらったのだが、チューナーを使っても音感を鍛えることはできるらしい。まだ隠された機能があったのかと、思わず感嘆してしまった。

「むぅ……にしても難しいな」

 言うは易くするは難しという言葉がこの練習にはぴったりだ。耳を使って合わせればいいという単純な話ではなく、かなりテクニックを要求される。軽く眩暈を覚えてきたほどだ。

『どうですか? 調子は?』

「みたらわかるだろ? からっきしだよ」

 問いかけてきたMCに返答し、再び練習に取りかかる。彼女としてもそうされるのはわかっていたらしく、小さくため息を漏らすだけだった。

『ですが、いい兆候ですね。チューニングを重点的にやるように言われたということは』

「? どういうことだ?」

『何でもありません。言ったらまた調子に乗るかもしれませんから内緒です』

「大丈夫だって。話してくれよ」

『ですが……』

『まぁまぁ、いいじゃん。たまにはこういうプラスのことを言った方がモチベーションも保たれると思うよ?』

 スーの援護射撃が入りとうとうMCは折れ、諦めたように口を開いた。

『チューニングの練習を指定されたのなら、近いうちにまたロングトーン……上手くいけば合奏を視野に入れているということです。おそらくだいぶ力がついてきたと判断したのでしょう。とりあえず参加できる条件はなるべく整えておきたいというのもあるかもしれませんね』

「……それ本当ならすごく嬉しいんだが」

『たぶんそうだろうね。あのロングトーン聞いていて一番劣っていたのは確かに音程ピッチだったけど、それ以外は下手な部員クラス。初心者クラスじゃなくなってたもんね』

「それ褒めてるのか? けなしてるのか?」

 だがそれにスーはカラカラと快活に笑うだけである。全くこっちの気も知らないでいい気なものだ。

『ですが、これで慢心してはいけませんよ。何回も言ったことかと思いますが、人間は満足した瞬間から成長は止まります。音楽に完成なんてことは絶対にありませんし、絶対というのもありません。要はどこまで追及、探究できるかが試されるのですよ』

 彼女の言い分に思わずごくりと生唾を呑む。これを聞いたらMCがどうして俺に話したがらなかったのかわかったような気がする。以前言われたことだが、俺は調子に乗りすぎるきらいがある。もし今注意を受けていなかったら確かに満足してしまっていただろう。やっぱりこいつらがいてくれてよかった。

『あ、それとさっきの演奏で気になったんだけど、レイ音量小さいね。というか、大前提として響いていないし遠くに飛んでいない』

『それに一定した音量ではありませんでしたね。低い音ほど大きくて高い音ほど苦しそうで掠れていました……っとまぁ、このように反省点はまだまだ山ほどありますので気を付けるように』

「……ああ! ありがとな」

 自分のレベルが上がったということが知れたのはよかった。それと、まだまだ先は長く遠いということも。ただ一つ文句を言うとするならば――どうして二人はいつもあげて落とすスタイルを取るのか、ということだった。


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