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百三話目

「ダメダメ。もっと耳をよく使って! しっかり聞けば合わせられるから」

「はい!」

 とは言ったものの……やはり難しい。音を聞き取るのもそうだが、何よりマウスピースだ。最初ずれていたものを直そうとするとぶれるし、聞いているうちに合っているかという疑念が沸いてきてしまう。

「まぁ、とりあえず今日はこの辺にしようか。私も自分の練習をしないといけないから。お疲れ様」

「ありがとうございました!」

 タオルを渡しつつ頭を下げると、彼女はニコリとこちらに向かって笑みを浮かべてきた。

「いいって。最初からすぐにできるとは思ってないから……あ! 別に悪い意味じゃないよ? できないのが普通だから」

「はぁ……そういえば、どうしてピアノを使うんです? 他の楽器じゃいけないんですか?」

「理由としてはいくつかあるんだけどね。一つはピアノは音程が管楽器に比べて安定しているっていうのが大きいかな? これは最近調律したばかりだからなおさらね」

「へぇ……知らなかったです」

「うんうん。結構チューニングの練習なんかでは使ったりするんだよ。打楽器――特にシロフォンとかを使ったりする部活もあるって聞くけど、うちはピアノかキーボードだよ」

 なるほど……部活によって違ったりするのか。ということは、別の学校を調べるのもいい練習になるのでは?

「それと、他の理由としては単純に私がピアノに慣れてるってこと。それと、これならほかのパートから楽器を借りなくていいからね。そういうことだよ」

「え? 先輩ピアノ弾けるんですか?」

 それに対して彼女はゆっくりと自信ありげに頷く。

「もちろん! 一年前の地区大会ではピアノをやったんだよ?」

「ピアノも使えるんですか?」

「そうそう。吹奏楽って意外に自由度が高いんだよね。私が知っている限りはエレキベースやピアノ。ヴォーカルなんてのもいたなぁ……どれもハイレベルだったよ」

「なんだか楽しそうですね」

「すっごく楽しかったよ! こっちもいい刺激を受けたし、ぜひともあの経験をしてもらいたいぐらいだよ!」

 当時のことを思い出しているのだろう。目をキラキラとまるでロボットアニメを見る少年のように輝かせて先輩は告げる。見ているこちらまで楽しくなりそうだ。

「あぁ、そっかぁ。樫井くんは初心者だからこういう話聞くのも初めてだよね?」

「はい。とても新鮮です」

「だよねだよね! 部活がひと段落したらこういうお話もしてみたいねえ……後輩とコミュニケーションを取るのも大事なことだから。まぁ、そんな名分は関係なくただ話したいだけなんだけどね!」

 カラカラと上機嫌に笑う桶田先輩……だったが、わざとらしく咳ばらいをした口咲先輩の姿を見て、肩をすくめてちょいと舌を出す。部長だというのに、威厳がないというか何というか、子供っぽい人だ。


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