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百一話目

「それじゃ、これでロングトーンを終わります。後は個人練。時間になったら合奏を開始します」

『はい!』

 一斉に唱和し、そこからはバラバラにそれぞれの持ち場へと戻っていく。当然俺もMCとスーを抱えて音楽室を後にしてベランダへと向かっていた。夕焼けが照らし出すあの場所が、何よりのお気に入りの場所なのだ。俺も、こいつらも。

「ふぅ……疲れた」

 二人をゆっくりと下ろしてゴキゴキと首を鳴らし、背伸びをする。それを終えてから小走りで準備室へと向かって譜面台とメトロノーム。それから椅子を持って再び戻った。吹奏楽というのは何かと準備することが多くて大変だ……特にチューバは。

「よし。ちょっと休憩」

 目を閉じ、椅子の背もたれに体を預ける。先ほどのロングトーンで予想以上に精神を使い、すでにボロボロだった。

『中々疲れるでしょう? 周りの音と合わせるのは』

「まぁな。というか、サポートしてくれてもよかったんじゃないか?」

『ですが、そうしたらあなたの鍛錬になりませんもの。自分でやって何かわかったことがあるんじゃないですか?』

 こちらの心を見透かしたようなMCの言葉。それに応えるためにゆっくりと目を開け、彼女たちの方に向きなおる。

「ああ。まずはピッチだと思う。それに音の安定感」

『後、姿勢も重要かも。直接関係するわけではないけど、やっぱり演奏者はエンターテイナー的側面も強いからね。あれじゃあ、お客さんに笑われちゃうよ』

 と、これはスーの意見。意外に自分で気付いていなかったところなので言ってもらえて助かった。第三者の意見というのは何をするにしても重要な位置を占めるのでそういう意味でもこいつらとは出会えてよかったかもしれない。結構遠慮なしに言ってくるので心を抉られるときもあるが、糧になるのは確かだ。

『いいですか? あなたがやっているのは練習ですからどんどんミスをして、たくさん後悔してください。それを今後に生かすことが目的なのですから恐れることはありません』

「ああ、ありがとう。お前からしてみたらどうだった?」

『そうですね……やはりまだ実力不足かと。低音というのはロングトーンでも音の基準になる場面がありますから、今のままではほかの皆さんのご迷惑になります。音がぶれるのは問題外ですし、音程がずれるのも納得できませんでしたね』

「……なるほど」

 ロングトーンなんかでも重要なのか……やっぱり大変だなぁ。わかっていたことだけど。

『ただ、逆を言えばチューバを含む低音がしっかりしていればある程度は聞ける音楽になるということです。なので、かなり重要ですよ?』

「なぁ、ちょっといいか?」

『何ですか?』

「俺の前にチューバ吹いていた人が引退してからはどうやってこの部活はやってきていたんだ? チューバ不在じゃだめなんだろ?」

 だが、そこで彼女たちは同時に意味ありげにため息を漏らす。

『ええ、そうですよ。でも、代役を呼んでいたんです。この島には何人かいますから』

「何!?」

『レイが知らないだけで結構吹奏楽経験者はいるのですよ? まぁ、チューバは少ないですが、それでもいたのでその人に代役としてコンサートなどには出てもらっていました』

「へぇ……ちなみにその人は俺より才能は?」

『比べるのも馬鹿らしくなるぐらいありましたね。彼女の方が』

 うん、希望を少しでも抱いた俺が悪かった。というか、女性!?

『そうだね~。金管は全般吹けるから時々ヘルプにも出てたし、確かにすごかったよ』

「金管全部吹けたのか!?」

『そうそう。まぁ、構造はほぼ同じといっても細部は違うんだけど、なぜか吹けてたんだよねぇ……あ! ちなみにその人の代は金賞取ってたよ。全国には行けなかったけど、九州大会でも金賞取ってた』

 さらっと言われた事実にしばし放心する。確かに内の部活にはそう言った写真が何枚か飾られてるが、まさかその卒業生がこんな辺鄙な島にいるなんて思わなかった……ってまさか、

「あのさ、俺の代役がどうこうとか前に少し話に出たけど、まさかその人?」

『たぶんね。確証はないけど、実力的に考えても年齢的に考えても間違いないよ』

「年齢的……ということはそれなりに年は近いのか?」

『うん。レイは今十五歳だよね? だから……十歳差?』

「結構ある方じゃないか、それ!?」

 さすが付喪神。年齢感覚が俺たちと大分ずれていた。これが本当のジェネレーションギャップ……って違うか。


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