十話目
入学式も終わり新入生である俺たちはそれぞれのクラスに分けられた……といっても人数が人数なので一クラスなのだが。島の過疎化はかなり深刻である。
人数比としては男子と女子がちょうど半々の五人ずつである。俺たちの学年は特別少ない世代でもあるのでこれはしょうがないことだ。上の学年は二十人ほどいるが。
「レイ。よかったね、あの演奏」
「ああ。ああやって吹けたら気持ちいいだろうなぁ……」
そうは言っているがトラもかなりの腕前である。おそらく今あの中に入っても容易に順応することができるだろう。
「で……部活は吹奏楽部でいいんだよね?」
ちなみにうちの高校にはまだ陸上部とテニス部がある。といっても陸上部は男子生徒がほとんどだしテニス部に至っては女子テニス部とまで呼ばれている。
「もちろん。他に入る気はさらさらないよ」
「よかった。それじゃこれから頑張っていこう!」
まだ入部してもいないというのにずいぶんなやる気だ。好きなことにはとにかく真っ直ぐなこいつを俺は少し尊敬している……アイドルにもそのやる気が向いていることを除けば。
とそこで俺の耳にチャイムの音が届いた。どこか懐かしいその音色が終わると同時教室のドアが開かれ二人の教師が入ってきた。一人は女性でもう一人は男性だが……その人には見覚えがあった。
「せ……先生!」
確かに吹奏楽部の顧問をしていた先生がそこにいた。にっこり笑って俺たちに手を振ってくれている。
「はい。みんな席ついて~」
やや甘ったるい声で女教師が注意を呼び掛ける。ニコニコとしていてどこか優しそうな雰囲気を醸し出している。
「改めまして。今年一年皆さんの担任を務めることになりました、寺野蒼です。担当は現代社会。よろしくお願いします~」
バリバリの猫なで声でこちらに愛嬌を振りまいてくれる。ちょっと昔のアイドルを意識しているのかな……? その割にトラは真顔で見てるけど。
「じゃあ次は小林先生よろしくお願いします」
「はい」
最初こそキリッと凛々しくキメ顔を作ったものの、すぐにへにゃっとそれを崩し破顔して口を開く。
「皆さんこんにちは。音楽教師の小林です。さっき見ている人もいたと思うけど吹奏楽部の顧問をしています。ちなみにそちらの寺野先生もそうだよ」
「そう。担当はソプラノサックス。かっこいいでしょ~?」
ソプラノサックス? サックスって一種類じゃないの?
「まあ、今年一年よろしくお願いします」
俺の考えもつゆ知らず、小林先生は頭を下げて元の位置に戻る。すると今度は寺野先生が教団の前に立った。
「それじゃあその場でいいから自己紹介していってね。たぶんみんなは同じ島で育った家族みたいなものだろうけど、先生たちは一人一人知っておきたいからさ」
これも島特有のことだと思っている。同級生の繋がりが異常に強いだけにそれを先生たちは知りたがるのだ。
そして出席番号順に自己紹介が始まる。比較的早めの出席番号である俺に順番が回ってくるのはそう遅くなかった。
ゆっくりと深呼吸をして立ち上がる。クラスの面々の視線が集まって妙に恥ずかしい気もするが……
「樫井麗一です。趣味は読書と映画鑑賞。特技は物まね。好きな食べ物は麺類全般。嫌いな食べ物は卵」
「部活はどこに入るつもりなの?」
ふいに投げかけられた寺野先生からの質問。おそらく答えはすでに分かっているのだろう。先生たち二人は温かい笑みを浮かべている。
「もちろん……吹奏楽部です」
四月――始まりの季節。そして今日この日から俺の高校生としての、吹奏楽部員としての、新たな人生が始まるのだ。




