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一話目

 聞こえてくるのは幾重にも重なりあって聞こえる楽器たちのアンサンブル。この状況からわかってもらえると思うが……俺は今吹奏楽部の練習場――体育館にいる。

 厳密に言えば今日は見学だ。友達から誘われてこれから入る予定の高校の部活に参加することになっている。今はそれについての打ち合わせの最中で、みんなが演奏しているのを近くで聞いている。

「えっと……樫井かしい君……だっけ?」

「あ、はい。樫井麗一かしいれいいちって言います。よろしくお願いします」

 部長である女の先輩に頭を下げる。その人は破顔してこちらを嬉しそうにじろじろと見ていた。

「いや〜新入部員がこんなに入ってくれるなんて思わなかったよ」

 今、俺以外に来ている新入部員は三人。しかも全員経験者だ。だが悲しいことに俺は音楽にそこまで詳しくないので何を吹いているのかがわからない。かろうじて打楽器とラッパの区別がつくぐらいだ。

「あの……俺初心者なんですけど大丈夫ですか?」

「全然いいよ! むしろそういう子ほど大歓迎さ」

 けらけらと陽気に笑っている先輩。どこか楽観的な雰囲気をその身にまといつつ――

「えっと……それでね? 今空いている楽器が一個あるんだけどいいかな、それで? 入ってもらうとしたらそれしかもうないんだけど……」

「はい、大丈夫ですよ」

「よかった。じゃあ、こっちに来て」

 促されるまま彼女の後をついていき、みんなが演奏している場所から離れた小さな小部屋に向かっていく。するとそのうち心臓がバクバクと暴れ回り始めた。緊張の瞬間である。

 どんな奴かな……カッコいい奴かな?

 一応今までは運動部だったが、音楽の授業などで楽器などについては少し触れている。それにテレビでも最近よく見ている。だからそれなりに知識はあるつもりだ。個人的には……サックスやフルート辺りがやってみたい。

 やっぱりいいもんなぁ……サックスはカッコいいジャズのパフォーマンスなんかで見たことあるし、フルートはいかにも吹奏楽って感じだし……あ! トランペットだ! それもやってみたい! 形がカッコいいんだよなぁ……。

「さて、そろそろ着くよ」

「あ……はい!」

 先輩の声で俺は現実に引き戻された。小部屋のドアがそっと開かれるとそこには――

「紹介するよ。この子が君のパートナーさ」

「……は?」

 小山のような黒い物体があった。いや、おそらくあれは楽器本体でなくケースだろう。だが……それにしても大きすぎる。大砲でも入っているのではなかろうか?

「ちょっと待ってね」

 パチン、パチンと留め金が外されていく音。そして先輩が前かがみになり何かを抱きかかえつつこちらを向いてきた。それからその物体をそっと地面に置き、

「はい、これを吹いてもらうからね」

「……はい?」

 いや、これは俺の知っている楽器じゃない。トランペットを数十倍に拡大したような、大砲のようなデザインをした楽器など見たことも聞いたこともなし、おまけに俺の知っている吹奏楽の楽器はスタイリッシュでカッコいいフォルムをしているはずだ。それなのに、目の前にある鈍い金色の物体はぼてっとしてどこか野暮ったい。

「ああ、この子の自己紹介がまだだったね。チューバっていうんだよ」

「……チューバ……」

 うん、やっぱり聞いたことがない。というかこれは本当に――楽器なのか? 普通に子どもとか殺せそうだぞ?

「じゃ、この子のこと可愛がってあげてね。樫井君?」

 どうやら俺に拒否権はなかったようだ。改めて俺は鈍い金色のチューバという楽器に視線をよこす。なぜか……聞こえてくる楽器の音がやけに遠く聞こえた。


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