表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/111

第八章 第十話 死

「ミサキ、ミサキぃッ!!」


 血の海に沈み、動かなくなった当麻光咲の身体を揺り動かし、薫は叫ぶ。

 両手が、部下であり親友であった者の血で赤く染まり、更にカオルの混乱を加速させるのだった。


 そんな中。


 ――タンッ! タンッ! タンッ!!


 いくつかの小銃の発射音が後方から聞こえ、薫の正気を呼び戻す。

 次いで、


「隊長! 大丈夫っすか!?」


 柳原の慌ただしい声が、薫の耳へと届いた。


「あ……ああ」


 寝起き直後の、寝ぼけたような不安げな返事を返すカオルに、


「薫、しっかりしろ!」


 怒号にも似た、橿原一曹の叱咤が飛ぶ。


「――はッ! い、一曹!?」


 その声に、薫の思考回路が再び正常に――いや、正常を通り越して、フル回転で仕事をこなし出した。


「クソッ、府抜けてる場合じゃねぇ……逃げるぞ。一曹、柳原!」


 薫は断腸の思いで、光咲の亡骸を放棄し、退路へと駆け出した。

 二人と合流し、改めて撤退を指示する薫の言葉に、柳原一等陸士は出口へと急ぐ――だが! 橿原一等陸曹は、敵に対して銃を構えたまま動かない。


「何してんだ、一曹! 早く逃げ――」

「俺はここで、こいつと遊ぶ。その隙にお前らだけで逃げろ」

「ハァ!? アンタ、何馬鹿な――」


 怒り交じりにそう言いかけた矢先。カオルの足元へ、橿原一曹は小銃を一発発射した!


 「タンッ!」という発射音と、「チュンッ!」とコンクリートに跳弾する音が同時に聞こえ……怒気を孕んだ「オヤジ」声が、二人に向けられったのだった。


「さっさと逃げろっつってんだろ、このバカタレ共!!」

「い、一曹……冗談が過ぎますよ」

「薫よ。オッサンが生き残ったって、しゃーないだろ?」

「ば、バカ言うなって!」

「それによ。コイツは余裕こいてか、わざわざこうして待ってくれてんだ」


 そう。白い敵は、攻撃を仕掛けてこなかった。

 その気になれば、おそらく三人まとめて軽く捻り潰せる事だろう。

 が、敵はソレ(・・)をせず、ただ「次は誰が相手なんだ?」といわんばかりの余裕を見せている。


 それはきっと、額面通り「いつでも殺せる」という余裕の表れなのだろう。


「オラ、早く行け。敵さんが痺れ切らすぞ?」

「一曹……くっ!」


 薫は駆けた。

 そして、「どうしていいのか分からない」と、棒立ち状態の柳原の腕を掴み、無理に引っ張って走らせる。


「あ、ああ……でも、鬼首ヶ原サン。橿原一曹が……」



「 走 れ ッ ! 」



 薫が声を荒げて言う。

 その一喝に、柳原一等陸士も、今、成さねばならない事に気付き、振り切るように駆けだした。


「ワリィな、白いの。待ってもらってよぉ」


 二人が非常階段へと向かうのを確認し、橿原一等陸曹は白い敵へと向き直す。

 まるで、「いいさ」と言わんばかりに、改めて橿原一等陸曹と対峙する、謎の白い敵。


 階段を駆け下りる薫と柳原の耳に、四発の小銃の発射音が聞こえた。

 後、小さな悲鳴と、何かがさく裂する音が微かに聞こえた。


「くそ……クソッ!」


 階段を下り、出口に向かったところで、おそらく敵が待ち構えているだろう。

 そう考えた薫は、


「柳原!」

「は、はいッス!」

「一階の出口はヤバい。二階から脱出するぞ」


 わずかながらの希望を掲げ、指示を出すのだった。


「了解ッス!」


 階段踊り場の「2F」というパネルに目をやり、階段から通路へと進路を変更。

 出口とは反対方向にある、半分開いたオフィスのドアへと身を滑り込ませる。

 室内に侵入した二人は、窓際へと駆けより、一旦身を隠した。


(周囲を確認しろ)


 薫はハンドサインで、柳原へと指示を出す。


(オールクリア)


 柳原が、周囲に敵が居ない事をハンドサインで返すと、静かに窓を開錠し、開ける。

 カラカラ……という小さな音が、オフィスだったであろう室内に舞う。

 そっと覗き見る外は、風の音以外、何も聞こえない状況だった。


(先に行け、柳原)


 と、薫が目線で合図し、部下を先に逃がす……筈だった。


 ――パシュッ!


 その音が、薫の耳に届いた瞬間。

 窓から身を乗り出した柳原一等陸士の腹部には、真っ赤な鮮血の華が開花していた!


「カハッ!」


 苦悶と激痛が混じる一言を残し、力無くその身体は崩れ落ち、地面へと落下した。


「柳原!?」


 薫は窓から身を乗り出し、空を見上げる。

 と、そこにいたもの。


 そのビルの上空高くに、ふわりと浮かぶ白い影。


「野郎!!」


 慌てて小銃の銃口をソレ(・・)へと向け、引き金を引く。

 しかし、白い影はその全てを受けなお、一切のダメージらしい挙動を見せる事は無かった。


「チッ!」


 無駄とはわかっていても、全弾撃ち切った後。

 ダッシュで一階出口へと向かい、逃げを打つ。


 だが――そこにはもはや、逃げ場はなかった。


「――!? 嘘だろ?」


 出口の明かりが、薫を包んだ直後。

 スタリッ! と、その目の前に降り立った白い影。


「はは……もう武器が無い。つーか、最初っからコイツに立ち向かえる武器は無かったな」


 諦め、ただ呆然と立ち尽くす薫。

 と、そんな彼に、奇妙な声が届いたのだった。


「我等が尊父より生まれし子らを数多く殺めた、害成す人の子。その罪を身に与えられ、我等が受けし悲しみを感じたや否や?」


 優しい、女性の声での、おそらくは質問。


「……は?」


 薫は思わず聞き返す。


「我等が受けし大いなる悲しみ。そなたも重々味わったや?」


 それは、脳に、もしくは心に直接語り掛けてくる言葉だった。


「な……仲間を失う悲しみ?」

「返答やいかに?」


「そんなモン、テメェが来る前に十分すぎるほど味わってるさっ!」


 薫は、噛みつくように吼え立てた。

 誰のせいで、こんな不毛な戦いを強いられていると思ってるんだ! という怒りが、無意識に、感情のままに、口から出たのだろう。


 だが、そんな荒ぶる言葉に、は満足の一端を見たのか、


「ならば良し。今ここで果てよ」


 と、薫へ向け、深紅の閃光を放つのだった。






「――ねえさま。カオルお姉さま!」

「はっ!?」


 千早の呼びかけにより、カオルは過去の思い出からへと帰還を果たした。


「あ、ああ……すまない。ちょっとボーっとしてた」

「かおりん、変だよ? まだ疲れ取れ切ってないんじゃない?」

「いや、大丈夫だ。もうなんともない」

「いや、無理はよくない鬼首ヶ原。少し横になっていろ……あと、お前のホットケーキも私が面倒みてやるから心配するな」

「あ、アホ! だから何の問題も無いつってんだろ!」


 慌てて、エリー特製のホットケーキ(追加分)を掻っ込むカオルに、


「まぁ、はしたないこと」


 と、彩香の冷ややかなツッコミが入る。


「樋野本さんの言う通り! 下品ですよ、お姉さま」

「う~……誰も取らないか?」

「わるかった、さっきのは嘘だ。誰も取らないから落ち着いて食べろ」


 カーリーの、笑顔交じりの謝罪が、カオルの食い意地を落ち着かせた。


「かおりん、もっと食べたかったら言ってね。また焼くから」

「そ、そうか。ありがとうエリー」

「まだ食べる気ですの? 鬼首ヶ原さん」

「食べ過ぎたら太っちゃうよ!? お姉さま」


 心配交じりの呆れた口調が、カオルを諫める。


 けれどカオルは、どこか神妙になって、こう返すのだった。


の分だけじゃないさ。みんな(・・・)の分も食ってやんなきゃ」


 意味不明《なにいってんの?》、とばかりに首をかしげる千早達。


 が、その言葉の意味を理解したのは、インギーだけだった。


最後まで目を通していただき、誠にありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ