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第八章 第九話 手詰まり

 けやき坂通りは、深い静寂に包まれた。

 無理も無い事だろう。

 勝利を信じてやまない一手が、シャレにならない程、モノの見事に通用しなかったのだ。

 圧倒的な絶望感が、薫の小隊の希望を根こそぎ刈り取ってしまったというべき事態である。


 が!

 微かに残った「まだ」を信じた者が、その無音という恐怖を打ち消すべく、雄叫びを上げたのだった!


「こなくそぉッ!」


 それは、薫の対面のビルに陣取っていたスナイパー――松本陸士長だった。


 次いで、「ドンッ! ドンッ! ドンッ!」という連続した射撃音が、ビルの谷間をコダマする!


 しかしながら結果は、


「松本陸士長の攻撃、着弾認められず……」


 双眼鏡を覗く当麻一等陸士から、諦めにも似た報告がなされたのだった。

 当然の事だ。

 狙いもつけずにただ乱射しただけの攻撃に、一縷の期待も望める訳も無い。

 そして、弾切れを起こしてもなお、トリガーを引く松本陸士長の姿に、花内二等陸士が慌てて止めに入る姿が、薫達から目視できた。

 再び訪れた静けさは、この二人の、一瞬先の未来を暗示しているかのよう――


 ビシュッ! ビシュッ! という、何らか(・・・)が発射された音が二つ。

 直後、「グハッ!」という短い声が、ビル群の間に残響する。


 そして、薫達の目の前に、真っ赤な鮮血の花が二輪咲いた。


「ま……松本ォッ! 花内ィッ!」


 思わず薫が叫ぶ。

 無論、その返答は返る筈も無い。


「クソッ、冗談が過ぎるぜ」


 怒りに任せ、カオルが呟く。

 だがそこには、まだ諦めは無かった。


 けれど、本人には分かっていた。

 その「あきらめない心」は、ただの無謀なだけの産物でしかない事を。


 (部下なかまを三人も失ってしまった!)


 復讐心に猛る心が、薫から冷静さを奪い取ってしまっているという、そんな状況。

 ただ、傍らの少年兵は、そんな上官とは対照的に、比較的冷静さを保っていた。


「カオルさん。ここは撤退が得策かと」

「逃げる? バカ言え! 仲間を三人も取られて、おめおめ撤退できっか……てかよ。今となりゃ、撤退こそ至難の業だぜ」

「僕が囮になります! その間に、一曹と柳原を連れて逃げて下さい」

「アホ。んな事させられ……オイッ! ミサキ! お前どこ行く――」

「アイツはヤバいです! 全滅するよりはマシでしょ!?」


 階段へと駆ける当麻一等陸曹が、振り返り叫んだ。

 その目は、仲間達のために死を選んだ「覚悟」が宿っている。


 ――が! 

 そんなミサキの足に、急な制動が掛かる!


 彼の瞳に不意に飛び込んできたソレ(・・)に、思わず足を止めたのだ。


「カオルさん、うしろ!!」


 言われる前に、薫は既に感覚で「そいつ」を察し、銃を身構える。

 そして、改めて脅威を視界に収めた。


 そこには、白い未確認目標体が、空中にふわりと浮かんだ状態で佇んでいたのだった。


「――の野郎!」


 咄嗟にトリガーを引く薫。

 「ドンッ!」と、至近距離から対物ライフルで挑む――が! 


 ――ガインッ!


 両手で弾き返された弾丸は、薫のすぐそばのコンクリートへと進路を変え、火花を上げて跳弾。何処かへとその姿を消してしまった。


「ざけんなぁ!」


 更に弾倉にある弾丸の全てを打ち尽くすも、その全部が、何処かへと弾き返されてしまう。


「うおおおお!」


 弾切れに陥った対物ライフルの銃身を持ち、振りかぶったのち、銃床の後床部分で白い目標体の頭部を殴打!


 「バキッ!」という衝撃音が鳴る。


 が、白い敵は「何かしたか?」とでも言うように、小首をかしげて、薫を見るだけ。


「はは……ハハハ。もう逆立ちしたって鼻血も出ねえわ」


 観念し、笑ってごまかすカオルを見据える、白い敵。

 そして、「これで最後だ」と言わんばかりに、顔部分にある、赤い「目」が、光を増し――


 ビシュ!


 一瞬の赤い輝きが、そこから射出された! 


(ああ。俺、死んだな)


 一切の事への諦めが、薫の心を巡った。


「カオルさん!」


 だが! そう叫ぶ声を、薫はしっかりと聞いた。

 自らに感じた衝撃は――誰かにぶつかったような、左程痛みは無いが、軽く吹き飛ばされる……といった感覚だけ。

 現に、薫は衝き飛ばされたような衝撃を覚え、尻餅をついた状態でいる。


 そう、薫は突き飛ばされた。


 そして、変わってさっきまで薫が居た其処(・・)には――


「ぐふっ!」

「ミ、ミサキぃッ!」


 胸部に被弾し、背中が炸裂した当麻光咲一等陸士が、力無く崩れ落ちていた。


最後まで目を通していただき、誠にありがとうございました!

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