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第八章 第七話 未確認物体

『ザ――薫……あ、いや隊長。今の爆発は片岡の隊だな』


 無線機越しに聞こえる、緊迫した中年男性の声。


「の、ようですね。橿原一曹」


 薫が小隊の中で一番信頼を置く、古株の軍人――橿原一等陸曹。

 隊の中で一番上の階級であるにも拘らず、「自分は技術が専門だから」と、薫を隊長に押し上げた人物である。

 彼の得意とするところは、機械全般。今回のマシンガンの一斉掃射も、彼が考案・製作した全自動射撃管制システムによるものだ。


 因みに、もし軍隊が正常に機能していたなら、きっと薫は、一曹以上の階級に身を置いていただろう。


『で、どうする?』

「どうするって……どうもこうもないですよ。俺達の任務は終了、帰還命令も出てるんです」


 一応、隊長然とした答えを返す薫。

 が、その心の内は「救助に行きたい!」という強い願望が渦巻いていた。


『ちょ、ちょっと待ってくださいよ鬼首ヶ原サン! あの隊には、俺のツレの岸田が居んスよ。助けに行きましょう!』


 薫と橿原一曹の間に割って入る声。当麻一等陸士と同い年・同じ階級の、柳原一等陸士である。

 と、その嘆願に、薫の心は見事に揺さぶられ、


「そうだな。俺だって本心を言えば、ソッコー助けに行きたい」

『なら、決まりだな』

「いいですかね? 橿原一曹」

『隊長の決断には、俺達ァ従うだけよ』

「オーライ。そうと決まれば、一刻を争う事態だ。各員! 手持ちの武器と医療キットを持って、至急救援に向かう。送れ」

『狙撃班2の松本、花内、了解。以上』

『狙撃班3。柳原、神田、了解! 以上』

『隊長。オートコントロールの89式(マシンガン)の片付けは後でいいな?』

「そうですね。そのままにしておいてください、一曹」

『了解、以上だ』

 

 プツリと切れる無線に、静寂が戻ってくる。


「いいんですか? 薫さん。撤退命令は?」

「へへ。んなモン、クソ食らえだ」


 そう言い切る薫に、笑顔で答える光咲。

 口では諫めはしたものの、彼も皆と同じ本心なのだろう。


「現場はここから1キロ先です。間に合えばいいけど」


 光咲は階段を駆け降りながら、誰もが抱いているであろう心配を零す。


「そん時ぁ、復讐戦の始まりだ」


 ギラリッ! と輝く薫の瞳の奥に、怒りが渦を巻いていた。

 「下手を打った」と非難はするものの、薫と片岡隊隊長の片岡三等陸曹は、同期の気心の知れた間柄なのだ。


(無事でいてくれ……せめて、生きていてくれ!)


 薫が心の中で叫ぶ。

 そこには、命令違反的な行動ではあるものの、軍の、そして仲間の「仁義」を通す行為という名目が、彼らを突き動かしているのだった。





 程なく現場に到着し、薫は周囲を見渡す。

 爆風で吹き飛んだ建物。大きくえぐれた道路。そこには、三式初号の残した爪痕がはっきりと残っていた。


 けれど、薫には何か引っかかるものがあった様子。


「なんか……変だな」


 そう感じるのは、彼の戦闘における独特のセンスなのかもしれない。


「どうしました? 一等陸曹」

「ああ、いやな。片岡アイツはああ見えて、有能な男だ。敵が自爆する事くらい、重々承知しているはず」

「でも、部下の誰かがミスった可能性だってあるじゃないですか?」


 「うん、そうだな」と頷くも、薫にはそう思えない理由があった。


「わざと自爆させた……?」


 ふと、沸き上がる疑問。

 彼らの手持ち武器も、89式とM4だ。が、その銃火器に、自爆へと持ち込むほどの威力は無い。

 あるのは、対物ライフルと96式40mm自動擲弾銃の直撃くらい……けれど、それらを悪魔獣の身体に打ち込むなら、コアを狙った方が確実に良いはず。

 そんな事が分からない友人ではないし、コアを狙撃できないような射撃下手でもなかった。


 なのに、自爆させてしまった。


 それが、薫には解せなかったのである。


「隊長。むこうに岸田の遺体がありましたが……」


 と、疑問に頭をひねらせている薫へ、橿原一等陸曹が「よからぬ知らせ」を持ってきた。


「死体が確認できた? この爆発で?」

「はい。少し離れた地下のバーへの階段付近に倒れてたので、爆風からは逃れられた様子何ですが……その時には、既に死んでいたようです」

「どういうことですか?」

「さぁてね。死因は胸部を何か特殊な弾丸で打ち抜かれたようですな。背中が十字に炸裂してました」

「炸裂弾? 敵にそんな武装はないはず……まさか人間が?」

「ソレはないでしょう。傷口の口径は小さかったです、そんな武器は聞いたことが無い。それに、体内爆発というよりは、綺麗に十字の形に裂かれているという感じでした」


 意味が分からないという表情の薫。が、突然にわかに曇る。


「まさか……新手の敵?」


 ――突然! 

 そんな薫へと、叫び声のような報告が届く!


「鬼首ヶ原サン! な、なんか変な奴が!?」


 それは、柳原一等陸士の声だった。

 彼は猛ダッシュでカオルの元へと駆け参じ、「何か」の襲来を察知したらしく、酷く怯え、慌てていた。


「なんだ?」

「あ、あっち! あっちに……なんか白いやつが!!」


 彼が指差す方角。彼が大慌てで逃げてきた方向へと、皆が意識を向ける。

 すると、ビルの一角からゆっくりと、人型の「何か」が現れた。


 頭部にある、真っ赤な一つ目以外は、全身真っ白な未確認物体アンノウン

 全長三メートルはあろうかという、人にしては巨躯という姿が、空中を浮遊しつつ、ゆっくりとこちらに向かってきている。


「敵……ですかね?」

「……ああ。奴は間違いなく、敵だ」


 それが、右手に握っていたモノに、薫たちは戦慄と、烈火の如き敵意を覚えたのだった。


「あ、あれは……神田サン!」


 柳原が叫ぶ。

 頭部を右手で握られ、全く動く事無く、ぶらりと垂れ下がる身体。

 そして背中は、迷彩服が十字に炸裂し、鮮血がどくどくと流れ落ちている。


「あいつが……犯人か!?」


 咄嗟に銃を構える薫。

 それに倣い、その場の隊員全てが銃を構えた。


ェッ!!」


 薫の合図と共に、集中砲火を受ける白い物体。


 しかしながら――


 そのバケモノには、薫たちのマシンガンの雨は一切通用していない様子!


「はは……片岡の野郎、そりゃあくたばる(・・・・)ワケだ」


 薫が、呆れたように零す。


 だが、その目に宿る戦意は、さらに激しさを増しているのだった。


最後まで目を通していただき、、まことにありがとうございました!

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