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第八章 第五話 チーム試験


 程なく、エリー特製の「ブルジョア・ホットケーキ(命名・鬼首ヶ原カオル)」が振る舞われた。


 三層に積み上げられた生地の周りには、生クリームがふんだんにデコレーションされており、更には縦に四等分されたイチゴたちが、まるで花々のように飾られている。

 てっぺんには、軽くとろけたバターが鎮座し、メイプルシロップのシャワーを浴びて、その存在を四方に拡散していた。


「本当はね、バターとシロップだけのシンプルなのにしようと思ってたんだけど、ついついイチゴと生クリームも追加しちゃった」


 と語る、笑顔の製作者。

 室内は、淹れ立ての紅茶の香りと、ホットケーキのほのかな甘い誘惑に満たされ、作り手であるエリーとあまいもの苦手な千早以外の甘味中枢をメロメロにしてしまっている。


「一つ仕上げるのに時間がかかるけど、順番に出すから待ってね」


 と、一言付け加えるが早いか、


「待ってらんねぇ! まずこいつを切り分けて食おう」

「賛成!」


 カオルとカーリーの甘味飢餓の度合いが、どうやらマックスレベルまで達していた様子。

 エリーが持ってきた一皿目の「獲物」に群がり、早速ナイフを入刀するのだった。


「もう、お姉さま。お行儀が悪い」

「そうですわよ、お二方。セレブ御用達のスイーツなんですから、もっとお上品にいただきましょう」

「だ、だってさ。こんなご馳走を前にして、おあずけ! なんて方が酷だぜ?」

「同じく!」


 妙なところで気の合うカオルとカーリー。

 そんな二人を、三人は「やれやれ」と呆れ半分の笑顔で見るのだった。


「くはー! 甘いなぁ。おまけに、このホットケーキのバターの効き具合がなんともいえないよ」

「あ、わかる? かおりん。そのバターはね、自家製なんだよ」


 ほっぺに生クリームを付けつつ、感想を語るカオルの言葉に、エリーは嬉しさ満開の笑顔で返す。


「じかせい?」

「そだよ。生クリームをペットボトルに入れてね、ずっとシェイクするんだ。そしたら大体10分ほどでね、バターができるんだよ」

「何それ? そんな手間かけずとも、すぐそこの『スーパーあじさい』に行けば、すぐ手に入るじゃない」


 千早の言う事は、最もだと思われる。

 寮から歩いて五分とかからない場所に、日用雑貨から食料品まで何でも揃うスーパーマーケット「あじさい」が存在する。

 そこで手軽に買える食料品を、わざわざ手間暇をかけて作る行為が「無駄」と思われたのだ


 が、エリーにとって、それはいくら相手が千早であっても、反論すべき事柄である様子だ。


「バターはね、ちーちゃん。時間を置くと、おいしさが劣化しちゃうんだよ!? そうなると、もう市販のケーキなんかと同じになっちゃうんだよ。だから、使用する直前に一から作って、おいしさをより高めたいんだ」


 いつになく熱心な言い様に、一瞬千早はタジッてしまう。


「そ、そうね……エリーの手作りお菓子は、鮮度が命だもんね」

「あ、ごめんなさいちーちゃん。つい……」


 ふと、自らの興奮気味な言葉に気付き、エリーは千早へと謝辞を送る。

 けれどそんな言葉を、千早は笑顔で否定するのだった。


「ううん。エリー。あなたが、自分を主張してるんだもん。謝る事は無いよ」

「そうだな。自分の趣味であるお菓子作りにおいてだが、自分の考えを主張するのは良い事だぜ? 他人にしてみりゃ小さな一歩だろうが、エリーにとっちゃ大きな一歩かもな」


 カオルも、千早の意見に乗っかり、エリーを褒め称える。


「え、えへへ」


 はにかんだ笑顔のアメリカ少女。

 エリーは、おそらく二人の言葉に、自分自身の新たな一面を垣間見たのかもしれない。


「新たな一歩と言えば……期末試験の後に控える、個人・チームの模擬戦試験。これが私達チームの正式な初エントリーとなりますわね」

「そだね」

「うん、そうね」

「……(こくり)」


 決意も新たに、三人が答え頷く。

 が、カオルだけは、ハテナマークを頭上に浮かばせていた。


「ちょっと待て。期末が終わったら、デモ・マガバトルのテストがあるのか?」

「あ、そうか。お姉さまは知らないのか」


 千早が、カオルの中途入学に気付き、解説役を買って出た。


「中間と期末テストの直後に、デモ・マガバトルの試験があるの。しかも、個人用とチーム……あ、チームに所属している人だけね。の、二通りの試験があるの」

「へぇ。じゃあ、今までカーリーとお嬢はチーム試験はなかったんだ?」

「そう、無かったですわ」

「……(コクコク)」

「ですから、チームバトルの試験はわたくしも初めて。楽しみです」

「まぁ、我々のチームだ。うまくやれるさ、きっと」


 と、カーリーがいつになく真剣な表情で、チーム試験への意気込みを語る。

 ……口の周りをメイプルシロップでベタベタにしながら。


「で、今までのチーム用の試験ってのはどんなだ?」

「うんとね、その都度違うけど……概ね一体の巨大悪魔獣を、チームで討伐するの。因みに、その悪魔獣は全チーム共通だよ」

「で、その時間とか、戦闘プロセスを、評価するってワケ」

「そうか。じゃあ、私達のチームだけ、特別強い悪魔獣を宛がわれるって事は無いんだな?」

「そりゃあ、ね。テストですもの」

「ただ、通常衣服ノーマルスキンのままか、戦魔形態ミレス・マガモードになるかは選択できるんだよ、かおりん」

「ふぅん。当然、変身しないノーマルスキンのままの戦闘で勝利すりゃあ、評価は高くなる……んだよな?」

「ええ、お姉さま。もしかして、そこ狙っちゃう?」

「おもしろいかもな」


 カーリーが、千早に触発されるように言う。


「またぞろ、このチームの悪い癖が芽吹きましたわね」

「樋野本。お前は慎重派か?」

「うふふ、まさか。こうでなくっちゃ、ですわ」


 にやり、と笑みを浮かべる彩香に、千早とカーリーが悪戯っぽく頷く。

 そして、自らの勇気を鼓舞するように、エリーも「ふんす!」と気合を入れる。


 やる気十分な四人。


 だが――

 以外にも、カオルだけは冷静に慎重さを保っていたのだった。


(なんだか、少しばかりはしゃいでいる気がする。戦闘ってのは、こんな感覚で挑んだら……負ける。それは即ち――)


 ふと、軍隊時代の苦い経験がカオルの脳内を過る。


(仲間である魔法少女たちを、そして自分自身を律するためにも、ここは慎重に事を進める必要があるな)


 そんな思いが、カオルの心を揺り動かすのだった。



最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

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