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第八章 第二話 敬礼

 期末試験期間の一週間前からは、生徒同士の模擬魔法闘術訓練デモ・マガバトルは基本禁止となり、午後からの魔法戦闘訓練もお休みとなる。

 これは、悪魔獣を倒した後の生徒達にも、一般教養は必須事項と考えた学園長の方針だ。


「テスト期間は戦闘訓練が出来ないなんて、なんだかもどかしいな」


 午前の授業を終え、帰宅の途に就くカオルが、誰に言うでも無く零す。

 そんな言葉を、共に帰る千早が拾い上げるのだった。


「だって、戦闘訓練も大事だけど、普通の女の子としての学業や生活も必要だよ? お姉さま」

「うんまぁ、そりゃあそうだけどさ。二年間という仮想世界こっちでの生活を、一秒たりとも無駄にはしちゃいけない……ってのもまた事実だぜ?」


 それは、新たに取得した未知の必殺技《A-PAS》を試してみたいという願望もあるが……大半は、カオルの中に燻る「焦り」が、そう言わせたのだろう。

 一刻も早く、悪魔獣共を駆逐したい――仲間の仇を取りたい、そして自らの失態を返上したい。そんな気持ちが、常にカオルの胸中に巣食っているが故の「焦り」なのだ。

 これは、戦場に身を置いている、そして置いてきた者にとって、命の危険に関わるほどの懸念すべきこと。全て捨て去るべき思案材料である。

 だが、それを知っている上で、カオルはそんないら立ちの原因を捨て去る気になれないでいた。


「そうですわね、鬼首ヶ原さん。でも、焦りは禁物。私達中学生は本来学業が最優先事項でしょ?」


 悪戯っぽくクスッと笑って、彩香が答える。

 「笑顔」というワンクッションを置いて語る彼女からは、なんとなくカオルの胸中を覗き見たという感じが伝わった。

 けれど、そこには心を読まれて嫌、という感覚はカオルに無かった。

 自分の焦った思いをフォローしよう。という彩香の心遣いが、カオルには(なんとなくではあるが)伝わったからである。


「それに二年生になれば、一学期に二回、中間と期末テストの後に『実戦テスト』がある。現実世界リアルへ赴き、本物の悪魔獣と戦闘ができるんだ……それまで我慢しろ」


 ふと、カーリーがカオルに言う。

 カオルが一刻も早く現実の悪魔獣と戦い、奴らを討ち倒したいという逸った気持は、カーリーにも分かっていた。

 いや、彼女自身も、逸る気持ちを抑えられないでいたのだろう。

 それが故の言葉は、きっと自らへと言い聞かせているのに違いない。


「へぇ、そいつは初耳だな。さすがに二年生ともなると、命ギリギリの戦闘訓練に携わるワケか」

「ん~。でもちょこっと違うかもだよ、かおりん」

「ちょこっと違う? 何が違うんだ、エリー」

「えっとね。戦うとはいっても、そんなに強くない敵と、小手調べ的な実戦をするの。十分安全対策がなされているエリアでね」

「ほほう。って事は、日本の地下のどこかにある防衛軍総本部あたりに、悪魔獣を拉致してきて、フクロにでもするのか?」

「うんうん。場所はどこかはわかんないけど、概ねそんな感じだよ」

「そうね。それに、私達もその状況を見れるんだよ。全校生徒用集会堂の、モニター越しの中継だけど。舞華お姉さま、超かっこよかったよ~」


 うっとりとした表情で語る千早の心には、未だ米嶋舞花へのあこがれが残っている様子。

 そんな彼女が見せる仕草に、カオルは「よかった。エリーから聞いた話じゃあ千早のヤツ、舞華に説諭クンロクかまされたって話らしいけど……そこまで二人の間に、亀裂だとかは生じてないんだな」というそんな考えに、一人表情が緩むのだった。


 と、急ににやけ顔となったカオルへ、カーリーが気味悪がるような表情で尋ねた。


「なんだ、どうした鬼首ヶ原。急に笑顔を浮かべて……なんか悪いモンでも食ったか?」

「あ、いや……俺、いや私、ニヤケてたか?」

「ああ。キモいくらいにな」

「ガーン! キモいって言われたよ……」

「あはは、そんな事無いよお姉さま。まぁ、ニヤケてたのは本当だけど」

(バカ、お前のせいなんだぜ?)


 そう、カオルは心の中でひとりごちる。


「だけど噂では、二学期期末の実戦は、実際に市街地おそとに繰り出して戦う事になるかも、という話ですわ」

「へぇ。マジ戦闘か。よくそんな情報手に入れたな、お嬢」

「え? ええ。そう、あくまで噂ですわ」

「ふぅん。でも、火の無いところに何とやら、と言うしな。それに実際、そういったレベルで徐々に実戦へと慣れさせなきゃだもんな」

「流石はかおりん! 言う事がプロっぽい」

「い、いやいや。それはその……常識の範疇だろ?」

「常識かどうかはわからないけど、確かにその通りかもしれませんわね」


 まるで彩香は、自らのミス(・・)を有耶無耶にするかのように、カオルの言を立てるのだった。


「そうか。なんにせよ、二年生になる楽しみが増えたってモンだ」

「にゃ~。私は実戦とか、おっかないのは苦手だなー」

「大丈夫よ、エリー。イザとなったら私が守ってあげるから」

「えへへ、ありがとうちーちゃん!」

「おいおい、また千早の悪い癖が炸裂か?」


 と、そんな千早に、苦笑いでカオルが茶々を入れた。


「わ、悪い癖って……仲間を守るのはいい事でしょ?」


 ちょっとムッとした口調で、拗ねて見せる千早。

 が、カオルは、


「私達はチームなんだぜ? 誰が誰を守る、じゃなく、皆が皆を守る、だろ?」


 と、ちょっと得意げに語るのだった


「……今度は鬼首ヶ原の悪いところが出たな」


 すると今度はカーリーが、そんなカオルへと、茶化した言葉を掛けるのだった。


「うっ。ちょっといい感じに熱血できると思ったのに」


 落ち込むフリをするカオルを見て、四人に笑顔が咲いた。


「あはは、かおりんおもしろーい」


 凛々しい少女がコミカルに落ち込むポーズが気に入ったのか、エリーがツボって笑う。

 そして、ひとしきりの笑顔を見せた後。ふと、と「ある事」を思い出し、皆に言うのだった。


「あーおもしろかった……あ、そうだ、チームっていえばさ、みんな!」

「ん、何だエリー?」

「私達のチーム名、まだ決めてなかったよね」


 言われて、四人が「「「あーそう言えば」」」と声を合わせる。


「このあと、みんなヒマ? もしよかったら、勉強会がてらチーム名決めようよ!」

「いいぜ、乗った!」

「うん、それいい」

「そうだな」

「じゃあ、十四時からエリーの部屋に集合。でいいかしら?」

「うん、いいよあっちゃん」

「じゃあみんな、それまでにチーム名を考えてくるように」

「「「了解、隊長リーダー」」」


 からかうように、四人が千早へと敬礼を見せる。

 だがその美しく揃った礼に、どことなく冗談で流すには惜しいと感じた千早は、


「では。イチヨンマルマル、エリーの部屋に集合。各自遅れないように」


 と、訓練の最中に見せるような毅然とした応対を、皆に返すのだった。


最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

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