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第五話 VS郡山音葉

待ってくださっていた方がいるとは思えませんが、一応……

長らくお休みして申し訳ございませんでした。

ぼちぼちと書く暇が出来ましたので、上がり次第投稿していきたいと思っております。


「うわぁぁッ!!」


 郡山音葉の見事な一太刀により、数メートルは弾き飛ばされたであろうカオル。

 だがその直後、彼女・・に宿る「男性だった頃」の本能は、受け身の後の危機回避行動を発動させ、改めて間合いを取るという一連の動作を無意識の内にこなしていた。


「ってぇな! 怪我したらどーすんだよ!!」


 咄嗟に襲われた事に対しての苛立ちや怒りが、カオルの言葉を加速させる。

 そんな彼女を見て、郡山音葉は「信じられない」と言う表情で零すのだった。


「ウソ……私のスワニーソードによる『アルティメット・スイング』を咄嗟にガードした!?」

「あ、何……ガードだって?」

「そうです、カオル。あなたは今、咄嗟に魔法防御マギ・ディフェンシオを発動させたのです」


 と、カオルの使い魔イングゥェイが、事の解説役を買って出た。


「ハァ? 俺はそんなの習った覚えはないぞ」

「はい。でもカオル、あなたは今の攻撃に『危ない』と思ったでしょ?」

「あ、ああ……思った。つか、危険を感じるのは当然だろ?」

「そう、当然だから発動したんです。危険や被害を最小限にしたい……そう本能が叫び、両手を盾にした。今のカオルの身体は、言わば『超人』なのです。防御するという事は、『高く飛ぼう』だとか『速く走ろう』と言った行為と同じなんですよ」


 ふと、一瞬前を思い起こす。

 常に危険と向き合っていた戦場での「習慣」は、早々拭い切れるものではない。自然と「敵との間合いを改める」という回避行動を取ったように、カオル自身気付かぬうち、危機を避けようと両の腕を交差させて防御態勢を取り、敵の攻撃を受け流していたのだった。


「つまりは――ただ単に急所を庇っただけでも、そいつは魔法防御になるって訳か。何だ、意外と簡単だな」

「簡単ですって? ダメージ回避のための行動は――特に今のようなガードは、出そうと思っても、中々出せるモノじゃないのよ」

「そ、そうなんですか? アヤちゃ……綾乃先生」

「ええ。回避にしろ、防御にしろ、咄嗟に必要を迫られる危機回避運動は、それなりの習慣付けが必要なの。皆、攻撃に怖気付いてしまって、動けなくなるケースが多いわ。故に、それらは習得が中々困難な部類に属するカテゴリーよ。それを意図も容易く出せるなんて……鬼首ヶ原さん、あなた一体何者なの?」


 教師であり、この戦いのジャッジでもある聖川綾乃が、息を飲みつつ語る。それは紛れも無く、一瞬でカオルの能力を見抜いた、そして見抜ける「目」を持っている証でもある。


「な、何者って……えっと、何者なんでしょうね?」

「冗談。どうせ今のは偶然、たまたまよ!」


 そう吐き捨てた後。郡山音葉は、新たに両手剣を握り直し、戦いの間合いをじりりと詰めるのだった。


「今度は奇跡なんて起きないんだからね? 覚悟して、鬼首ヶ原さん」

「ハッ。ガード程度で奇跡なら、今頃俺はミラクル・カオルって呼ばれてるぜ」


 戦いのコツを分かりかけて、些か気を良くしたカオル。と、そんな彼女に、傍らを飛ぶ相棒が諌めの言葉をかけた。


「でも、気を付けてくださいカオル。あなたの今のライフゲージは半分以下になっていますよ。もう一度、今の攻撃を喰らったらアウトですからね」

「何?」


 インギーの言葉と共に、空中に浮かぶステータス表示。

 そこには、「100」まで刻まれた赤と緑のバーゲージがあり、緑色の「ライフ」を示すバーゲージが、丁度「40」まで目減りしている。更には、その横にある、緑から黄色へと色合いが変化したハートマークが、若干忙しく点滅を繰り返していた。


「ガードしても、六割持ってくのかよ!?」

「そりゃそうよ。今のアナタのソレはタダのノーマルガードだし。それに、私の攻撃は『必殺技』なんだもん」

「必殺技だァ? ちょ、ちょっと待てよ、なんかズッケーぞ! 俺はそんな技とか持ってないぜ?」


 横を飛ぶ子ブタにまくし立てるカオル。

 だが、そんな隙を相手は見逃さず、容赦のない攻撃を与えてくるのだった。


「仲間割れは試合の後にしてよね! もう一度行くわよ、フェリーにゃ!」

「了解だにゃー!」


 郡山音葉の傍らを飛ぶ、子猫を模した使い魔の目が赤く輝く。

 と同時に、彼女の得物が輝きを発し、カオルへの危機を声高に伝えてきた。


「ちっ、のんびり作戦も立てられないってのかよ。インギー、とりあえず『ジェイク』を召喚だ!」

「了解、カオル!」


 インギーの返答を合図に、カオルの右手に現れた一丁の銃。

 若干大きめの、クロームステンレスに彩られたハンドガン「ジェイク」を握りしめ、カオルは迫り来るターゲットを補足。


「こっちも戦闘開始だ。行くぜッ!」


 ――パンッ! と言う乾いた音が高らかに響き、魔法武器マガ・アルマを握る手に、幾許かの衝撃が走る。

 初めての魔法弾丸マガ・グロブスの射出! それは、迫りくる郡山音葉めがけて真っ直ぐに進み、見事彼女の左胸元を直撃――するハズだった!


「あまいわ!」


 「キンッ!」と響く金属音が、小さな火花を散らし、駆け抜ける。

 そう。彼女の持つスワニーソードの刀身が、カオルの銃弾を弾き返したのだ。


「そんな単調な軌道の攻撃、もう慣れちゃったもんね!」


 彼女の勢いは止む事無く、カオルを間合いへと捕える。刹那、美しい白刃が猛撃となって襲って来た!


「でりゃあッ! アルティメット・スイング!!」


 ――ヴンッ!


「――――見えるッ」


 カオルの左頬数センチを、スワニーソードが疾駆。そんなカオルの回避行動による敵の戦果は、彼女の美しく長い髪の数本を切断するに止まった。

 そして、フワリと踊り舞う幾本かの髪の毛を目で追いながら、カオルは心の中で呟く。


(なるほど。よく見りゃ動きも追えるし、それに合った反応も取れる。弾丸の速さも見切れるってのも頷けるぜ)

「なッ! スワニーソードの太刀筋を見切った――」


 手応え無く、ただ空を切り裂くだけの白鳥の両手剣(スワニーソード)

 勢い余っての体勢から、カオルへと第二刃を繰り出そうとするその一瞬!


「――ガラ空きだぜッ!」


 乾いた炸裂音が五度、鳴り響いた!


「きゃああああっ!」


 ほぼゼロ距離からの、頭部へ五発もの魔法弾丸の直撃。防御不能な体制で受けたその攻撃は、郡山音葉のライフゲージから、一気に「その色」を奪い去ってしまった!


「そこまでッ! 勝者、鬼首ヶ原さん」


 綾乃先生の宣言と共に、どよめきを上げる周囲のオーディエンス達。


「ウソ……音葉ちゃんが負けた」

「どうなってんの? 音葉って剣技成績B+でしょ?」

「しかも、まだ魔法教育チュートリアルを受けてない子に……」


 いくつもの「ざわざわ」が周囲を徘徊する中、「そんな事は気にも留めない」と言った表情で、カオルは今しがた終えた戦いを振り返る。


「いい攻撃だったぜ? けど、そんな大振りじゃあ、隙が大きすぎて狙ってくれと言ってるようなもんだな」


 その場に崩れ落ち、反応を見せない敗者に、軽い敬礼を手向ける。そして改めてジェイクを構え、カオルは叫んだ。


「さぁて、お次は誰だ? 早いことおっ始めようぜ!」


 ギラついた瞳で周囲を威圧し、新たな敵をサーチする。

 兵士として戦いに身を置いてきた習慣が、彼女の身体を極限までヒートアップさせている……そう気付いたインギーは、パタパタとカオルの顔の辺りまで羽ばたき、優しく声をかけたのだった。


「カオル、一度落ち着きましょう」

「ああ。だが、連戦しなきゃなんないんだろ?」

「はい。ですが、規定で五分間のインターバルがあります。不必要な精神の集中は、冷静さと持久力の欠如につながりますので……どうか、少しリラックスしてください」


 「わかったよ」とばかりに戦闘体勢を解除するカオル。そして大きなため息を一つ付き、


「ふぅ。こいつが、超人的な身体能力を備えた『魔法少女』のバトルか……魔法要素いっこも無かった気がするけど」


 普段の表情へと戻って、インギーへと「魔法戦闘」の感想を述べるのだった。


「いえ、魔力はちゃんと使用しました。そしてカオル、あなたの『純血』も、きちんといただきましたよ」

「そ、そうか? 全然そんな気配は無かったが……」

「ごく微量ですからね。六発の魔法弾丸のみでの勝利ですから……コストパフォーマンス抜群でした」

「ああ。ムダ弾は撃たない主義だからな」


 にこやかな笑顔と共に、一度ジェイクを収納するカオル。

 同時に、彼女の目の前に表示されていたASP残高が、5000から6000へと変化した。


「お、小遣いが増えたか……ま、悪い気はしないな」


 と、笑顔で零した瞬間の事。

 郡山音葉の、悔しさをたっぷりと含んだ泣き声が聞こえた。


「ふえぇ~ん、超いったぁ~い!」

「あー、やっと気が付いたか……すまない、そんなに痛かったか?」

「痛ったいに決まってるよぉ~! 1000ASP失っちゃう事がぁ~! もう、超くやしー!!」


 手足をジタバタさせて半べそをかくその姿は、歳相応といった少女のソレであり……さっきまでの「魔法戦士」の様相は微塵も感じられない。


「は? ……はは……そ、そうか。そりゃ悪かったな」


 (やっぱガキの女は苦手だ)と、心の中でぼそりと呟く。

 そんな苦笑いと共に、カオルはふと思い起こす。さっきまでの戦いの最中、その身に受けた感覚達。


「そう言えばインギー。さっきコイツに斬られても、そんなに痛くなかったんだが……ありゃ、ガードしたからか?」

「いえ、痛みは軽いショック程度です。これはあくまで模擬戦ですからね……本当の痛みを受けたりしたら、大変な事になってしまいますよ」


 インギーの言葉に、カオルは少し胸を撫で降ろす反面……何か言い様のない虚無感に襲われた。


(実戦でのリアルな痛みを知らない者が、敵とリアルで戦えるってのか?)


 が、その想いは、言葉になる直前に、カオルの胸の内へと深く沈められたのだった。



最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!


どうか今後ともお付き合いの程、よろしくお願いいたします。

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