第六章 第十三話 赤坂千早のこと 2
荒涼としたビル群の中央を一直線に走る、半壊した高速道路。
そんな場所を、五人の人影が風の様に駆け抜けていた。
「十二時の方向、悪魔獣探信儀に感あり! 距離11kmに中型悪魔獣一出現」
「おいでなすったか。つーか、エリー。よくこっちに悪魔獣が出現すると分かったな」
「ううん、たまたまだよぉ」
つい今しがたの事。
悪魔獣捜索に少々手こずっていたカオル達チームは、この廃墟を右往左往していた。
と、エリオットがふと「なんだかこっちにいそう」という発言から、彼女を先頭に捜索を開始した途端の敵発見である。
「敵識別……全くの未確認。おそらく学園オリジナルの悪魔獣だよ、気をつけて!」
「オリジナルか。いい的ツモったかな?」
「じゃあ、私と樋野本さんが前衛にて交戦。カーリーは太陽に隠れて奇襲・陽動の準備。エリーは鬼首ヶ原さんと共に行動して」
「了解! ちーちゃん」
「わかった」
「んで、ロングレンジのスナイパーさんは、射程ギリギリからの狙撃をよろしく……って、これでいいわよね? 鬼首ヶ原お姉さま」
まるで不意打ちのように、意地悪くカオルの名の後に「お姉さま」と付ける千早。
それはある種、敬意を込めた呼び方でもあった。
(私が周囲を見て行動を出来るようになったのは、この鬼首ヶ原さんのおかげ)
千早の胸中に、カオルに対しての感謝の気持ちが溢れているのを、彼女自身受け入れていた。
けれど……その「気持ち」を素直に、そして上手く伝えられない自分にも気付いている、という様子なのである。
「なんだよ、リーダーがサマになってきたじゃないか。結構結構」
そして、お返しとばかりのカオル。
ニヤリ、と意地悪く笑うのは、そんな千早の「小さな変化」に気付いた故かもしれない。
「うふふ、仲のおよろしい事。まるで男女の幼馴染のようね」
彩香のおっとりとした優しい言葉の中には、そんな二人を少々からかうような意味が見えた。
が、カーリーもエリーも、その言葉に賛同し、頷く。それは誰が見ても、二人はお互いを気にし合う、だが素直になれない、ご近所同士の男の子と女の子のよう。という事に他ならない。
無論、カオルが男の子役ではあるが、双方共に美少女と呼ばれる類の人種故に、「百合」という言葉がよく似合う。
エリー以外のその場にいる皆が、そう感じ入るのだった。
「じゃあ、作戦スタートね。みんな、がんばろう!」
「「「了解!」」」
溌剌とした四つの返答が、開始の合図として響く。
「お先」
カーリーがシヴァを召喚し、宙へと羽ばたきをみせた後、
「それじゃ、一発ぶちかま……一撃で決めて差し上げようかね」
つい、いつもの調子でカオルが気合の台詞を発しようとして、言葉を選び直す。
それは、千早の冷たい視線を感じたからだ。
「ええ、一撃でよろしくね。鬼首ヶ原さん」
それを受け、千早が「よくできました」とばかりに、ニコっと微笑む。
「じゃあ樋野本さん、私達も行きましょう!」
「ええ」
そして、ニガ笑いのカオルとエリーを残し、彩香と共に悪魔獣との距離を瞬く間に縮めるのだった。
「敵・悪魔獣を視認。これより攻撃に移る!」
瓦礫の廃墟の中を、のっしのっしと歩く悪魔獣。
その姿は、全身真っ白ののっぺらぼうで、三階建ての建築物ほどの背丈に、恰幅の良い体型……魔法少女達から「メタボくん」と呼ばれるタイプの敵である。
『ああ、気をつけてな』
『がんばってね、ちーちゃん!』
使い魔を通じて、二人からの応援が届く。
「メタボタイプは、総じて機動力が低いわ。これなら余裕かも」
『千早。いくら相手がデブちんだからって気を抜くなよ?』
「……ごめんなさい。また相手を甘く見るくせが出ちゃった。気をつける」
そう。見た目の印象はさておき、これから相対するのは全くの未知数の敵だ。
「見た事のない個体ね。一見、素っ気無い真っ白けっけだけど……一体どんな攻撃を仕掛けてくるのかしら?」
アカデミー・オリジナルの悪魔獣は、現在確認されているソレらの強さを掛け合わせた、キメラ的存在の個体である。
故に、攻撃力・防御力共に高く、一体での高ポイントが期待できる……その分のリスクは推して知るべしだろう。
「ですが、どのような攻撃を仕掛けてこようと、わたくしの盾で防いでさしあげますわ」
「よろしくね、樋野本さん。じゃあ……戦闘開始! トラッキー、虎鉄を召喚」
「あいよ!」
悪魔獣を視界に納めた千早が、猛烈なダッシュで敵との距離を縮め、その勢いに乗って――抜刀!
「せりゃあッ!」
まるで刀身がせり伸びたかのような、衝撃波の斬撃!
魔法少女チームの一手目は
―――― ザ ン ッ !!
ものの見事に、悪魔獣の胴を真一文字に切り裂いた!
『『やった!』』
「お見事!」
カオルとエリーが使い魔越しに、そして彩香も、千早の繰り出した技の結果に思わず感嘆の声を上げた。
――だが!
「違う! まだよ」
手応えを全く感じなかった千早は、瞬時に戦果を否定。
その言葉通り、悪魔獣はもがく様子もなく、平然としている。
そして、千早によって切り裂かれた敵の腹部は……みるみるうちに回復し、元の豊満な肉体へと修復を見せるのだった。
「なにこれ!? 斬撃は通じないの?」
戸惑う千早に、トラッキー越しの声が響く。
『どけ、赤坂。斬ってもダメなら燃やし尽くしてやる!』
上空から、高速の勢いで巨躯が舞い降りる。
それは無論、シヴァだ!
「よろしく、カーリー!」
『任せろ。いけ、シヴァ!』
――ドンッ! ――ドンッ!
空気を震わせ、シヴァが火球を放つ!
猛り狂った炎の塊は、一直線に悪魔獣へと伸び――着弾!
しかし!
悪魔獣は、自らの誇るぶよぶよとした肉塊の一部を液状化させ、シヴァの攻撃を包み込むのだった!
最後まで目を通して頂き、まことにありがとうございました!
あけましておめでとうございます!
本年も旧年と等しく、皆様に格別のご愛好を賜りますよう努力してまいりますので、どうかよろしくお願い申し上げます。
あと、お年玉ください。