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第六章 第十二話 米嶋舞華のこと

今回は三人称舞華視点でのお話です。

混乱させてしまうかもしれませんが、どうかお付き合いくださいませ。

 いよいよ始まる、一年生の実技演習。

 そのトップを飾るのは、カオル達の一年一組である。


「ねぇねぇ、舞華。やっぱこのクラス……つーか、一年での注目株は、鬼首ヶ原ちゃんだよね?」

「ええ、そうね。鬼首ヶ原さん、やっぱりいい動きをしているわ」


 四つに分割された、生徒達の正面にある大画面スクリーン。その右上段に映し出されている、五人の集団に目を向けつつ、舞華は嬉しそうに言う。

 無論それは、千早を筆頭に廃墟の都市を駆け抜ける、カオル達のチームだ。 


「なんだかご機嫌だな、舞華」

「そ、そうかしら? ユキにはそう見える?」

「ああ。お前が模擬戦で感情を露にするなんて、稀だもんな」


 右横に座る、同じクラスの鴻池由紀が、舞華の「珍しい様子」を指摘する。


「珍しい事もあるもんだと、さっきのエキシビジョンで思った。戦闘に関して、常にクールなお前が……少々浮かれているように感じられたんだ」


 舞華と由紀は、一二年共に同じクラスである。

 特に仲が良いという訳ではないが、もう二年になろうと言う同じクラスでの付き合いである。にも拘らず、はじめて見るようなテンションの上がりよう。

 それは、由紀でなくとも、彼女を知るものからすれば、些か珍しい部類の事であった。


(……私が浮かれている? ええ、確かに浮かれているわ。何といっても、先の模擬戦で鬼首ヶ原さんの危機を救う事が出来たし、これから彼女の戦いぶりをじっくり観察できるんだもの)


 そう、これが舞華の本音。

 彼女の心が高揚する原因は、どうやらカオルにあるらしい。


(鬼首ヶ原カオル。彼女はきっと……ううん。彼こそ、あの鬼首ヶ原薫三等陸曹さんに違いない。何か複雑な事情により、今は()()()に女性の、少女の姿をしているのでしょうね)


 舞華が以前口にした、一度も直接会った事が無いが、恋焦がれているという人物――それが、鬼首ヶ原薫三等陸曹だ。


 父の中隊の小隊長を務めているという若きエースであり、二度、父の窮地を救った恩人でもあるらしい。

 父の一時帰宅の際は、そんな彼の活躍話ばかりをしこたま聞かされ、少し呆れると共に、鬼首ヶ原薫なる人物に尊敬の念を抱くようになっていった。


 だが、彼女の想いを決定付けたのは――そんな折に送られてきた、戦場で仲間達とのささやかな宴会を映した、父の動画メールだった。


 そこに、少々酔った加減ではあったが、宴の余興としてギターを演奏する鬼首ヶ原薫の姿があり……その夢中で弦をかき鳴らす姿は、少女の心の中に深い「あこがれ」を抱かせるに十分すぎるほどだった。


 そして、演奏終了後。

 娘に向けて「これが父さんの仲間達だよ」というメッセージを送る上官に割って入り、


「よう! 舞華……だっけ? このクソッタレな戦争が早く終わるよう、そこから祈っていてくれ。そして戦争が終わったら――そうだな、みんなでピクニックにでも行こう」


 と言うメッセージを、半ば強引に送ったのだ。


(そう。あれが、魔法少女になるキッカケ。私が魔法少女になって、一刻も早く、平和な世の中を再び……)


 あのときの、熱い思いが込みあがり、舞華の頬を朱色に染める。


「何だ? 舞華。頬が赤いぞ……体調不良か?」

「あ、ホントだ。なんだかさー、体調不良ってよりは、いいオトコでも見つけてテレたような感じだね」


 と、前に座る級友が、舞華と由紀の間に顔をせり出し、冗談交じりに言った。


(どきり!)


 一瞬、舞華の鼓動が早くなる。その原因は、間違いなく――図星を突かれたからに他ならない。


「ば、馬鹿なコト言わないの! ほら、先生がこっち見てるわよ。スクリーンに集中して」

「へいへい。ったく、冗談も受け付けないのかね、この生徒会長さんは」


 もちろん、それが冗談だという事は、舞華には分かっていた。

 けれど、そんな事にも寛容になれないほど、心に余裕が無かったと言う他ないだろう。


(鬼首ヶ原カオル。そう、を想うと、言ってる私が一番集中できていないようね)


 気持ちを一度リセットし直し、改めてスクリーンへと視線を移す。


 そこには、一年生筆頭である赤坂千早の姿があった。


「一年筆頭の赤坂も、結構いい動きしてるよね。アイツ、独断行動スタンドプレイが目立つだけあって、結構戦闘力高いんだもんなー」


 ふと、誰かが千早の印象を漏らす。


「でも、さっき一緒に闘って気づいたんだが……今回はちょっとばかり動きに精彩が無かったな」


 由紀の指摘に、周囲の少女達も「うんうん」「そうかも」と、同調を見せた。


(赤坂千早さん。彼女の動きに負荷を与えてしまったのは……きっと私のせい)


 舞華は、自分自身が犯してしまった過ちに気付いていた。

 そしてそれが、自分自身のつまらない嫉妬が原因である事も知っていた。


(酷い先輩だな、私って。嫌な人間だ)


 それでもなお、千早へ謝罪しようとしなかった自分に、舞華は嫌悪感を抱いていた。


 しかしながら、


(もしも、彼女が私の一言に思い煩い、戦闘でミスを犯したら……それは私のせいだ)


 と、自己批判を行いつつも、


(でも、それで鬼首ヶ原さんの足を引っ張る事になれば、私は彼女を許すだろうか? ……たぶん、赤坂さんを叱咤するでしょうね)


 それでもなお、カオルの事に関して、やっかみと情念がごちゃ混ぜになった想いが同居し続けているのだった。


「なぁ、舞華…………舞華!」

「えっ!? あ、な、何? ユキ」

「なんだか心ここにあらず、だな」

「そう……かも。ごめんなさい、しっかりしないといけないのに」

「まぁ、人間だもんな。どんな時だってあるよ……けど、ちゃんとスッキリさせとかなかった自分に非があると自覚しろ」


 由紀の思いがけない言葉に、舞華の鼓動が早くなる。


「ゆ、ユキ……」


 彼女ユキには見抜かれていた。

 舞華の、少しザワつく感情。闇色の部分。

 それを、暗に指摘されたのだ。


「仕方がない。言い難ければ、私がついていってやる」

「ごめんなさい。私ったら、私的な感情で後輩――」

「いいさ、気にするな。だから……今度からはちゃんとトイレを済ませておけよ」



「――――はい?」



「ん、なんだ? トイレに行きたいから、心ここのあらずだったんだろ? 違うのか」

「あ、あはは。そ、そうね、おトイレに行きたかったの……」

「だろ? じゃあ――先生、すいません。ちょっとトイレに行きたいので」



 他の生徒の注目を浴びる中。

 舞華と由紀はトイレへと中座する。


 再びカオル達の姿を目にするのは、約五分後の事。

 既に戦闘が始まっている最中だった。


最後まで目を通して頂き、まことにありがおうございました!

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