第六章 第十一話 奥手
昼食が終わり、午後の部へとプログラムは移った。
一年生の戦闘を、今度は二年生が観覧するのだが……この際、二年生は各自チェックシートに一年生の戦闘能力を記入するという仕事が任されるのである。
これにより、一年生のトップ成績グループが決められるのだが、未だ一年一組から、そのトップはおろか、ベスト3入賞グループが出ていない……という現状だ。
一年一組専用体育館内。
「全員整列、二列横隊!」
順番のくじ引きで、一番最初を引き当てた赤坂千早が、声を張って一組生徒の整列を促す。
「また一番最初かぁ~。千早ってば一番引きすぎ」
「ってか、くじ運良すぎだよ千早は」
「そこ、私語禁止! さぁ、二年生の先輩方が見てるわよ。気合入れていきましょう!」
午前の部とは打って変わって、千早にやる気と気合が漲っている様子。
「うん! がんばろうねちーちゃん」
「いつも通り、全力でやるだけだ」
「気負いすぎるのも失敗の元ですからね。落ち着いていきましょう」
チームメイトのそれぞれが、千早の激に答える。
そんな中、カオルは小さな懸念に心を乱されていた。
(またぞろ、俺を試すような敵出現パターンはカンベンしてくれよ? ババァ)
カオルの関わる戦闘にだけ、他の魔法少女に対しての「敵のレベル」が違う。そんな待遇に、カオルは些かうんざりしていた。
「どうした? 鬼首ヶ原。今度はお前が落ち込んでいるようだぞ」
そんなカオルに逸早く気付いたのは、カーリーだった。
「ん、ああ。いや、ちょっとメシ食いすぎたかな? ってさ。ちょっとゲップが出そうなんだ」
「もう、お下品なんだから」
「それならよろしいですけど、動き回りすぎて戦闘中に吐かないでくださいね?」
「あはは、気をつけるよお嬢」
「あら、その呼び方。私に定着させるおつもりですの?」
少しすねた様な表情で返す彩香に、カオルは慌てて取り繕う。
「いやその、悪ぃ」
「うふふ、嘘ですわ。その呼ばれ方、嫌いじゃなくってよ?」
彩香が冗談っぽく笑う。
「う、ウソかよ。怒らせたかと思ったぜ」
「ホント、鬼首ヶ原さんは面白いですわね」
「んだよ、からかいっこナシにしてくれ」
「ごめんなさい。でも、本当に面白いですわ……と言うか、変わっていると言うべきかしら?」
「変わってる?」
カオルが首をひねりつつ尋ねる。
無論、自分では変わっている所なんてこれっぽっちも自覚が無い。一体自分のどこが変わってるんだ?
と、そんな疑問が、彩香の一言で納得に至り……そして、反省点へと変化を遂げるのだった。
「鬼首ヶ原さんには、なんだか同い年の同性の女の子とは思えないフィーリングがありますの」
「ああ、なんか分かる」
次いで、カーリーも彩香の意見に乗っかる。
「そうね。なんとなく、年上のお兄さんっぽい感じ」
「かおりんがお兄さんだったら、あたしは嬉しいな!」
「ちょ、待て待て! 私は14歳の女の子だ!」
とは言うものの、内心では(げげ、超やっべぇ! おもっくそバレてんじゃん)と、焦りの色を隠しきれないでいた。
「そうそう。特に、女性におくての男子っぽいところがあるわね」
「いい加減にしろよ。言うに事欠いて『女性におくて』って……あれ? あ、アヤちゃん!?」
カオルを「おくて」と評したのは、その原因を作ったであろう張本人――聖川綾乃教諭だった
「アヤちゃん、じゃないでしょ? 綾乃先生、もしくは聖川先生と呼んでちょうだいね」
「あ。すいません、つい」
悪戯な口調で叱る綾乃先生に、カオルのほっぺたがほんのりと色づく。
それは、好きな人の前で赤面してしまう、少女の恥じらいというものだろう。
(そんなところだけ、14歳の少女ですね)
そんなカオルに、インギーが耳元でささやく。
「う、うっせぇ!」
「何? 鬼首ヶ原さん」
「あ、いえなんでもないです。こっちの話です」
「そう、ならいいけど」
意地悪っぽい笑顔での答えは、カオルの良く知る「小悪魔的アヤちゃん」そのものだった。
「先生、一年一組全員整列済みです。いつでも出撃できます」
「ん、よろしい……とにかく! 今回は一年一組から上位入賞グループを出すわよ、みんな気合入ってる!?」
「「「はい!」」」
少女達の溌剌とした返事が返ってくる。
それほどの気合に満ちている要因は――
「カオルお姉さま! 私達『トゥインクルスターズ』は、お姉さまを絶対的にバックアップしますね!」
「鬼首ヶ原さん。もし、私達『ブレイブフラワー』が、強い敵に出会ったら……真っ先にそちらにお譲りしますから」
「LWVも、協力を惜しまないよ」
と、各チームがカオルの実力を高く評価し(一部私的要因を込め)、念願の「クラスから成績トップを出す」という認識で団結を見せているのだった。
そんな中。
意外にも、カオル達に歩み寄るグループがあった。
「鬼首ヶ原さん。私達聖なる騎士達も、あなたをバックアップします。よろしくね」
「ダ、ダイアナ……あ、ああ。こちらこそよろしく」
それはダイアナ・ベイキンズ率いる、ホーリーナイツの四人だ。
「それでは各チーム最終確認の後、戦闘特化式魔法少女形態へとチェンジ!」
「「「了解!!」」」
一瞬の緊張が少女達を駆け抜ける中。
カオルだけは、また別の緊張を心に宿していた。
最後まで目を通して頂き、まことにありがとうございました!