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第六章 第八話 陰り

 二ヶ月に一度催される、一二年生合同演習の本番。

 午前中のプログラムは、二年生によるクラス毎のフリーバトルである。

 一クラス50分ずつの時間が設けられ、それぞれのチームがより多く、より手ごわいの悪魔獣を倒す事でポイントを競う事となる。


 余談ではあるが、この演習での高ポイント取得上位3チームには、150000、10000、50000ASPが付与される故、各チームの本気度が明らかに違う。


 その成果として、学園集会場中央に掲げられている巨大な空間投影式スクリーンには、色とりどりのコスチュームに身を包んだ魔法少女達が、キビキビとした動きで悪魔獣を翻弄、撃退している。


(金がかかっているとはいえ、流石に二年生ともなると、動きに無駄が無いな)


 そんな先輩魔法少女達の活躍に、カオルは魔法少女として「学ぶべきところ」を得ようと、注意深く観察していた。

 特に、小学生の頃に見た魔法少女アニメのバトルシーンさながらの戦闘は、()()に興味の無いカオルを魅入らせるほどの迫力に満ちていた。


(とは言うものの、4時間もこうやって魔法少女のバトルシーンばかり見せつけられては……正直飽きたな)


 朝から4クラスぶんのフリーバトルを見せつけられ、次第に退屈が頭をもたげてくる。


 しかしながら周囲の生徒達は、その殆どが飽きもせず、カオルとはまた違ったベクトルで正面のスクリーンに集中していた。


「きゃー! 先輩カッコイイ」

「でたでた! 秋津先輩の超加速」

「舞華お姉さま、やっぱ素敵すぎ~」


 それは、彼女達の戦闘を参考にするという行為からは余程かけ離れている。言わばお祭り染みた賑わいだ。

 が、一応二年生の活躍に注目しているのには間違いない……という理由で、教師達は大目に見ているのだろう。


 そんな中。


 ふと、右斜め前に座る少女がカオルの視界に入る……ジョーカー――ジョー・カーラングルだ。

 さっきから、コクリコクリと頭が揺れているところを見ると、


(あれま、寝てるよ)


 ジョーカーにとって、この合同演習は単なるお昼寝タイムにしか過ぎないらしい。カオルはそう心の中で呆れると同時に、一人自然と浮き上がるニヤニヤをかみ殺すのに手一杯となっていた。


「ねぇねぇ、かおりん」

「ん、なんだエリー」


 左隣に座るエリオット・ヴァルゴが、そんなカオルに小さく声を掛ける。


「あのね、ちーちゃんの事なんだけど」


 左に座る赤坂千早を視線で指しつつ、エリーは小声で続けた。


「さっきから、なんだか元気が無いみたいなの」


 普段なら、正面のスクリーンに集中しているであろう千早が、項垂れ、視線を上げようともしていない。


「なんだ千早、疲れてんのか? いや、そう言えばエキシビジョン終了後から様子が変だったな」


 ふと、四時間ほど前を思い起こす。

 悪魔獣との模擬戦闘は、生徒側の完全勝利で幕を閉じたというのに、その頃から千早の元気は精彩を欠いていた。


(舞華と共に戦って勝利を得たんだ。もっと喜んでもいいだろうに)


 と、その時カオルは思ったが、相手は14歳の多感なお年頃だ。首を突っ込むのは余計なお世話かもしれない。


(ま、向こうから相談に来るまでは、触れずにそっとしておこう)


 という気遣いを見せていたのだが……。


『フィフスエレメント・アロー――ファイア!!』


 スクリーンに映し出されている、大活躍中の米嶋舞華を前にしても、彼女の視線はただ足元に転がるのみ。


(こいつは変だ)


 その異変ぶりに、カオルにも、事の深刻度合いが伝わった様子。


「千早……ちはやっ」

「え!? な、なに」


 慌てた様子で、千早はカオルに目を向けた。


「どうした? 元気が無いぞ」

「な、なんでもないって言ってるでしょ」

「うそつけ。お前の大好きな舞華お姉さまが絶賛大活躍中なんだぜ? なのに、一切見ようともしてないじゃないか……いや、見たくないといった気配さえ感じるぜ?」

「――っ! そ、そんなこと」


 一瞬、図星を突かれたという表情を浮かべ、千早はすぐに冷静さをまといなおす。


「いつも元気な千早おまえが、落ち込んでんだ。心配にもなるってモンさ」

「そうだよ、ちーちゃん。なにかあった?」

「エリー……」


 エリーの心配そうな表情に負けたのか、千早はポツリと「陰りの断片」を零し出した。


「……おこられたの」

「「誰に?」」


 カオルとエリーが同時に問う。

 その「怒られた」という相手の名に、二人は揃って「意外だ」という表情を浮かべるのだった。


「舞華お姉さまに……叱られたの」

「なんで?」


 当然のように、カオルはその訳を尋ねた。


「……」 


 けれど、返ってくるのは千早の沈黙だけ。


「まぁ、言いたくなけりゃそれでもいいさ。でも、仲間が何のミスもしてないってのに、叱咤を受けるってのは納得がいかねぇな」


 カオルは、まるで我が事のように不快さを露にする。

 その言動は、この後すぐにでも直接本人のところまで出向いて問い質さんと言う勢いだ。


 すると千早は、「それだけはダメ!」とばかりにカオルを制し、事の本質を語りだしたのだった。


「あ、あなたの……鬼首ヶ原さんに関わる事なの……」

「は? お、に!?」


 思わず地が出るほどの驚き。


「俺が……あ、いや。私がなんだって?」

「……舞華お姉さまがね、個人通信で仰ったの――」


 と、千早が語るその内容は、カオルを複雑な人間関係に巻き込むものだった。


「鬼首ヶ原さんの足を引っ張らないで――って」


最後まで目を通して頂き、まことにありがとうございました!


モンハンクロスが楽しいです。


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