第六章 第七話 勝利
登場人物たちの会話に「」と『』の二種類がありますが、「」はその場面での台詞で、『』は無線などを経由した台詞となっております。
少々ややこしいかもしれませんが、どうかお付き合いのほどよろしくお願い申し上げます。
「くっ!」
突然、背後から襲い掛かる殺気に、カオルは無意識のうちに魔法防御を発動させ、身構える。
けれど。
その危惧は、頼りになる仲間の機転により、事無きを得るのだった。
「フィフスエレメント・アロー『サンダー』!」
米嶋舞華による、専用攻撃技を叫ぶ声。
稲光のような輝きが、悪魔獣の弱点と言われる「コア」めがけて放たれ――
「 グ オ オ オ オ !! 」
悪魔獣は叫び声を上げて怯み、動きを一瞬止めるのだった。
『やったね、舞華!』
『ナイス直撃や!』
『流石です! 舞華お姉さま』
『いえ、まだまだ沈黙させるダメージは与えられていない様子です。みなさん、気を引き締めて』
『『『はい!』』』
『『『了解!』』』
「先輩、とにかくありがてぇ! 恩に着るぜ」
カオルは謝辞と共に、すぐさまディープパープルの銃口を標的へと向け直し、追加攻撃へと打って出る。
―― ド ン ッ ! ド ン ッ !
二度の炸裂音が周囲の瓦礫を振るわせ、紫の軌跡が一直線に悪魔獣目掛けて襲い掛かった。
――だが!
ヒュン! という音と共に、巨大な悪魔獣はその姿を消し去り、新たな場所へとテレポートアウトした。
その場所とは――
『きゃあ!』
突然聞こえた、甲高い悲鳴。それはエリーのものだ!
「野郎、今度はエリーに!?」
『そうはさせませんわ!』
清楚さの中に、凛々しさが見える声。彩香がいち早くその危機に気付き、
「アルティメット・シールド!!」
エリーの前に、虹色の巨大な盾を出現させるのだった。
―― ガ イ ン ッ !
悪魔獣が振り抜いた巨大な拳が、綾香の究極聖盾に阻まれ、けたたましい音を上げて止まる。
一瞬、悲痛な叫びにも似た嘶きを上げた悪魔獣は、また新たなターゲットを求めて、周囲を見渡した。
「お前の相手はこの私だぁ!」
秋津弥生による、己の能力を上げる自己補助魔法「加速走」での急激な間合い詰めからの抜刀!
逃げる間も与えないという意気込みは、「悪魔獣の右足」という戦利品を獲得した。
「オオオオオオ」
悲鳴をあげ、崩れ落ちる超弩級悪魔獣。
――が! その悲鳴が、突然怒号へと変わり、
「グオアアアア!!」
手ごたえに酔いしれる油断から、警戒を怠っていた弥生に向け、
―――― ド ン ッ !
悪魔獣の口中から、高出力のエネルギー砲が発せられたのだった!
「――ッ!?」
「させない! ギャラクティック・ブラックホール!!」
突如、弥生の前に鴻池由紀が現れ、「ブラックホール」の名に違わぬ、漆黒の空間を開口。
悪魔獣の放ったエネルギー砲は、全てその中に吸い尽くされたのだった!
「さ、サンキューユッキー」
「バカ! 油断してんじゃない」
途端、両者共に散開し、改めて悪魔獣の攻撃に備える。
と、片足を失った悪魔獣の動きに機敏さが失せ、魔法少女達は絶好の攻め時を見出す。
「シヴァ、火炎弾連射」
「ベロ太、雷・炎・雹撃よ!」
上空を舞うドラゴンからの火球。そして地上からは、五条智美の召喚したケルベロス「ベロ太」が、三つある頭のそれぞれの口から電気、炎、氷の攻撃。
手ごたえは――あり!
『チャンスや! 一年、たたみかけるんや』
『『『了解』』』
そして今度こそ! と、カオルもディープパープルの照準気を覗き込み、
「食らえ!」
特大の一発をお見舞いする!
―― ズ ド ン ッ !
紫の一閃が悪魔獣の心臓辺りを貫き、そして一瞬の静寂。
「どうだ、やったか?」
焦りにも似た一言を零しつつ、カオルは遠距離狙撃用スコープを再度覗き込む。
そこに映っているもの。
それは、まるでガラス細工が砕け散るような、超弩級悪魔獣の断末魔の姿だった!
『やった! 悪魔獣、完全に沈黙だよ』
インギー越しに聞こえる、エリーからの目標排除報告。
「エリーの言葉で、一番好きな台詞だ」
自然と浮かび上がる笑みに乗せ、カオルは安堵のため息とともに零す。
『流石は鬼首ヶ原さんですわね』
舞華のねぎらいの言葉が、インギーから伝わる。
だが、まだ油断は出来ない。
「先生からの作戦完了宣言が無い限り、気は抜けないな」
『そうですね。でも……もう気を抜いても良いみたいですよ?』
舞華の言葉次いで、カオルの目の前に、小さな空間投影式ディスプレイが浮かび上がる。
そこには、今回のミッションを取り仕切っていた二年生の担任教師が映し出されていた。
『はい、そこまで! 皆さん、よくやってくれましたね。おつかれさま』
「「「ありがとうございました!」」」
本当にこれで終了を意味する、戦闘空域から特別活動教室への帰還。
「みんな、難しいミッションだと言うのに、よくがんばったわね! 学園長もお喜びよ」
「「「おつかれさまでしたー」」」
そこには、一様に大きな仕事をやり遂げたという満足の表情の生徒達の姿があった。
……ただ一人を除いて。
「千早……浮かない顔だな? どうかしたのか」
「う、ううん。なんでもない」
それは、赤坂千早。
その表情の陰り様は、ここ最近の付き合いだと言うカオルにも、余程深刻なものであると察するに十分なものであった。
最後まで目を通して頂き、まことにありがとうございました!