第六章 第六話 新手
初期の悪魔獣。
その容姿は、パーツパーツが平面で構成されており、角ばった姿――所謂ポリゴン画像のような印象を受ける姿をしていた。
今回、カオル達と対峙する悪魔獣は、きちんとした人型を成してはいるものの、初期の特徴を有していた。
それは即ち――初期=弱いである。
「オリジナルだろうが、初期型の悪魔獣だ。今の一撃でくたば……らねぇ? ウソつけよオイ!」
カオルは面食らった表情で、宛先不明の愚痴を零す。
数多くの悪魔獣を退治してきたカオルの直感では、「ヤツの弱点は頭部」であるとして、キツい一発をお見舞いしたつもりだった。
だが、悪魔獣に与えたダメージは、カオルの奇襲を受けてバランスを崩すに留まるのみ。
しかしながら!
ゆらり、と態勢を整えるその最中。
『チャンスやみんな! 畳み掛けるなら今やで』
二年生の高田魅紗の叫びが、インギー越しに飛び出してきた!
それを合図のように、
「ブラッディー・ローズ!」
これまた二年生のショートレンジ・アタッカー、秋津弥生が、専用攻撃技で答えた!
悪魔獣を、薔薇の花が咲き乱れる蔓が拘束する。そしてその中心を、弥生は一個のエネルギー弾となり、剣先を突きたて――一点突破!
「フオオオオオオン!」
まるで悲鳴にも似た音が、悪魔獣から発せられ、
「トドメよ! 飛天赤坂流・剛突衝斬!!」
さらには、千早の持つ日本刀タイプの武器「虎鉄」の刀身が、身の丈の三倍はあろうかという真っ赤なエネルギーの柱となって――斬ッ!
見事、悪魔獣の首と胴を分かつのだった。
「ズズンッ!!」と唸りを上げて、崩れ落ちる悪魔獣。
『やった! 超弩級悪魔獣、完全沈黙だよ』
エリーの報告に、皆の安堵の溜息が零れた。
『皆さん、おつかれさま』
米嶋舞華の労いの言葉が、インギーから届く。
『おつかれ』
『おつかれさまです!』
『ふぃ~、おわったぁ』
『先輩方、お疲れさまです』
一年生達の終了の挨拶。も、一人足りない。
それは勿論――
「これで、本当に終わりか?」
カオルだ。
『鬼首ヶ原さん。終始の礼は必要よ』
千早が、カオルの態度に注意を即す。
それは、憧れの舞華先輩に対し、礼儀を弁えろとの催促だった。
「あ、ああ……おつかれ。が、本当にこれで終わりか?」
『呆れた、まだ言ってる。いつもこの程度の敵を圧倒して仕事は終了。んで、先生の終了の合図で、戦闘区域を離脱……あれ? そう言えば』
言って、千早は妙な違和感を覚えた。
いや、この場にいるカオルを除く九人が、ソレを感じた様子。
『おかしいですわね……先生の終了アナウンスが無い――』
舞華が、全員へと通信で疑問を投げかけた――その直後!
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ・・・・・・
と、大地を、そして空間をも揺るがすような地鳴りが聞こえ、
『みんなたいへん! 地下ゼロ方向より悪魔獣反応だよ』
「クソ、やっぱりおいでなすったか」
地面に大きな亀裂が走り、巨大な「何か」が隆起を始める。
その場にいた九人の魔法少女達が、驚きを隠せず、思わず四散……回避を打つ。
『ちょ、ヤバいて! 今までで最高にデカい』
魅紗の的を射ない表現に、カオルが聞き返す。
「デカいって、どれくらいだ!?」
『さっきのの二倍はある! しかも、相当高エネルギーを蓄えてるよ』
『なら……先手必勝!』
と! まだ敵が姿を見せないうちに、カーリーが、シヴァによる連続火球攻撃を見舞う!
――ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!
空気を震わせ、地面へと突き刺さるシヴァのファイアーボール。
直撃した後。真紅の火柱が数本立ち上がり、着弾地点を吹き飛ばす。
そこに姿を現したもの。
それは、さっき倒した悪魔獣と形状は酷似しているものの、その表面の造詣は滑らかで、まるで最新の3Dデジタル画像のよう……早い話、リアルな巨人が這い出してきたのだった!
「最新型の……超弩級悪魔獣」
呆れたように、カオルが零す。
「みんな! こいつはちょいと物騒だ。一度引いて、チームとして統率の取れた作戦を立て直そう」
明らかに、先ほどの悪魔獣とは違う、敵意溢れる威圧感と、エネルギーの躍動。
それらがビシビシと、カオルに襲い掛かってくる。
『大丈夫! こんなの、私一人でも退治してみせる』
と、カオルの提案を一笑に伏すかのように、千早が空を駆け、新たな敵へと、
「くらいなさい、飛天赤坂流・剛突衝斬!!」
その真紅の一閃を見舞う――がっ!
「……ブゥンッ」と、微かな音を残し、一瞬の間に悪魔獣はその姿を消し去ってしまった。
「なッ!?」
驚きの声が、千早から漏れる。
無理も無いだろう。完全に捕らえた薙ぎの一閃は、ただむなしく空を泳いだだけ。
「千早、後ろだ!」
状況を見渡せる位置にいたカオルが、思わず叫ぶ。
そう。一瞬のうちに、新たな悪魔獣は場所を変えた……瞬間移動を見せたのだ。
『え、ええ? きゃあ!』
振り向き、戸惑う千早へと、悪魔獣の巨大な鉄拳が襲い掛かる。
「間に合え!!」
――ドンッ! ドンッ!
ディープパープルが二度吼え、紫光の矢が、悪魔獣の頭部を直撃!
「グオオオオッ!」
またもや、クリティカルにも拘らず、大したダメージは見受けられない。
だが、
『あ、ありがとう。鬼首ヶ原さん』
どうやら、千早は救えた。
「エリー、敵のコアは?」
『い、今解析中だよ』
『一年、遅い! 敵のコアは左胸部、人間の心臓と同じ位置や!』
魅紗が、探索人としての仕事を素早くこなす。
「流石は二年、手馴れてるな」
と、カオルが、一人感嘆の言葉と共に、望遠照準器を覗き込む。
「野郎の心臓部分っと……あ、あれ?」
ふと気付くと、悪魔獣の姿が無い。
そして、カオルは重大な事を思い出す。
(あ、瞬間移動!?)
そう思った刹那。
悪魔獣は、カオルのすぐ背後に迫っていた。
最後まで目を通して頂き、まことにありがとうございました!