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第六章 第三話 索敵



 一二年生合同のデモ・マガバトル。戦場バトルフィールドは、日本都市・廃墟(スタイル)――中ほどから折れて朽ち果てたスカイツリーがある光景から、そこが東京であることが推測される。


 そんな荒廃し、雑草がそこかしこから芽吹いている道路を、十人の戦闘魔法少女達が「敵」を求めて歩いていた。


(そう言えば、俺が男として最後に戦ったのがこの近辺だったっけ。なんだかヤな感じがするな)


 カオルは、ふと浮かぶ死の記憶を、頭を振るい払拭する。


「どうしたの? 鬼首ヶ原さん」

「千早……いや、なんでもない」


 千早が掛けてくれた心配の声に、カオルは我に戻る。


(もう、仲間達を危険に晒すような……あんな失態ヘマは犯すまい)


 そして、彼女を――仲間達の顔を確認するように見つめ、新たな思いに奮起するのだった。


「何? 気合入りまくりね」

「ああ。皆が見てるんだ、いっちょ頑張らないとな」


 五人の、新たなチームでの戦闘。皆、一応落ち着きの色を見せてはいるが……その実、誰もが不安を隠しきれないでいた。


『上手くやれるのか?』


 それは、自分以外の面々が、好き勝手に動き、足を引っ張るのではないかと言う懸念に似た思いだ。

 無論、エリーだけは「自分が上手くやれるのか」という意識ではあるのだが。


「千早」

「何?」


 とりわけ、カオルの心配事は彼女――赤坂千早にあった。


「先輩の手前だからって、スタンドプレイに走るなよ」


 一瞬、千早は「ぎくり」とした表情を見せる。

 それは心の奥底に「舞華お姉さまにいいところをアピールしたい」という願望がある証拠だった。


「わ、分かってるわよそんなこと」


 ムキになって怒る千早。と同時に、一年生の集団チームの少し前を歩く、二年生達……その中の米嶋舞華へと、無意識に視線を向けていた。


(まるで片思いでもしているようだな)


 同性ながら、カオルの目にはそう映っていた。


「そろそろ頃合いかな? 魅紗、索敵を開始して」


 倒壊したビル群の中ほどで、二年生筆頭でもある米嶋舞華が指示を出した。


「あいよ! まかして」


 元気に答えるのは、探索人としての補助魔法に特化した、関西系のノリの少女・高田魅紗だ。


 が、一年生の面々――特にエリーは、その言葉に疑問符を浮かべるのだった。


「索敵、ずっとしてるよ?」


 そう。このバトル・フィールドに降り立った直後から、エリオット・ヴァルゴは周囲50キロ程にわたり、警戒用の魔法「悪魔獣探信儀レーダー」を張り巡らせていたのだ。


「うんうん、教科書通りのいい反応だね。けど、ミサの索敵はちょいと違うんだ」

 

 近距離攻撃特化系の秋津弥生が、説明役を買って出る。


「周囲150キロに、特大の悪魔獣探索網センサーをぶちかますんだよ」

「え!? そ、そんな事したら、敵にこっちの居場所を知られちゃう」


 警戒用のレーダーは、魔法力が微出力であり、気付かれる可能性が低い。一方センサーは、悪魔獣の敵の能力・弱点までもを調べる用途に用いられるが故、魔法力の高出力のためにほぼ使用を気付かれる。


 セオリーから言えば、レーダーで気付かれないように近付き、悪魔獣に先手を仕掛けるのが定石だ。

 が、二年生はいきなり()()を否定するかのよう。


 しかしながら、そこには経験不足からのセオリー無視といった愚かさは見受けられない。

 逆に、「これが定石」と言った、馴れすらも感じられるのだった。


「なるほど。おびき寄せるってワケか」


 カオルがその意図に気付き、答える。


「正解、流石はカオルちゃんやね。てなワケやから、一年生は迎撃陣形カウンター・フォーメーションで隠れててや」

「皆さん。なるべく、気配を消してくださいね」


 魅紗に付け加え、舞華が一年生へと注文を付けた。


「気配を消す……か。簡単に言ってくれるよ」


 悪魔獣を前にして、殺意を抑えられる自信が無いカオル。

 ともすれば、真っ先に躍り出て、魔法弾丸の雨を降らせたい衝動に駆られていた自分に気付く。 


「いっけね。千早に注意する前に、自分を戒めなきゃ」


 誰に語るでもなく、小さく零す。

 そんなカオルを、舞華は慈しむような視線で迎え入れた。


「その意気、()()に頼もしい限りですね」

「あ、ああ……暴発しないように自重するよ」


 このとき、カオルにとって舞華の言葉は「暴走するな」と言う釘を刺したものだと思われた。


 だが、カオルの傍らを飛ぶ子豚にとって、それは別の意味を持っていると感じられたのだった。


『あなたの事は、良く知っている』


 男性だった頃のカオルの活躍話を、父親からたくさん聞かされたが故の「流石に頼もしい限り」という言葉。

 それは、舞華がカオルの中身が男性であると確信しているに他ならない。


「それじゃみんな! お姉さまの仰る通り、息を潜めて悪魔獣を迎えましょう」

「ああ、オッケーだ千早」

「うん! わかったちーちゃん」

「了解」

「ええ、では」


 千早の号令一過。それぞれに思いおもいの方向へと散り、身を隠す一年生チーム。

 それを確認した後。魅紗以外の二年生勢も、廃墟のビル群へとその身を隠した。


「そんじゃま、いっちょいきますよー! 悪魔獣探索網、出力最大!!」


 三車線はあったであろう、元・道路の中央。

 両手を天高く広げた魅紗の周囲を、円形の魔方陣が回転しつつ、高速で広がっていく。


「さぁ。鬼が出るか蛇が出るか……」


 倒壊を免れている、周囲から一頭高いビルの屋上に身を潜めつつ、カオルはワクワクしながら零す。 


「カオル、エリオット・ヴァルゴから通信です」

「エリーから? 繋いでくれ」


 プツン。という音と共に、エリーの音声がインギーを介して届く。


『きたよ、みんな! 二時の方向、距離51キロ地点に敵影1。日本未襲来アンノウン・超弩級悪魔獣!!』

「超弩級!? おい、そんな話聞いちゃいねェぞ」

『未確認な上に規格外ですか。わたくしたち……いえ、鬼首ヶ原さんは余程買いかぶられているようですわね』


 樋野本綾香が、溜息混じりに、そして少し呆れた口調で愚痴る。

 そして、カオルの脳裏に一瞬漂う、学園長のムカツク笑顔。


「かもな……畜生あのババァ、やってくれるぜ」


 とは言いつつも、カオル自体、ニヤニヤが止まらない状態にあった。


最後まで目をと通して頂き、まことにありがとうございました!

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