第六章 第二話 二年生
一年生棟と二年生棟の間に位置する、特別活動室棟。
その一室に、十人の生徒と一人の教師らしき女性がいた。
それは、この後すぐに控えている一二年生合同演習に先立ち行われる、一二年生選抜エキシビジョン擬似戦闘へ参加する面々である。
「……ったく、あのババァ。余計な煽りをくれやがって」
学園長の開催の言葉が、教室前面に浮かぶ大型空間投影式モニターから流れ、カオルの赤面を誘った。
「ねぇねぇ、『華々しいデビュー』ってかおりんの事だよね?」
エリーが、なんだか嬉しそうに言う。
「そうね。どれだけ学園長に期待されているかが分かるわ」
樋野本彩香が、頷き答えた。そこにはカオルへの期待と、若干の「茶化す」ようなものが感じられた。
「おいおい、よしてくれ。私はまだ『見習い魔法少女』だぜ?」
照れ隠しの笑いと、メンドクサイと言った口調で返すカオル。
それでも――期待に答えようとする意思に溢れた瞳は、隠せないでいた。
「フフ、流石は鬼首ヶ原さん。我々二年生一同も期待しておりますわ」
と、五人の、落ち着き払った少女達が、カオルの元へと笑顔で歩み寄る。
「あ、っと。舞華……お姉さまだっけか」
それは、米嶋舞華率いる二年生選抜チーム。
「覚えていてくださったのね? 嬉しいです。でも、『舞華』で結構ですよ」
「あ、いやその……あはは。そうしたいのは山々だけど、ウチのリーダーが怒るんだよ」
そう言って、カオルは赤坂千早を意地悪い目で見る。
「だ、誰がリーダーよ! ……って、じゃなくって……コホン。鬼首ヶ原さん、リーダーはアナタでしょ?」
尊敬する舞華の前で、千早は慌てて猫を被る。
「それに。年上であり、生徒会長である舞華お姉さまに、呼び捨てはあり得ません」
「へいへい(なら、年上である俺は呼び捨て上等だよな)」
そんな屁理屈にも似た思いに、カオルは一人ニヤニヤを浮かべた。
「鬼首ヶ原。ニヤケてキモチ悪い」
そんなカオルへと、カーリーのツッコミが入る。
「う……そんなにキモかった?」
「「「うん」」」
チームメイトである一年生選抜の面々が、うんうんと頷く。
「トホホ、ちょっとショックだ」
「いやいや、そんなことはないよ。これから晴れ舞台に立つ『不敵な笑み』、これは心強い限りってヤツさ」
そんなカオルに助け舟を出す声。それは、二年生チームの生徒。
長身痩躯にショートカット、いかにも健全健康そうな笑顔の少女だ。
「そ、そうですかね……えっと」
「あ、ボクは二年二組、秋津弥生。近距離攻撃特化をやってるんだ、ヨロシクね」
そう言って差し出された右手に、カオルは照れを見せつつも答える。
「あ、弥生ずっこい! ウチも紹介させてーや」
次いで、明らかな関西のノリを伴う少女が、カオルへの自己紹介を始めた。
「ウチは2の1、探査人やってる高田魅紗。やっぱり噂通りの美人さんやね」
屈託のない笑顔が、関西弁のツインテール少女から溢れる。
「それと、この子は2の3の鴻池由紀、守備系特化な。で、こっちは2の2の五条智美。召喚系特化やってるねん」
更には、ついでとばかりに残る二人の紹介までも買って出るのだった。
「……よろしく」
「よ、よろしく」
なんだか少しぶっきらぼうとも言える挨拶の、猫のような目の黒髪ロング少女、鴻池由紀。
そして、少しオドオドと挨拶を述べる、小柄でメガネの少女、五条智美。
「二人とも、引っ込み思案やねん」
「す、すいません……」
「別に私は引っ込み思案じゃないぞ」
対照的な二人の言葉が、周囲の笑みを誘う。
「改めて……私、二年三組、米嶋舞華。長距離攻撃特化です……よろしくね、鬼首ヶ原さん」
「み、みなさん。こちらこそよろしく……」
上品な微笑みが、舞華という人物の「凄み」を感じさせる。
そう、この場で――全校生徒が注目する戦いを間近に控えた場で、これだけの気負わない笑顔を見せている事に、カオルは、己が抱いていた印象を改めさせられたのだった。
(こいつ……いや、二年生、一年生とはダンチだ)
その感覚は、生前感じた仲間のソレに近い……戦う気構えが出来ている。カオルはそう思い知らされた。
「はーい、じゃあそろそろ時間ですので、みんなスタンバって頂戴ねー」
エキシビジョン担当の二年生教諭が、そのときを告げる。
途端、生徒達の表情から笑顔が消えた。
「全員、ミレス・マガ・モードへの変身を許可します。直ちに実行しなさい」
「「「了解!」」」
その場の十人は、小気味良い返答で返し、それぞれの使い魔を召喚。
さまざまな色の美しい輝きを撒き散らしながら、次々に戦闘モードへの準備が完了していく。
「さぁ、みなさん。気合入れていきましょう!」
「 「 「 ハ イ ! 」 」 」
舞華の号令一過、バトルエリアへのゲートが開く。
そんな中。
カオルは、今まで感じた事のない「ワクワク」に見舞われていた。
最後まで目を通して頂き、まことにありがとうございました!