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第五章 第六話 あっちゃん


「とにかく、一番の懸念事項は……カーリー、君の意思だな」

「私? 何の事だ」

「今日のデモ・マガバトルで一触即発だっだろう? その、遺恨的なモノを残してはいやしないか、とさ」


 カオルの心配は、カーリーと樋野本彩香との間に確執があるかもしれない、という事だった。

 だが当の本人は、拗ねたような子供っぽさを見せつつ、それを否定する。


「失敬だな。これでも後腐れない、サバサバした性格だと自負している」


 カーリーの大仰な語りと仕草はどこか滑稽で、少々強張っていたカオルの顔の筋肉を、穏やかに弛緩させた。


「ま、あちらが頑なに態度を硬化させ続けると言うのであれば、話は別だけれど」


 そして、「おそらくはそっちのほうが可能性がある」と言わんばかりの言葉を付け足したカーリーに、エリーが否定を見せるのだった。


「そんな事は多分ないよ。あっちゃんは昔から、優しい子だったもん」

「エリー。彩香とは昔からの知り合いなのか?」


 と、カオルは先ほどから気になっていた「あっちゃん」と言う呼び方の意味を問う。


「うん。かおりん、知ってるかな? あっちゃんの家は樋野本グループって、日本でも屈指の財閥のお嬢様なの」

「ああ、知ってる」

「でね、海外に向けての飛行機や戦車なんかの武器も作ってるの」

「そうだな。『戦車といやぁヒノモト』ってくらい、海外でも有名だ」

「でね、私のウチは……それを合衆国に仕入れる、言わば武器商人なのね」


 エリーが、少し暗い面持ちで語る自らの家柄。

 それは、自分の親が人殺しの片棒を担いでいると言う、自責の念の表れなのだろう。


「で、お互いの親同士が商売柄接する事が多くって……それでね、同年代の女の子って事もあって、よく避暑地へバカンスに行ったりしてたの」

「お嬢様仲間って事か。そいつはさぞかし、ブルジョアな生活をお送りになってきたんだろうな」


 自分達下々の生活とは違うであろう、リッチな余暇の過ごし方。そんな自虐的になったカオルが、茶化して言う。

 けれどエリーの瞳は、より一層の影を広げるのだった。


「すまない。冗談だ」

「う、ううん……そうじゃないんだよ。ちょっと前までは、あんな事言う子じゃなかったのに……って」

「ふん……やっぱ、思った通りだな」


 ふと、エリーの言葉に何か気付いたカオルが、意味深に一人ごちる。


「何が思った通りなの? 鬼首ヶ原さん」


 千早も、その意味を知りたくて、興味を示すのだった。

 

「カーリーとの勝負の以前にさ、アイツから話しかけてきたんだ」

「へぇ。なんて?」

「カーリーが私達の仲間になったら、ソロ活動()()が減るだとかなんとか」

「まぁ、確かにそうね。今じゃソロ活動者は、ジョーカーと樋野本さんだけだもの」

「でさ、言ってやったんだ。『じゃあお前も仲間になってくれないかな?』って」

「勿論、断った……ね?」

「せーかい。にべもなく断られたよ。けれどそこに、私は妙な引っ掛かりを持っちゃっててさ」

「引っ掛かりとは?」


 俄然、カーリも興味を持つ。


「彼女の答えは『誰ともチームを組めませんの』だとさ」

「……? ねぇ、それってチームを『組みたくない』、じゃなく『組めない』って事?」

「恐らくはそうだ。アイツは何か、大きな考えや使命があってこの場にいる、という可能性があるんじゃないかな」

「ねぇかおりん、使命って何?」

「さぁ、そこまでは知らねぇよ。けれど、そういった『裏』があるからこそ、昔のような優しいお嬢様から、あまり愛想の無いボッチになっちまったって事だろう」

「そうなんだ……あたし……あたし、あっちゃんに聞いてくる!」

「ちょっと待った、エリー。今行っちゃダメだ」


 今にも走り出しそうなエリーを、カオルはやさしく引き止めた。


「何でダメなの? かおりん」

「行ったって、何も話しちゃくれないだろうさ」

「そんなの、話し合ってみなきゃ分からないよ」

「話して分かり合えるなら、もうとっくに彼女のほうからお前らに接触しているだろう」


 その言葉に、エリーは二の句を継げないでいた。


「確かにそうね。他人に話さない事から――ましてや、知らない間柄ではない相手にすら打ち明けないってのは、闇が深すぎるわ」

「それにソロ活動者云々の件も気になる……鬼首ヶ原」

「ん? なんだ、カーリー」

「もう一度、それとなく探りを入れてみてはどうだ?」


 カオルは少々驚いた。いや、自分でも気付かぬうちに、小さなオドロキが、表情を動かしたのだろう。


「どうした? 鬼首ヶ原。何を驚いている」

「あ、いや……探りを入れるのは了解した。けどさ……」

「なんだ?」

「いやさ……カーリーが、彩香をチームに入れる事に、俄然ヤル気を見せているのに、なんだかびっくりしちゃって……やっぱカーリーも、仲間が欲しかったんだな」

「う、うるさい!」


 顔を紅潮させ、ぷいとそっぽを向くカーリー。


 けれど、その「照れ」を伴った表情に、その場にいた三人は、とある()()を持てたのだった。



『樋野本彩香も、仲間を欲しているのではないか』



 恐らくは、誰にも打ち明けられない秘密がある樋野本彩香。

 だが、その秘密を共有し、共に解決の糸口を探る、心強い仲間がいれば……?


 故に、あの時――チーム戦の初戦闘とはいえ、不安定な戦いを見せた自分達に、あんな苦言を呈したのでは?


 カオルの胸中に、なにかしら「似たもの同士」という親近感が芽生え始める。


 それはカオル自身、「元々は成人男性の軍人だった」という、誰にも語れない秘密を持つ者であるが故の、共鳴なのかもしれない。


「とにかく。樋野本彩香には、私が接触してみる。そのためにも、今日の戦闘での、自分達の粗を徹底的にチェックし合い、更なる安全且つスムーズな戦闘への移行を心がけよう」

「そうだね。さっすがかおりん!」

「異論無し」

「じゃあ、早速気が付いた事を出し合いましょう……エリー、書記お願い」

「おっけー、ちーちゃん」


 千早を筆頭に、俄然ヤル気を見せはじめる四人。



 が、このとき。

 独断専行を理由に一番槍玉にあげられたのは、一等ヤル気を見せていた赤坂千早だった。


「ショック……もう、チームミーティングなんてするんじゃなかった」


 とは言うものの、挙げられた注意点の全てを受け入れたのは、彼女の進歩の表れなのだろう。


最後まで目を通して頂き、まことにありがとうございました!

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