第五章 第五話 ミーティング
「それはそうと……アヤちゃん! 今の敵配置はちょっと無茶じゃないか?」
「そうですよ、先生。あんな敵の出現パターン、今まで経験ないです」
カオルにつられて、エリーまでもが、不自然な敵の出現を指摘する。
これまでのセオリーで言えば、悪魔獣出現は1チームに対し一体が基本だった。
もしくは、複数であっても、先日からの新しいデモ用悪魔獣「アーク・エンジェル」が呼び出す、ザコのような掃討に容易い敵である。
けれど今回は、ザコとは言い難い中難易度クラスの悪魔獣の複数出現だ。
「あら、ごめんなさい。でも、難なく倒せたでしょ?」
「そ、それはそうだけどさ。でもいまのは、あからさまな……」
そう言いかけて、カオルは口をつぐむ。
少々の怒りを伴って発した問いに、自らで答えを見つけてしまったのだ。
そう。今のはあからさまな「カオルへのテスト」。
(やっべぇ。藪を突いて蛇を出しちまうところだったぜ)
何故? と問えば、綾乃先生の口はきっと「あなたこそ、その高い魔法力についての説明をお願いしたいわね?」などと、カオルの「魔法力修正無視」を指摘するかもしれない。
そのための、少々無茶な敵配置なのではないか? カオルにはそう思えてならなかった。
「いいじゃない、別に。私達四人にかかれば、あの程度はお茶の子さいさいよ」
千早がドヤ顔で答える。
確かに、ソロで倒せるレベルの敵ではある。
が、それも千早やカオル、カーリーなればこそだ。
「まぁ、ちょっとした手違いがあった事は認めるわ。とにかく、今日のデモ・マガバトルは終了よ、あがってらっしゃい」
「「「はい!」」」
三人が声をそろえて答える。
ミレス・マガ・モードを解除し、体育館へと通じる扉へと向かう最中、カオルは二人へと尋ねた。
「なぁ、このあと二人ともヒマか?」
「ええ、時間はあるわ」
「うん、ひまだよ」
「なら、チームミーティングを開かないか?」
「じゃあさ、私の部屋にきてよかおりん。昨日アップルタルト焼いたんだ、みんなで食べよ」
「おお! そいつは気が利いてるじゃないかエリー。うちのチームで今日イチの大活躍だ」
あははと笑うカオルとは対照的に、ちょっと拗ねたような視線を送る千早。
一人で悪魔獣・二式一号を撃破した活躍を褒めて欲しかった、と言う本音がチラリと出たのだろう。
「で、ミーティングって何を話し合うの?」
「いやさ、いろいろと問題点をチェックしておいたほうがいいと思うんだが」
「ふーん。鬼首ヶ原さんって、意外とそういうトコきっちりしてるんだ」
少し茶々を入れながら、千早が答えた。
「『意外』だよな。自分でもそう思うよ」
だが、そんな茶化したような言葉を、カオルは真摯に受け取り、返すのだった。
「や、ヤダ冗談よ。そんな本気にしないで」
「いや、自分でも滑稽さ。こんなに真剣だなんて……」
遠い目のカオルが呟く。
そこに、「この魔法戦闘チームを、一刻も早く実戦で活躍できるレベルにしたい」という考えがあったためである。
しかしながら、それは裏を返せば「焦り」でしかない事に、このときのカオルは気付けずにいたのだった。
午後7時。
エリーの部屋に、四人の少女の姿……部屋主であるエリーと、カオル、千早、そして、
「今日は来ないと思ってたわ、カーリー」
「そのつもりだった」
エリー特製の「さっくりアップルタルト』をほおばりながら、カーリーはそっけなく答えた。
「なぁに。エリーのアップルタルト食わせてやるって言ったらほいほい付いてきたぜ? な、カーリー」
「ん、んぐぐ……う、うるさい」
からかうカオルを睨みつつ、カーリーはエリーの淹れてくれたシナモンティーで喉を潤す。
「チームのミーティングだ。参加しないわけにはいかないだろ」
そして一息ついて、カーリーは真剣な瞳で答えたのだった。
その満足のいく言葉に、周囲の三人はつい笑顔を浮かべてしまう。
「気持ち悪いな……で、本日の議題は?」
「おっと、そうそう。今日のデモ・マガバトルにおいての反省点を、各自徹底的に洗い出す事」
カオルは語気を強め、本日のテーマを皆に突きつけた。
と、それに合わせ、千早も議題を一つ、提案する。
「あと、今週末にある一二年生合同デモ・マガバトルの、エキシビジョンについての事なんだけど」
「「「エキシビジョン?」」」
千早の言葉に、三人共に尋ね返す。
「そ。一二年生選抜チーム合同で行う、デモ・マガバトルよ」
「ああ。以前米嶋舞華と言ってた、アレか」
「舞華おねえさま、もしくは米嶋先輩ね。で、ちょこっと問題が発生しちゃってさ」
「問題?」
「ええ。一年生代表の五人なんだけど、元々私とエリー、そして二組の静音、三組の北野さんと前川さんだっただけど……静音は鬼首ヶ原さんに登板を譲ったでしょ、それはそれで良かったんだけどさ」
「どうかしたのか?」
「うん。三組の二人が、突然キャンセルしてきたの」
「キャンセル? なんでまた」
「自分達じゃ実力が見合わない、だって。つまり、足手まといになりたくないって事」
「身の程を知っている、良い判断だな」
カーリーが一言零し、すまし顔でティーカップに口を付けた。
「そこで! カーリー、あなたにも出てもらうわ」
「――ブフッ!」
思わぬ一言に、カーリーはお茶を噴出しそうになる。
「わ、私もか!?」
「ええ。お願いね」
「断る! ……という訳にはいきそうに無いな」
「うふふ。身の程を知っている、良い判断ね」
「チームのためだ、仕方ない」
カーリーは諦め顔で首をすくめ、アップルタルトの残りのかけらを口に放り込んだ。
「千早、それはそうと……あと一人は?」
「そう。そこなんだけど……樋野本さんなんてどう?」
「樋野本……か」
悪くない。
そう思わずにはいられないカオル。
が、彼女を口説き落とすのは少々骨だと言う事も、同時にカオルの脳内を駆け巡っている。
そして更には、もう一つ厄介な懸念がある事も、カオルの心情を圧迫しているのだった。
最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!