第五章 第三話 撃破
「あっちゃん! 助けに来てくれたんだ」
エリーが興奮気味に声を上げる。
その言葉に反応し、樋野本彩香はエリーへと視線を向け、小さな微笑を見せた。
「鬼首ヶ原さん、まずはあいつを!」
次いで樋野本彩香が、カオルへと視線を移す。指し示す方向には、今しがた強力なビーム方を放った二式一号がいる。
「オッケー、仕留める。エリー、すまないが今湧いてきた二式一号の注意を引いていてくれ」
「了解! がーちゃん、戦闘モードだよ。ぐわぐわステッキ出して」
「ぐわー!」
エリーの使い魔は、その鳴き声と共に、彼女の右手に黄色いアヒルの姿を模したエンブレムの杖を召喚。
「君の相手は私だよ。それ、がーがースプラッシュ!」
技の名を叫ぶエリー。
と、手にした杖の先にあるアヒルの口から、シャボンのようなエネルギーの結晶体が勢いよく射出された。
「ア”――――! あ”――――!」
その攻撃がターゲットにまとわり付いた。グランドベイビーは、まるで「不快だ」という声を上げ、もがき苦しむ。
「今だよ、かおりん!」
「サンキュー、エリー。よっしゃ! 一発ぶっ放すか」
不意の、思いがけない援軍に、そしてエリーの果敢な援護に、カオルの心は鼓舞していた。
「出力アップだ、行くぜ!」
カオルは、魔法弾丸に己の魔法エネルギーを注入。通常弾の二倍以上の威力で、ディープ・パープルの紫の輝きを放った。
「 ド ン ッ !! 」
いつにも増して、激しい衝撃が周囲を駆け抜ける。
その紫の軌道は、一直線に伸び、エネルギー砲を撃って放心状態にある二式一号の頭部を貫通!
「ア”ア”ア”ア”ア”ー!」
不気味な悲鳴を吐きながら、もんどりを打って倒れこむ二式一号に、カオルは更なる追い討ちを掛けた。
「トドメだ!」
――ドンッ! ドンッ! と続け様に二発の魔法弾丸を撃ち込み、二式一号の頭部を完全破壊。
「二式一号、沈黙したよ!」
頭部を失った二式一号は、まるでショックを与えたガラス細工のように、粉微塵に砕け散り、光の塵となって消滅したのだった。
「よし、お次は泡まみれの二式一号だ!」
返す刀で、エリーの攻撃を受け行動不能中のグランドベイビーを視認で補足。
勢いに任せ、今度は四倍の魔法力を一発の魔法弾丸へと注ぎ込んだ。
「そんなに泡まみれが嫌か。なら、今楽にしてやる!」
「 ド オ ン ッ 」という爆裂音がカオルを中心に四散し、周囲の草や小石を震撼させる。
「ぐぅっ!」
両腕を襲う、超暴力的な反動。
そして身体を駆け抜ける、破壊的な衝撃。
流石に四倍の威力は、カオル自身への負担も大きかった。
が、その威力たるや絶大!
――ガスンッ! というけたたましい貫通音が一つ聞こえた後、それまで周囲を賑わせていた二式一号のもがく音がピタリと止んだ。
カオルの放った紫の一閃は、泡まみれの二式一号の頭部から尻までを見事一直線に貫いたのだった。
ズズン……何かが崩れ去る振動。
そして、キラキラと光の結晶へと変わり、本日三体目の二式一号の沈黙を知らせるエリーの声。
「やったよ、かおりん! 二式一号三体目撃破」
「ふぅ。あとは――」
カオルは視線を上空へと向けた。
気になるカーリーとシヴァ……が、その心配は、一瞬でただの杞憂だと思い知らされた。
「はは。流石にやるねぇ」
どうやらその身体にまとわり付く二式二号を、その身から「無理やり」に引き剥がしたと思われるシヴァの姿。
そんな二式二号を、今まさに、怒りに任せたシヴァとカーリーの強撃が襲っている。
「グオオオオオッ!」
シヴァの雄叫びが、二式二号撃破を告げるように響いた。
「二式二号、完全に沈黙。あっ! ちーちゃんが戦ってた二式一号も、今、沈黙したよ」
「はは。強いな、千早は」
「うん。流石はちーちゃんだね!」
笑顔で答えるエリー。
が、カオルの表情は些か硬さをはらんでいた。
「今回はどうにかなったけど……この連続性を持った敵出現、これは実戦を見越した配敵なのか?」
カオルが一人、自分に問うように零す。
無論、その答えはどこからも帰ってこなかった。
「あっ! あっちゃ~ん。ありがとねー」
と、エリーが元気に手を振り、はしゃぐ。
空中から「ふわり」と降下し、カオルとエリーの前に降り立った少女――樋野本彩香だ。
「よう。すまない、手ェ貸してもらって」
一応、カオルは笑顔を作り、礼を述べる。
「ううん、それは違うの。最後に湧いた二式一号は、私が戦っていた相手で……急に逃げ出したのを追いかけているうちに」
「私達と遭遇したってワケか」
「ええ、そう。で、ふと見るとカーリーがピンチそうだったから――」
「余計なお世話だ」
と、シヴァから降下し、カオル達の下へとカーリーも舞い降りてきた。
「あらあら、ごめんなさい。余計だったわね……でも、私が追っていた敵も、あなた達が倒してしまったでしょ? これでおあいこね」
「ふん」
カーリーが鼻で息を零し、それ以上は何もいわない。
おそらく、彼女も助けてもらった事に感謝しているのだろう……カオルにはそう感じられた。
「とにかくだ。今の戦いはなかなかいいコンビネーションだったじゃないか? 彩香、どうだろいう……俺たちの仲間になってくれないかな」
これはいい機会だと感じたカオルは、思い切って樋野本彩香に対してのスカウト活動を開始。
だが、そんなカオルへ、彩香の辛辣な言葉が突き刺さるのだった。
「いいコンビネーション? 冗談言わないでくださいな、今のどこが良いコンビネーションですの?」
一瞬、ギクリとして身を硬直させるカオル。
それは自分自身、今の戦いへの反省点が多すぎると感じていたからに他ならなかった。
最後まで目を通して頂き、まことにありがとうございました!