表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/111

第五章 第二話 盾


「二式一号、反応消失! まずは一体撃破だよ」


 エリーの歓喜の声が、それぞれの使い魔から流れた。


「よし。んじゃあ早速カーリーの援護に向かう。カーリー、それまで持つか?」

『なめないで。皆が来る前に仕留めてみせる』


 カオルの言葉に、勇ましい返答のカーリー。が、些かムキになっている様子でもある。

 それはカオルにとって、小さな不安を生む材料となった。


「その意気や良しだ。けれど無理はするなよ、絶対だぞ」

『心がける』


 そんなやり取りの最中。

 カオルの懸念が、形となってカーリーを襲うのだった。


「大変だよ、カーリー! あなたの前方約100メートルに、もう一体二式一号(グランドベイビー)が出現!! そっちにむかってる」

『の、ようだな……こちらも今、地中からまるで怪獣のように現れた姿を視認した』

「いわんこっちゃない……急ぐぞ、エリー、千早!」

「了解、かおりん!」

『了解! ダッシュで向かうわ』


 千早の速度であれば、カオル達よりも速くカーリーの援護に向かえる。


 ――だが!

 そんなカオルの安易な計算は、エリーのもたらした新たな報告に、容易く狂わされるのだった。


「ちーちゃん、あぶない! また二式一号が進路上に出現したみたい! 気をつけて」

『足止めしようての!? フフン、面白いことしてくれるじゃない!』

「千早、無理はするな。回避して私達と合流しろ」

「大丈夫! あんなの、私一人でお茶の子さいさいよ」

「それはそうかもしれないが……大丈夫か?」

『ええ! グランドベイビーなんて足止めの役にも立たないってこと、教えてあげるわ』

「そうか……なら任せたぞ」

『了解! そっちも任せたわね』


 一時いちどきに、三体の悪魔獣との戦闘。

 これはあくまで模擬戦。なのに、まるで誰かが狙いすましたかのような、敵との遭遇エンカウントだ。


「……ったく。これじゃまるで、意図して敵を配置、出現させているようじゃないか? アヤちゃん」


 誰にとも無く、カオルが零した。


「そうだね。なんだかこんな遭遇戦は初めてだよ」

「やはりそうか。もしかして、これは誰かさんの差し金かな?」


 カオルは一人、思い当たる節の人物の姿を浮かべ、不敵な笑みと舌打ちを一つ。


「ババァめ。またぞろ何か企んでやがんな?」

「なに? かおりん」

「あ、いや。なんでもないさ」


 まるで、自らの不安要素を隠すように、カオルは笑顔で答えた。

 

(もしかして、とそのチームは試されてるんじゃないか?)


 そんな事、杞憂に過ぎない。と払拭する……けれど、今度はその後を追うように、まだまだ幾つものチームの問題点が浮き彫りにされてくるのだった。


(エリーは咄嗟の判断に弱い。カーリーは独断専行の嫌いがある。千早には、敵をナメて掛かる癖があるようだ。そして俺に至っても、まだまだ本気さが足りないところがあるな)


 それは、この戦いを模擬戦と割り切っている自分自身への苦言だった。

 咄嗟に思いついたエリーへの指揮権譲渡や、カーリーや千早の、勝手な目標変更への容認。それらは、実践では許されない行動だ。


(けれど、俺達ァ軍隊じゃない。戦闘魔法少女のチームだ。ある程度は、それぞれの自由な行動・反応に任せるのもいいだろう)


 そう考えては見るものの、カオルへと染み込んだ軍隊時代の経験が、そして悪魔獣と戦った経験が、それらに「是」を唱えきれないでいるのだった。


「かおりん見て! カーリーが挟み撃ち状態になってる」

「ん……あっと! うだうだ考えてる場合じゃない。千早、カーリー! こっちも敵を捕捉した」

『すまない。二式二号フライングベイビーがちょこまかと動き回って、なかなか仕留められ――』


 そんなカーリーの通信を遮るように、エリーが叫んだ!


「カーリーの近くに出現したグランドベイビー、高エネルギー反応あり! ビームを撃つ気だよ、気をつけて」

「野郎! フライングベイビーごと巻き込んで、カーリーを仕留める気か!?」


 模擬戦にしては、やりすぎな感のある攻撃方法。

 そこには、疑う余地もなく……誰かの思惑が介在している。カオルはそう確信した。

 

『先に、二式一号そっちをやる』

「ああ、援護する! フライングベイビーは私が引き付ける」


 カオルが、遠距離用の照準機を覗き込む。

 一瞬息を止め、標的の動きを追う。


「ようし、いい子だ。今、仕留めてやる」


 過去の、二式二号を討ち取った感覚が、カオルの脳内に蘇る。

 まるで新生児のような表情の二式二号の額へと、十字線のクロスポイントがピタリとマークし――


「うそッ! 私達の真下から、新たな敵反応――」


 新たな敵の出現を知らせる、エリーの叫び声!


「またぞろなん――うわっ!」


 激しい地鳴りと共に地面が揺れ、カオルの足元が急激な隆起を見せた!


 そこに現れたのは、更に新たな二式一号。



「 あ” あ” あ” あ” ぁ ―――― ! 」



「ひぃ!」


 地を這うような不気味な咆哮に、一瞬エリーの身がすくむ。


「エリー! 動け!!」


 カオルの叫びに我を取り戻したエリーが、悪魔獣の突進を回避。

 だが、カオルがエリーに気を取られた一瞬の空白が、カーリーに危機をもたらせたのだった。


『くっ! 二式二号が――』


 カオルはカーリーを視認した。

 そこに繰り広げられていたのは……まるで動きを封じるかのようにシヴァに取り付く二式二号の姿。


「くそ、今助ける!」


 再度、スコープを覗き込むカオル。

 が、その瞬間! 新たに出現した三体目の二式一号の右手が、カオルへと降り注ぐ。


「かおりん避けて!」

「ちょ、あぶねって!」


 標的に照準を付けさせない。

 その行為が、結果としてカーリーとシヴァの、絶対的な危機を招くのだった。



 ―― ド ゴ ウ ッ !!



 二式二号の口から放たれたエネルギーの束が、空中で手こずるシヴァ目掛けて一直線に伸びた!


「「カーリーッ!」」


 カオルとエリーの叫びが、超弩級のビーム攻撃の轟音にかき消される。



 そんな最中!



究極聖盾アルティメット・シールド!!」



 カーリーへと突き進む巨大なエネルギー弾の前に、虹色に輝く巨大な盾が出現。

 その七色光壁は、二式一号の放った攻撃の全てを遮り、飛散させ、役目を終えると静かに消え去った。


 代わりに姿を現した、一人の魔法少女。

 薄紫を基調としたミレス・マガモードのその人物は――



「あ、あいつ……樋野本彩香……か!?」

 

最後まで目を通して頂き、まことにありがとうございました!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ