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第四章 第十話 チーズケーキ

 次の日の放課後。


 エリオット・ヴァルゴの提案で、カオル、千早、エリー、カーリーでのチーム結成式を執り行う運びとなった。


「みんな、適当に座ってて。今、お茶とお菓子を用意するねー」


 エリーの住まう、アカデミー一年生一組専用寮、三階305号室

 部屋主の勧めで、三人はリビング中央に置かれた白いソファーに腰を落ち着かせる。


「へぇ、ここがエリーの部屋か。お金持ちの女の子らしい、清楚で可憐な部屋じゃないか」


 くるりと室内を見渡し、カオルは一人ごちるように印象を述べた。

 気取らず、それでいて少女らしさを忘れない愛らしい調度品の数々が、その部屋の主の「おくゆかしさ」を表している。

 ここにいる四人が四人とも、部屋の個性は様々だな。カオルはそう心の中で零すのだった。


(同年代の男の部屋なんざ、悲惨の一語に尽きるのにな)

(それは、カオル。あなたを基準にしているのではないですか?)


 小声でインギーに語るカオルに、小豚の辛らつな答えが返る。


「何コソコソ話してんの?」


 不意に、カオルの横に座っていた千早が、好奇心いっぱいの口調で割って入った。


「あ、いや……女の子らしい、かわいい部屋だなって」

「ふん。どうせ私の部屋は、女の子らしくないトラキチ部屋ですよーだ」


 ちょっとむくれて、千早がアッカンベーをする。

 その仕草は、歳相応の少女の悪戯な感性を十二分に見せつけているかのよう。


「い、いやいや。あの部屋はあの部屋で、良い部屋だぜ? まぁ、私は野球ぜんぜん知んねぇけど」

「そう? じゃあ今度じっくり教えてあげる。因みに私の贔屓のチームはね、セリーグでは断然阪神、パリーグは日ハム――」


 急に機嫌がよくなり、にこりと微笑む千早。


(こいつは、一度心を開いたヤツには、結構饒舌になるんだな)


 そんな印象を、カオルは一人脳内で巡らせ、微笑ましい気分になる。


 だが実際は……

 その、饒舌に語るプロ野球の話題と、めまぐるしく変わる女の子の気分に、カオルは大きなため息をつくしかできないでいた。


 と、そんな中。

 キッチンにいたエリーが、結構大きめな冷蔵庫からホールケーキを取り出し、


「さぁ、みんなでたべよー!」


 と、三人の前に披露。


「お、すげぇな。それってチーズケーキか?」

「うん。今朝私が焼いて、冷やしておいたんだ」

「マジかよ!? そんなの自分で作れるのか?」

「うん、簡単だよ? かおりんにも教えてあげようか?」

「いや……私は食う専門だから」

「エリーは凄いよ。この前もオレンジタルトを作って食べさせてくれたんだけど、それがもう絶品でさぁ」

「へぇ。エリーはお菓子作りの天才か」

「そ、そんな事ないよぉ。たまたま上手く作れて……」


 照れた笑顔が、エリオット・ヴァルゴという人柄を物語る。

 そして、まるで逃げるかのように「お茶とってくるね」と言って、キッチンへ駆けるのだった。


 と、そんな彼女のあとを追うように、カーリーが立ち上がる。


「エリオット、私も手伝う」

「え!? いいよいいよ。座ってて」


 エリーが慌てて遠慮し、寛ぐよう願う。

 だが、カーリーは、


「一人じゃ大変だから」


 と、ケーキを取り分ける皿を取り、カオル達の元へと運ぶのだった。


 無論、このとき……千早も「私も手伝う」とばかりに席を立った。

 が、それをカオルは制したのだった。


「二人にまかせよう」


 そこには、カオルなりの考えがあった様子。


「カーリーは今、私達に馴染もうとしてくれている。その努力を受け取ってあげよう」

「え、ええ……そうね、わかった」


 無表情ながらもキビキビと働くカーリーに、カオルは、そして千早も、彼女の「内面のやさしさ」を感じたのだった。





「あ~おいしかった。エリー、お前は超スゴ腕の菓子職人だな」

「ううん、そんなことないよ。まだまだひよっこだよ」

「いや、美味しかった。今までこんな美味しいケーキは初めてだ」


 カーリーがお世辞抜きの真剣な目で言う。


「そうだよ、カーリーの言う通り。こんなおいしいの、一流の洋菓子店でなきゃ食べられないよ」

「ああ、千早の言うとおり。この濃厚なチーズのコク、しっとり感、とろけるような甘み。これってホールで3000円以上取れるぜ?」

「うん。そのくらいの価値はある」

「じゃあさ、アカデミーの学食で売り出そうか? 『エリーの美味しいチーズケーキ』ってさ」

「そ、そんなやめてよち~ちゃん」


 ジタバタとかわいく照れるエリーに、カオル達の笑顔が咲いた。

 それはカーリーにも。


「ふぅん。あなたって、微笑むと結構美人だよね」


 千早が、ちょっとからかい気味にカーリーへと言う。


「……う、うるさい」


 そっけなく返すそんなカーリーには怒気の一欠けらも無く、ただそれは、照れ隠しの態度。

 誰もが感じ、実際そうなのだろう。


 このときカオルは、20歳の年上から見た安堵と、14歳の少女と言う立場からの嬉しさが同時にこみ上げてきのを感じ、今まで知り得なかった「何か」を覚えた。


 それは、未だ彼女の胸中に残る「戦闘魔法少女」として、上手くやっていけるかどうかの戸惑いを、完全に払拭させるに十分な「自信」なのかもしれない。


「ねぇねぇ、それはそうとさ。とりあえず、うちのチームにあと一人欲しいよね」


 と、不意なエリーの言葉に、一瞬にして一同の気持ちが切り替わる。

 4人でも良いとは言え、5人の方がどう考えても有利。

 だが、残るソロ活動の面子は……


「ジョーカーは……200パー無理だな」

「……となると、樋野本か」

「いや、彼女にも声をかけては見たんだ。けど、取り付く島も無いといった感じで断られた」

「そう。彼女のディフェンス能力なら、背中を預けても安心なんだけど」


 千早が残念そうに語る。

 その様子からは、千早自信も以前から彼女の参入を望んでいたのだという事が見て取れた。


「が、私を参加させるという大番狂わせを起こしたんだ……鬼首ヶ原、お前なら何とか何とかしてくれるんじゃないか?」


 カーリーが気休めとも人事だとも取れる口調で言う。

 だが、それは裏を返せば「お前にとっては簡単な事」だという信頼の現われでもあった。


「知ってるか? そういうのを無茶振りってんだ」


 と苦々しく笑うカオル。

 が、カオルには、なんとなくではあるが事態の改善策が無い訳ではなかった。


最後まで目を通して頂き、まことにありがとうございました!

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