第三章 第六話 チーム
前回、アーク・エンジェルの弱点はコメカミと書いてしまいました。
正しくは「眉間」です。
ここに訂正してお詫びと変えさせていただきます。
ごめーんね♪
カオルに迫る、ひりつくような重圧。
それは、正面の敵だけしか捉えられない状況にあるカオルにとって、言い様の無い恐怖を生んでいた。
「クソッ! 初期型の天使の癖に、なんだよこのプレッシャーは」
(数か?)という自問に、(いや、十匹程度にそんな脅威を覚えたことはない)という答えを返す。
そして、カオルが感じている「殺気」が、徐々に近付き、具体的な「感覚」を、カオルに伝えるのだった。
「ちょっと待て、こいつは……違う! 天使なんかじゃない。それに、近付いてくる方向は――上かっ!」
ほんの一瞬だけ、カオルはスコープから目を外し、真上を目視する。
そこには、こちらへと急速に近付く、何か巨大な物体が見て取れた。
「にゃろう、またぞろ新手かよ!?」
そんな愚痴にも似た言葉を吐き捨てるカオルに、傍らを飛ぶインギーを通し、エリーが驚きの情報を告げるのだった。
『かおりん! 直上から急速接近する物体ありだよ。でもこれは敵じゃない、この識別信号は――カーリー!』
「カーリーだって?」
『うん、間違いなくカーリーだよ。かおりん、何をしてくるか分からない相手だから、気をつけて!!』
「カーリーか……OK、なら問題ない」
そう答えると同時に、カオルはまた遠距離照準機を覗き込む。そして、一切の迷いを捨てたかのような集中と共に、十字線をアーク・エンジェルの眉間辺りへと合わせた。
「背中は任せたぜ、カーリー」
カオルがそう呟いたのを合図のように、遥か頭上から、空を裂くような炸裂音が微かな振動と共に聞こえた。
直後! 彼女の後方市街地に、幾本もの火柱が「ドオンッ!」という爆発音と共にそびえ立った。
『これって……すごい! シヴァが放ったファイアーボールにより、一気に五体の天使が沈黙したよ』
インギー越しの声が、カーリーの起こした大爆発による戦果状況を、興奮交じりに報告する。
『残りは不意の攻撃のためか、かおりんへの進行に制動をかけ……あ、散開した!』
「散ったか。なら、もう後顧の憂いはない……あとは、俺の攻撃が弾き返されない事を祈るだけだな」
カオルが息を呑み、トリガーに掛かった人差し指に力を込める。
「消えうせろ、この大天使め!」
―――― ド ン ッ !!
とびきり大きな射出音が鳴り響き、ディープ・パープルの銃口から、紫の輝きが一直線に伸びた。
向かうは、カオルへと迫り来る大型悪魔獣「大天使」の頭部、眉間の部分。
巨大な魔法エネルギー弾の接近に、「標的」は一際重厚なバリアを張り巡らせる。
「勝負だ!」
己の放った一撃が勝るか、敵の防御の方が秀出ているか。
ほんの一瞬先の展開に、カオルの心は奇妙な「わくわく」で満たされていた。
――そして
―――― ガ ス ン ッ !
鈍い貫通音が、勝利のファンファーレのように、その場にいた四人の魔法少女達の耳へと届く。
『敵アーク・エンジェル、完全に沈黙。やった……やったね! かおりん』
「ああ、やった。ザマーミロだ」
確認のため、もう一度望遠照準機を覗き込む。
そこに映っているもの。それは、バリアが粉々に砕け散り、そして頭部中央少し上に大きな風穴を開けて佇む、機能停止状態のアーク・エンジェル。
カオルは、今まで内に溜めていた緊張を「ふぅ~」というため息と共に、外へと開放。
そして、安堵と共にこみ上げてる嬉しさを、笑顔で表現する。
「即席のチームの割には、案外いいチームワークだったな」
カオルが誰に言うとも無く、ポツリと呟く。
『やったわね。悔しいけど、初モノ退治の功績はあなたのものよ』
インギー越しに、千早の声が届いた。
「いや、俺だけの手柄じゃないさ。エリーの的確な状況説明と、千早やカーリーの助力。こいつは、みんなで勝ち取った勝利だ」
『フン、カッコつけて。でもいいわ、そう言ってもらえると、ザコを足止めした甲斐があったというものね』
少しテレを感じさせる千早の謝辞。
と、その言葉に、カオルはもう一人の功労者への「感謝」を伝えるべく、インギーに言うのだった。
「インギー、カーリーとの回線は繋がるか?」
「ええ、繋がります……どうぞ」
プツンッという小さな音と共に、そっけない言葉が零れた。
『何?』
「カーリーか? 鬼首ヶ原カオルだ」
『知ってる。だから何?』
「いやその……どうもありがとう」
『別にお礼を言われる筋合いは無い』
「はは、助けてくれただろ?」
『あれは、たまたま悪魔獣がいたから攻撃しただけ。他意はないし、助けたという意識も無い。勘違いしないで』
「アーク・エンジェルっていう、相手としても、そして金銭《ASP》的にも興味深い敵を目の前にして、ザコで小金稼ぎだって? 冗談だろ」
『……』
一瞬、カーリーが言葉に詰まった。
それは、カオルが言わんとしている事への肯定と取れる行為だ。
つまり――援護。
「さっき、お前と毒サンタとの戦い、見せてもらった。モノの本で読んだ事があるんだが…… あの毒サンタ、強烈な猛毒を周囲に散布するそうじゃないか」
『それで?』
「あのまま、音葉達がうだうだと戦っていたら、間違いなく毒の噴霧を食らい、ピンチに……いや、全滅だって有り得ただろう」
『だから?』
「彼女達を救う意味も込め、毒サンタを急襲した。違うかい?」
『違う。ASPのため手柄を横取りしただけ――』
「の人間が、簡単に手柄を譲るのか?」
『何が言いたいの?』
「 言 い た い こ と は た だ 一 つ ・・・・・・ あ り が と う な 」
『……』
暫しの無言が続き、不意に通信が「ぷつり」と途切れる。
『私が言ったわけじゃないから怒るのは筋違いだけど……何アイツ、折角お礼言ったのに無視?』
千早が、カーリーの態度にむくれた言葉を投げかける。
『それは違うよ、ちーちゃん。カーリーはきっと照れくさかったんだよ』
エリーのほんわかした口調が、カーリーがとった行動の真意を語った。
「ああ、私もそう思うな。素直になれないへそ曲がりなんだよ、きっと」
『何気にさらりと毒染みた事言うのね』
「そうかな? 可愛げがあるって意味なんだけど」
『そ、そうはきこえないよぉ、かおりん……』
エリーの突っ込みに、少し和んだ笑いが起こる。
(なんだかいい空気だな)
そう感じたカオルは、(やはり俺の選択は間違っていない)と感じ、以前から心に持っていた考えを言葉にした。
「なぁ、千早。そしてエリー……聞いてくれ」
『『何?』』
「私を、お前達のチームに入れてくれないか?」
最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!