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第三章 第四話 援軍

 いたる所が破壊され、瓦礫と化している市街地の一画。

 それは、白色の一枚布トーガのようなものをまとった、人型の悪魔獣の攻撃による被害の産物だった。

 三階建ての建築物ほどの大きさを誇りながら、その動きは非常に俊敏。赤坂千早の見せる閃光の一刀を紙一重でかわしつつ、掌からレーザーのような照射攻撃を放ち応戦する、共に戦慣れした戦い――現時点では、誰にもその勝敗を占えない域にあった。


「こいつ、流石に動きが早い。それに周囲がよく見えているわ。指揮官タイプってのも頷けるわね」

「にゃ~! ちーちゃん、ここは一先ず撤退した方がいいかも」

「バカ言わないで……と言いたいところだけど、そのほうが利口な判断ね。けど、コイツはそう簡単に逃がしてくれないと思う」


 初めて合間見える敵に、手探りの戦いを強いられるが故の、少々弱気な発言ではある。

 だが千早は、回避行動に専念しながら、隙を付いて攻撃に転ずる。

 相対する顔のない大型悪魔獣に不気味さを感じつつ、ただ一心不乱に、彼女は自らの得物である日本刀「虎鉄」を振りかざすのだった。


「ったく。データのない初モノは、二人じゃちょっと不利ね……先生も、新たな悪魔獣を出すなら出すって言ってくれてもいいのに」


 と、嫌事を口にしながらも、うっすらと笑みを浮かべつつ、その切っ先を縦横無尽に繰り出す千早。

 そこには、戦いに楽しさを見出しているような感じが見受けられる。


「ちーちゃん、大丈夫? 私も加勢しようか」

「大丈夫よ、エリー。正直、こいつはエリーじゃ敵わない……敵にウィークポイントをさらけ出すようなものよ」

「そ、そうだね……ごめん、ちーちゃん」


 少し項垂れ、己の力の無さを悔いるエリオット・ヴァルゴ。

 だが、そんな彼女は全くの役に立たない存在ではなく――それ以上に心強い存在である事を、赤坂千早は知っていた。


「とにかくエリー、ヤツのデータ解析急いでね」

「うん、分かってる! もうちょっとだから待って」

「あと、周囲の状況の変化も見逃しちゃだめよ。マギカのメインデータには、仲間の悪魔獣を率いての出現が確認されているんでしょ?」

「うん。常に悪魔獣探信儀レーダーでの索敵は心がけてるよ!」

「これ以上、(やっかいもの)が増えないといいけど」

「敵の仲間が増えるのは嫌だけど……こっちの味方が増えてくれたらいいのにね」

「そんな物好き、この学園には()()いないわ」


 そして、もう一つ千早には分かっていた。

 戦いにおける、自らの気性の荒さに付いて来れる人材は、この学園の生徒には居ないのだという事を。

 そして、仮に集まったとしても、そんな自分の言いなりに動くしか出来ない人材を求めるということは、周囲にイエスマンをはべらせる、ただの自己満足にしかならないという事を。


 当初、赤坂千早の強さや凛々しさを求めて、彼女の元へと集まる少女達も多かった。

 だがそれは、「戦う仲間」として求める人材ではなく、ただの仲良しグループを作ろうという目的の集まりに他ならなかったのだ。


 それが、千早にはどうしても我慢ならなかったのである。


 故に、気を抜いた戦いを見せる仲間へと浴びせる罵倒や怒号は多くなり……いつしかそのレベルもエスカレートして、気付けば周囲には、昔からの親友であるエリオット・ヴァルゴ以外、誰一人残ってはいなかった。

 けれどむしろ、そのほうが赤坂千早にとっては心地良かったというのもまた事実。

 たくさんの「遊びの延長で戦う仲間」より、「気心の知れた戦友ともの存在」が一人でもあればいい。それが千早の、戦いにおいての行動理念である。


「そう……誰一人……ね」


 千早が、愁いを帯びたような瞳で零す。

 けれど、その言葉とは裏腹に、彼女の脳裏には、一人の少女の姿が浮かんでいた。


『もしかして、彼女は()()()()に適うのでは?』


 そんな想いが心を掠める。けれどそれは、彼女の性格からして「超」が付くほどの困難。

 千早はふるふるとかぶりを振って、目の前の難儀に改めて向かい合うのだった。


「ちーちゃん、解析完了! ヤツの弱点は頭部、人間で言うところの眉間の辺り。けれど――」

「オッケー! 眉間の辺りね」


 やや勇み足に、千早が敵に対して切り込んだ。

 それは、新型の敵に対しての「早く倒さなきゃ」という焦りがそうさせたのかもしれない。


 エリーの「けれど――」のその先をしっかりと聞いていれば、その余裕があれば、一手先の展開は変わっていたことだろう……。

 そう。千早の素早い一閃の刀身による「突き」は、身構えた悪魔獣の掌から発せられたレーザービームの応用技による「バリア」で、意図も容易く弾かれたのだった!


「きゃっ!」

「ち、ちーちゃん!」


 弾かれた衝撃でバランスを崩す千早に、エリーの心配そうな声がかかる。

 無論、そんなバリアも攻略法が無い訳ではなかった。

 千早のPASによる一点突破を試みれば、バリアごと貫ける可能性もあっただろう。

 エリーとの意気の合ったコンビネーションを用いれば、注意を引かせたその瞬間にせつなの一閃を見舞う事も可能だった。


 全ては、赤坂千早が功を焦っての失態。


 ドシン! と地面に叩きつけられた直後。千早は何はともあれ敵の動きを確認した。

 顔の無い、表情なんてものは全く無い悪魔獣――にもかかわらず、彼女に目にはニヤリと不気味に笑う姿が映っている。


『惜しかったな、死ね』


 千早にはそう、敗者への手向けの言葉が聞こえた気がした。


「……くっ!」


 一瞬で千早の脳裏を駆け巡る、今回の失態への思考・考察。

 自身の焦りが招いたこの結果に、ただ悔しさのみが込み上げてくる。


 そして、無慈悲な敵は――彼女へと、別れの挨拶のように掌を向け、



「 ―――― ズ ガ ン ッ ! 」


 

 終わった。

 千早が、そう覚悟を決めた瞬間。

 彼女の耳に、悪魔獣が放つ攻撃()()の、今まで聴いた事の無い攻撃音が届く。


「な、何?」


 ふと見上げると、悪魔獣は千早への攻撃を取りやめ、不意に向けられた左胸部への一撃の射手はなちてを探している様子。


「え、援軍だよちーちゃん!」

「援軍? 一体誰が」

「随分遠いところからの狙撃みたい。えっと、この識別信号は――」


 エリーが、手馴れた所作で空中に浮かぶ空間投影式ディスプレイを操作する。

 そこに映し出された識別信号マーカーに、エリーは思わず歓喜の声を上げたのだった!


「これは……かおりん! ちーちゃん、かおりんが援軍に駆けつけてくれたよ!!」


 遥か遠く。

 エリーの高感度モニターに浮かび上がる姿。


 10階建てはあろうかというビルの屋上で、馬鹿が付くほどデカいライフル銃を持つ、凛々しい少女。

 「どうだ!」とばかりにニヤリと笑うその表情は、満足の表情に満ち溢れていた。



最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

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