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第二章 第十五話 リセット

「ところで綾乃先生、少しいいですか?」

「あら、なにかしら?」


 カオルは、魔法攻撃力の調整を前に、気になっていた事を尋ねてみた。


「もしかして……先生自身なんですか? 基本魔法の暴走ケースを経験したって人は」


 と、綾乃先生の表情に、些か緊張が走る。


「なかなか面白い質問ね。何でそう思う?」

「そう思うに至る事柄が二つ……一つは、暴走エラー修正アジャストの対応を出来る人が綾乃先生だけって事と、過去にそうそう例の無いと言われているエラーに、いたく冷静、かつ経験済みのような感じが見受けられた事。それを加味した結果、先生の受け持った生徒ではなく、先生自体が被検体なんじゃないかと――」


 つらつらと、感じたままの意見を口にするカオル。が、綾乃先生から漂い始めた「困惑」に、自らの行為を躊躇するのだった。


「あっと……すいません。それは俺にとって、どうでもいい事でしたね。今の質問は忘れてください」


 カオルは空気を察し、質問自体を無かった事にしようとする。

 そう、それは彼女のプライベートに関わるかもしれない事柄。あまりにもデリカシーに欠けている質問だ。

 けれど、綾乃先生は、


「えへへ、バレたか」


 と舌を出し、おちゃらけた仕草で自ら「その事」を暴露するのだった。


「実はその通りなの。なにせ、私は教師になるのだもの。そのためには、当然基本魔法のイロハを知っておかなきゃでしょ?」

「ま、まぁそうですよね」

「その際に、力の加減がつかなかったのね」

「俺のときのように?」

「そ。一気に膨大なエネルギーを放出して、その場に倒れちゃったわ」


 「今だから笑える」といった口調で、当時を振り返る綾乃先生。

 当事者でもあるカオルにとって、その笑みは若干の不安材料となっていた。


(まぁ、大丈夫だろう。なにせ、アヤちゃんはこうして元気に俺の目の前にいるんだから)


 そう自分に言い聞かせ、心に漂う不安を払拭するべく、綾乃先生へと続きを願うのだった。


「それからどうなったんですか?」

「うん。そこからが苦労の連続なの。なにせ、このプロジェクトの初期も初期だったから、全てが手探りでしょ? これでも恵那と二人で、結構試行錯誤で苦労したのよ」

「じゃあ……力の調整ってのは、そんなに難しいものなんですか」

「ううん、それ自体は大した事は無いわ。なにせ、ちゃんとしたプログラムとして構築されているのだから。ただ、当時は調整プログラムが一からの構築でしょ? そのためにいろいろとあったわけ」

「へぇ。それってどんなですか?」

「そうねぇ、恵那に体中をあれこれと弄繰り回されたりしたっけ」

「い、いじくりまわされた!?」


 妙なところで過敏に反応するカオル。

 そんな彼女に、綾乃先生は悪戯っぽく言うのだった。


「そう。素っ裸にひん剥かれて、いろんな場所をこねくり回されて――」

「ま、マジですか!? (なんだか想像しただけで鼻血が出そうに……)」

「うふふ、なんてのは冗談よ。制御プログラムの実験体になった事は確かだけどね」

「そ、そうですか……あまり私で遊ばないでくださいよ」

「ごめんなさいね、でも緊張や不安はほぐれたでしょ?」

「ええ、確かに解れましたよ……でも」


 少しためらいがちに、カオルが言葉を濁す。

 何か言いたげで、でも、それを口にするのはどうか? という思考がその表情から見て取れた。


(でも、新たな疑問がわきました……先生、あなたこそ一体何者なんですか?)


 それは、鬼首ヶ原薫が知らない、聖川綾乃の一面――この世界の教師となった経緯に、深い興味と疑問を抱いた瞬間だった。


(つーか、アヤちゃん……俺と離れてから何があった?)


 そしていつしか、興味本位という境界を超え、「心底知りたい情報」という位置にまで、加速的に発展していく。


「何? どうしたの鬼首ヶ原さん」

「いえ、その……なんでもないです」


 だが、それは今尋ねる事じゃない。そして、おそらくは今後も――


 カオルは、喉元まで出掛かっていた言葉をグイっと飲み込み、別の、差し障り無いと思われる質問へと移行したのだった。


「あ、はい。えっと……そう、これから受ける基本魔法力の調節なんですが、所謂リミッターって事ですよね?」

「ええ、言ってみればそうかな」

「じゃあ……任意で、もしくは先生の許認可制で、その力を開放することは出来ますか?」


 きっとそれは、戦いに身を置いた者であれば、誰しもが思い考える事だろう。

 一度、大きな力を手にした者は、その力を手放す事に不安を感じてしまうだろう。ともすれば拒否を考え、口にするかもしれない。

 カオルにも、そんな「手放すには惜しい」という思いが間違いなくあった。


「ごめんね、鬼首ヶ原さん。それは無理な相談なの……あ、でもこれは規定だからとかそういった事じゃないの。あなたの体を考えての事なの、わかって頂戴ね」

「あ、はい。それは承知してます」

「まぁ、あの怪物シヴァとの戦いに、高い火力が必要ってのは重々承知してるわ。だから、あなたには新たな攻撃魔法の使用許可を与えようと考えているの」

「あ、新たな攻撃魔法……ですか?」

「ええそうよ。あなたの魔法レベルに似合った、新たな専用攻撃技パーソナル・アタック・スキルね」

「武器のレベルアップ、か。そいつは有難いな」

「で、それを習得するために、ちょいと時間がかかっちゃうわけ」

「なるほど。だからいつ終わるか分からないと……」

「そう言う事。とにかく、まずはあなたのその魔法力の調整を行いましょう」


 準備はいい? とばかりにカオルを見つめ、笑顔で小首をかしげる綾乃先生。

 そんな彼女カオルに覚悟の意思を見た先生は、手馴れた所作でタブレットの画面に指を走らせる。


「じゃあ……開始っと」


 画面に軽く触れると、操作完了を意味するサウンドエフェクトが「ピュイ」と軽やかに鳴った。

 そして程なく、カオルの周囲を、球形の半透明な光が包む。

 その輝きの一つ一つをよく見ると、文字コードの羅列であることに気付く。


「これは……プログラム?」

「ええそうよ。あと、暫く気を失っちゃうかも知れないけど、心配しないでいいわ」

「気を失う?」

「ええ。一度この世界からの離脱を行い、あなたの体をリセットするわけ」

「リセットですか!? それってちゃんと帰って来れるんですか?」

「う~ん、たぶん」

「多分って……アヤちゃん、それってマジで大丈夫なの――」


 思わず、心配が口を突いた。


 その瞬間の事。

 

 カオルの意識は途切れ、一瞬にしてブラックアウト。

 意識喪失オチ際に聞こえた、綾乃先生の「ん~、まぁ大丈夫っしょ!」という軽い言葉が、より一層の不安を掻き立てるのだった。



最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

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