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第二章 第十三話 シヴァ

 クラス全員がゲートを通過し終えた後。

 綾乃先生は、手に持っていたモバイル端末を手慣れた所作で操作。

 すると、先生の周囲に二十四個の空間投影式モニターが浮かび上がり、カオルを驚かせた。


「うわ、モニターだらけになっちまった! これって、クラス全員をモニタリングしてるんですよね?」

「ええそうよ」

「綾乃先生、これ全部把握できるんですか?」

「まー、一応はね」

「すごいですね。トンボの目でもなきゃ、一時に全員をチェックするなんて無理だな」

「うふふ。実はね、ネタばらしすると……危険行為や違反行為に当たる行動、それに優秀な行動に関してのチェックは、自動的に行ってくれているのね。だから、そういった注視すべき生徒の行動は、オートで知らせてくれたり、注意喚起してくれたりするワケ」

「へぇ。便利ですね」

「それに、よく見て。モニター同士ある程度グループ分けがなされているでしょ?」


 よく見ると、幾つかのモニター群がひと塊となって、グループを形成しているのが見て取れた。


「五人がチームを組んでいるでしょ? それが三グループ。だから実質気を付けるのはそれら三か所と、ベイキンズさん達四人のチームと、赤坂さんとヴァルゴさんの二人チーム。あとは個人行動の三人……で、その八か所を大まかに見てるだけでいいって感じかな?」

「なるほど。そう考えると大分整理されますね……けど、それでもこんないっぺんに管理できるなんてすごいですよ」

「あらあら。褒めたって、今後のデモマガバトルでの審判に手心を加えたりしないわよ?」

「はは、そうですか。そいつは残念だ」


 カオルは、少しおどけた口調で返した。


『チーム・ブレイブフラワー、これより索敵行動に移るよ!』

『『『了解!』』』


 と、モニター越しに聞こえた少女達の溌剌とした声に、カオルは一瞬反応する。


「へぇ。リーダーの指揮の元、規律のとれた良いチームだ」

「そうね。チーム・ブレイブフラワーのリーダー、ブレイ・ジャスミンは、中々の統率力を見せてくれるわ」

「ブレイ・ジャスミン……? あぁ、桜井保奈美って子ですね」

「そ。彼女は小さい頃からガールスカウトやってたんだって」

「なるほどね。団体行動が身体に染み付いてるんだ」

「彼女たちのチームには、索敵能力に特化した補助系魔法の魔法感覚マガ・センティーレを持つ子がいないのよ。だから、ああやって全員で索敵する方法を取っているの」


 カオルには、思い当たる節があった。

 赤坂千早とのデモ・マガバトルの際。エリオット・ヴァルゴがカオルの戦闘能力の読み取り(スキャニング)を行ったその事から、索敵の可能性を考えていたのだ。


「補助系は必要……だな」

「そうね。理想を言えば、アタッカー三人に、補助と防御がバランス良いと言えるわ」

「仲間のチョイス一つで、かなり個性的なチームになりますね」

「ええ、その通り。その他を言えば、今城さんがリーダーを務めるラブリーウィッチⅤ(ファイブ)は、アタッカー三人と防御二人。郡山さんが率いるトゥインクルスターズは、バランス良くアタッカー三人に防御と補助ね。それにベイキンズさんのホーリーワルキューレは、アタッカー三人と防御だけど、怖いくらいに統率がとれているわ」

「怖いくらい、ですか?」

「ええ。ほとんど会話が無くって、アイコンタクトだけで行動がとれているって感じね。それ故、行動が早くて連携もスムーズ。瞬く間に敵を殲滅しちゃうの」

「ひゅー。どこの特殊部隊だ? って感じですね」


 カオルの冗談交じりの言葉を、綾乃先生は苦笑いで返した。


「まぁ、彼女たちは結構特別で、殆どがあまり統率のとれていない、お気楽なチームなんだけど……」

「……ああ。こいつらみたいなの、ですね?」


 カオルが、とあるモニター群へと目を移す。

 そこには、森林地帯と思しき見通しの悪い場所を、戦闘行動とは縁遠く、まるで食後の散策気分で歩を進める少女達の姿が映し出されていた。


『ねぇねぇ、音葉。学校終わったら、新しい下着買に行くの付き合ってよ』

『おっけー。あ、カオルお姉さまも誘っちゃう?』

『いいねぇ、誘っちゃおう!』


 モニターから聞こえる、黄色い笑い声。

 綾乃先生は眉間に一本の皺を寄せ、操作パッドに指を滑らせたのだった。


「こら、トゥインクルスターズのトゥインクル・ブルー、それにイエロー。戦闘行動中は私語厳禁よ」


 すると、不意に音葉達の前に現れた「音声のみ」と書かれた空間投影式のディスプレイから、綾乃先生の叱咤が飛ぶ。


『あ、やっばい! 聞かれてた』

『えへへ、すいませ~ん』

「それと……悪いけど、今日は鬼首ヶ原さんとのデート、遠慮して頂戴ね」

『ええ~! なんでですか、先生』

「鬼首ヶ原さんのアジャスト、何時までかかるか分からないの。だから日を改めて誘ってあげて」

『はぁ~い、了解しました』


 音葉の残念そうな声に、カオルは笑みが込み上げてくる感覚を覚える。

 けれど、今はそんな「緩い癒し」を受けている時じゃない。カオルは改めて自分自身に言い聞かせ、自分を律するのだった。


『また怒られたの? ブルー。あんたチームリーダーなんだからしっかりしてよね』

『へへへ、ごめんごめん。で、エリア索敵の具合は?』

『うん。半径100メートルに敵の気配は無いよ』

『じゃあ、もうちょっと北に進んでみよっか?』

『『『りょーかーい』』』


 その会話に緊張感は無く、ともすれば迷子の子犬でも探しているかのような、そんな空気が漂っていた。


「まぁ、中学生の女の子らしいっちゃあらしい……ですね」

「まぁね。でも、これでも戦闘に関しては、彼女たちのチームは結構優秀なのよ」

「へぇ。意外ですね」


 少し驚きの表情を見せながらも、カオルの視線は、別のところにあった。


(カーリーもジョーカーも、あまり動きが無いな)


 そう。やはり気になる所は、ソロ活動グループの動向だ。


「綾乃先生。こう言う場合、やっぱソロ組はかなり不利ですよね」

「ええ、そうね。でも彼女たちの立ち回りは、ソロプレイだからという利点を生かしたものなの」

「利点、ですか?」

「そう。でも……正直、反則ギリギリの場合が多いわね。結構それで問題も起こっている――」


 少し困り顔の綾乃先生の言葉の最中。

 チーム・トゥインクルスターズの索敵役である五条郁美トゥインクル・グリーンが、突然声を上げたのだった。


『敵補足! 中型悪魔獣、ヒト。距離ヒトマルマル、十二時方向より急速接近!!』

『――ッ! みんな、気を付けて』

『『『了解ッ!!』』』


 音葉ブルーの気合に、チームが答える。

 その瞬間。彼女に、デモ・マガバトルの時に見せた「戦士の顔」が宿るのだった。


「良いところを見せてくれよ、音葉」


 急に始まった悪魔獣とのバトルに、カオルの意識は釘付けとなっていた。


『フォーメーションエックス! いくよ!!』


 アタッカー三人がV時に並び、敵を受け入れる。

 その背後に、防御と補助が待機し、その陣形は賽の目の5を象っていた。


『さァ来い、悪魔獣!!』


 メキメキメキッと木の軋み倒れる音が近付いてくる。

 そして猛烈なスピードで木々をなぎ倒し、トゥインクルスターズの前に姿を現した――モノ。


「で、デカい……!」


 思わず、カオルの口から言葉が零れた。

 音葉達との対比からして、その身長は約10メートル。全身が赤と白に彩られた、人型のっぺらぼうの「何か」。

 大きな布袋を振り回し、周囲の木々達を軽く吹き飛ばすその姿は……子供の頃から親しみのある、「彼」の姿に酷似していた。


「非・日本襲来型甲種ね。ラップランドを血の海に沈めた、別名『故郷殺しの毒サンタ』」


 綾乃先生の解説に、カオルが心の中で呟く。


(ああ、こいつが噂の……)


『毒サンタか……こいつを仕留めれば、欲しかったスカートが買える!』


 勝算があるのかないのか……ただ、勝つ事しか頭にない音葉と仲間達チームメイト

 アタッカーが三方から一斉に、通称毒サンタと呼ばれる悪魔獣へと躍りかかった――その瞬間!!


『グオァアアアアアアッ!!』


 耳をつんざく様な咆哮と共に、上空から突如「何か」が落ちてきた。



 ―― ド ゴ ォ ン ッ !!


『キャアッ!』

『な、何!?』


 激しい衝突の衝撃音、そして地鳴りと共に、立ち上がる土煙。

 程なくしてそれらが晴れ、姿を見せたモノに、音葉達は驚きと畏怖を覚えたのだった。


『こ、これは……召喚獣・シヴァ!』


 毒サンタの身体を後ろ脚の爪で引き裂きつつ、口から炎を湧き立たせる、所謂「ドラゴン」がそこに居たのだった。

 

最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

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