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第二章 第三話 チュートリアル



 アカデミー敷地内にある体育館中央。

 二列横隊で居並ぶ魔法少女達を前に、綾乃先生が手にしたB4サイズのモバイルを、右指で軽く操作。

 すると突然、彼女達の目の前に、ひとつの「ドア」が出現した。


「さぁ。いつも通り、これからこの中に三人ずつ入ってもらいます。……っと、鬼首ヶ原さん」

「あ、はい」

「あなたは特別メニューなの。悪いけど、一人で入ってもらうわ」

「俺……あ、いや私だけ一人、ですか?」

「そう。チュートリアル的なミッションだから……ここにいる全員は、既に受けているの。そんなに怖くないし、無茶なクリア条件じゃないわ」

「そうですか。なら……」


 至って普通の外観といった趣の、ただのドア。


『昔、アニメの猫型ロボットがこんなのを腹のポケットから出してたな』


 なんとなく、そんな考えをめぐらせつつ、カオルは言われるがままにそのドアのノブを回し――がちゃり。

 きぃ……と小さな軋みを奏でたドアの向こうは――


「あれ? 外になってる」

「そう。これからあなたが受けるミッションの仮想戦場フィールドよ。そこであなたの使い魔さんの指示に従って戦って頂戴」

「はは、なんだかゲーム感覚ですね」

「まぁ、最初はね。ハナッからビビらせて、使い物にならなくなっちゃ不味いでしょ?」


 どこと無く漂う、ケンのある言い方。それは、聖川綾乃の本音なのだろう。


「分かりました。インギーのガイダンスに従って進めばいいんですね?」

「そう言う事ね。くれぐれも、無茶はしちゃダメよ?」

「無茶……ですか?」

「そう、無茶。中にいる悪魔獣を目にして、理性がぶっ飛んじゃって……なんて事がないようにね」


 綾乃先生が、笑顔でお茶目に言う。

 だが、その言葉には――過去に何かしらそんな出来事があったのでは? と伺わせる重みがある。

 カオルにはそう感じられたのだった。


「んじゃま、行ってきます」

「お姉さま、がんばってー!」


 音葉の黄色い声援を受け、ドアの中へと身を滑り込ませるカオル。

 別世界の中の別世界。そんな奇妙とも思える場所は、意外と普通で……カオルがこちらの世界に来る少し前の日本の街並みといったソコは、恐らく悪魔獣の襲撃を受け、ところどころその傷跡を残していた。


「いかにも市街戦といった感じだな。で、インギー……俺はここで何をすればいいんだ? いきなり悪魔獣とのバトルでもかまわないぜ?」

「はい。戦うことは戦いますが、まず基本魔法攻撃を覚えていただきます」

「基本魔法攻撃? おいおい、ちょっと待てよ。基本の攻撃って、ジェイクとエリウッドからの魔法弾丸じゃないのか?」

「いえ、それは一応『専用攻撃技パーソナル・アタック・スキル』ですね。PAS(パス)とも呼ばれますが……必殺技と呼ぶ人が多い様です」

「必殺技《PAS》、か。で、基本魔法はPASよりも弱いんだな?」

「そうですね。基本魔法攻撃というのは、魔法エネルギーを直接放出し、敵にダメージを与えるのです。が、その場合に消費する『純血エネルギー』はほぼありません」

「へぇ、タダで出るってのか」

「そのとおり。そしてその威力は、使用者の魔法レベルによって上がります。高レベル者の基本魔法だけで、下位悪魔獣を倒せる程ですよ」

「ふぅん、そいつはいいな。が、俺はまだその魔法レベルとやらが低いから、牽制的な使い方しかできないって訳だな?」

「概ねそんな感じです。ですが……昨日の模擬戦を思い起こしていただくと、恐らくお気付きになるでしょう。彼女達魔法少女は、既にこの技の威力の無さに見切りを付け、ほとんど使わない状況にあります」

「だろうな。見てて分かるよ」


 カオルの、戦いに関する物事の飲み込みは早かった。

 現に、カオルの戦いにおける飲み込みや勘の良さは、生前「彼」を部隊のエース的存在へと昇華させている。


「で、そいつはどこから発射されるんだ? やっぱ掌からかな」

「ええ。『てのひら』から出ます。が」

「が?」

「武器を持っている場合は、その武器から射出されます。一旦クリアする手間を省くための計らいですね」

「ふぅん。じゃあジェイクとエリウッドから魔法弾丸を撃ちつつ、魔法エネルギーの発射もできるのか?」

「はい、一応可能です」

「一応ってか?」

「だって、わざわざそんな事をする理由がありません」


 インギーが「変わったことを言う人だ」と言わんばかりの瞳をカオルに向けた。

 けれど、カオルは――


「そんなの、何か策に使えるかもしれないだろ?」

「ですが、相手は悪魔獣ですよ? そんな理知的な策に――」

「引っかからないヤツばかり……だといいな」


 漠然とだが、カオルをここへと送った「白の追撃者」に、彼女自身言いようの無い恐ろしさを感じていた。

 それは、今まで戦ってきた悪魔獣のどれよりも、「知性」を感じさせ、感情さえも持っているのではないかという恐怖が、カオルの心に深い霧をめぐらせていたのだった。


「とにかく。さっさとこのチュートリアルを終わらせっちまおう」

「そうですね。では、準備はよろしいでしょうか?」

「いつでもかまわねぇぜ」

「それでは――模擬戦、開始します」


 いつもの様に、感情の起伏無く、インギーが言う。

 すると、カオルの正面に、三体のうっすらと発光する小さな人影が現れた。

 抱き人形ほどの大きさのそれは、カオルを見据えたまま動こうとせず、ただ、不気味に宙を浮遊しているだけ。


「お、木霊コダマか。初歩の戦闘相手にはもってこいのヤツだ」


 まるで懐かしい、とでも言う様に、カオルが対戦相手の俗称を語る。

 正式には、「浮遊人型一式・一号」と呼称される、初期の戦闘で主に偵察に従事していた悪魔獣である。

 青白く光るその小さな身体と、人の行動を観察するような動きに、大昔にいた精霊の「コダマ」を連想させ、一般的にはそう呼ばれていたのだ。


「まずはこれらを、基本魔法で倒してください」

「軍使用の9mmの一発で仕留められる雑魚中の雑魚。軽い軽い」

「ちなみにこの標的ですと、一体仕留める毎に0.1ASPが加算されます」

「10匹倒してやっとこさ1ASPか、流石にやっすいな。ま、こいつらじゃそんなもんだろう」


 余裕の表情でカオルは掌をソレらに向け、インギーへと尋ねた。


「――で、こうやって基本魔法とやらを念じればいいのか?」

「はい、心に念ずれば良いだけです。本来、一般的にはまずこちらを先に習得してから、必殺技《PAS》を覚えるという手順だったのですが――」

「どれ、こうかな? どわっ!」


 インギーが攻撃方法の講釈をカオルへ語る最中の事!

 突然、カオルの掌から激しい雷にも似た閃光の束が躍り出たのだ!!


 その輝きは、一瞬にして目の前の三体の敵を消し去り、アスファルトの舗装道路をえぐり、その先にあるブロック塀の一角を消失させ、遥か先にそびえる七階建てのビルディングを崩壊に導いたのだった!


「い、いてて……な、なんだこりゃ!?」 


 勢いに負けてしりもちを付いたカオルが、崩れ去る建物に目を奪われつつ、インギーへと尋ねる。


「えっと…………なんでしょうね」


 流石に驚き、元々円らだった目が更に「点」となっているインギーが、逆に尋ね返した。


 それほどまでに、予想外だった展開。


 その直後。

 あまりもの緊急事態に、すぐさまチュートリアル中止の命が下されたのは言うまでもなかった。


最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!


今年もクック先生は、シングルクリスマスを応援します!

アベックとか爆発しろ

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