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プロローグ 2



「やりましたね、カオル!」

「ああ。軍隊での腕は鈍っちゃいないぜ?」


 フゥ……っと肩の荷を降ろすように息を吐き、目視で遠くの標的を確認する。振り上げられていた腕が力なく項垂れ落ち、赤く光っていた目らしきものも、その輝きを沈黙させている。どうやら目標物は、完全に動きが停止したようだ!


「カオル、皆から通信です」

「ああ、開いてくれ」

『やりましたね、お姉さま!』

『かおりんナイショ!』

『流石ですわ、鬼首ヶ原さん』

『おつかれ』

「ああ、みんなおつかれさん」


 そう労いの言葉を返し、またスコープを覗き込む。ミッションクリアの宣言を行うため、自分の仕事の結果を再度確認しようとしたその時……


「ん? ……何か変だな、なんだろう」


 ふと、標的に違和感を覚え、再度緊張をまとい直す。


「アヤちゃん!」


 カオルが叫んだ。途端、彼女の傍らに17インチ程の空間投影式ディスプレイが現れ、亜麻色のハーフロングの髪に白いベレー帽を凛々しくキメた女性を映し出した。


『アヤちゃんじゃないでしょ! まったく、綾乃先生と呼びなさいって何度も……まあいいわ。で、何かしら? 鬼首ヶ原さん。今回の擬似演習はすごく良かったわよ。この成績なら、チーム【メロ・アンジェリス】はクラス――いえ、学園一も狙える――』


 今年で十九になるという割には、どことなく幼さが残った印象を受ける聖川綾乃先生。そんな彼女からの褒め言葉を遮るように、カオルがまくし立てて言った。


「そんな事はいい! それよりも今すぐターゲット情報を再確認してくれ! 何か変だ」

『な、なによもう……確認も何も、あなたが放った魔法弾丸がターゲットの弱点を完璧に射抜いたおかげで、対象は沈黙。ミッションクリ……ちょ、ちょっと待って? な、なによこれ!』


 瞬間、カオルは考えるよりも先に、感覚的に何かを察し、声を上げた!



「 み ん な 、 そ こ か ら 離 れ ろ ! 」



『な、なに? お姉さま!』

「今すぐそいつから離れろってんだ!」

『ものすごい勢いで、ターゲット情報がプログラムごと書き換えられている! ちょっと! こんなデタラメな数値は有り得ない――みんな、早く逃げて!』


 その叫びが響いた直後の事だった!

 突然、擬似現実目標物ヴァーチャル・シミュレーターである三式二号の映像イメージが、まるでガラス細工のように粉々に砕け、辺りに音も無く飛散。そして――


『な、なに……こいつ……』


 ターゲットの中心部であった位置に、全身真っ白な人型の「何か」が、ふわりと宙に浮いていたのだった。

 その頭部には真っ赤に輝く、一つの「目」のようなものがあり、カオルの居る方向を向きつつ佇んでいる。いや、カオルには判っていた。「確実に鬼首ヶ原薫オレだけを見据えてやがる」――と。


「これはこれは……アイツ、こんな所まで追いかけてきやがったのか?」


 カオルの表情に、戦慄が走った。息を呑み、無意識にこみ上げる焦りと恐怖を、「あの日」から蓄積してきた怒りで押さえ込む。


「クソッ! 生涯消えない十字架を背負わせただけじゃ飽き足らないってんだな? 上等だァ!」


 狙撃眼鏡を覗き込み、クロスラインを、常人の二三倍はあろうかと思われる大きさの白い人型に合わせる。と、その時――!


『三式《自爆ツリー》じゃないんだったら、こんなの私がやってやるわ!』


 カオルと白い人型との間に、割って入る人影――赤坂千早だ!


「千早、やめろ! お前じゃ無理だ、今すぐそいつから離れろ!」

『大丈夫です、お姉さま! こんなやつ、私一人で――』


 そう武張って返す言葉が、突然途切れ――



 ―― ド ゴ ッ !



『キャアアアアアア!!』

「千早ァ!」

『ちーちゃん!』

『赤坂さん!』

『赤坂ッ!』


 激しい衝撃音と赤坂千早の絶叫と共に、彼女の音声は消失したのだった!


「千早! 返事しろぉ! ――――――んの野郎ォ!」


 ―― ド ン ッ ! ―― ド ン ッ ! ―― ド ン ッ ! ―― ド ン ッ !


 続けざまに四発の魔法弾丸を打ち込む。が、そのどれも、着弾寸前で見事にかわされてしまった。


「クソ、弾切れか!」


 空の弾倉を抜き、魔法弾丸が装填された弾倉を召喚。と、その間にも白い「敵」はカオルめがけて空を滑り、距離を縮めてきている。


「急いで、カオル!」

「判ってるさ!」


 マガジンキャッチのたてた「ガチャリ」という音と共に、再びスコープを覗き込む。

 白い巨躯のソイツは、もう既に目と鼻の先! 距離にして約五十メートル。


「よし、この距離なら!」


 カオルの脳の片隅にこびり付く過去の記憶が、敵の動きの限界と魔法弾丸の射出速度を計算し、勝利を算出する。


「くたばれッ!」


 ―― ド ン ッ !


 しかし! カオルの思考回路を駆け巡った勝機は、瞬時に大きな誤算だったと気付かされる事となった。

 急に制動をかけた白い人型が、両腕を前に差し出し、まるで踏ん張るかのような姿勢をとり――


 ―― ガ イ ン ッ ! 


「あれま、両腕で弾き返しやがった……」


 けたたましい音を放ちながら、カオル渾身の一撃を見事防ぎきったのだった。


「…………」


 赤く輝く目だけの顔が、一瞬ニヤリと笑った印象をカオルに与えた。


「フンッ……まぁこのくらいは想定の範囲内さ。なにせあの時、『あんな戦い』を見せつけてくれたんだから、こっちもそこまで期待はしてなかったんだ」


 そう言うと、カオルが魔法武器を手にやおら立ち上がり、


収納クリア


 ディープ・パープルを星屑へと戻す。そしてインギーへと目を移し、叫んだ!


「インギー、通常・制服着装解除ノーマルスキン・クリア。転、戦闘特化式魔法少女形態へと移行!」

「了解……ですが先日の一件以来、未だカオルの戦魔形態ミレス・マガモードの調整は不十分で――」

「かと言って、死んじまったら元も子もないだろ? いいからやってくれ」

「はい――では!」


 インギーが決意の返答を見せた途端、彼の黒く円らな瞳が、緋色の輝きを見せた。

 その輝きに呼応するかのように、カオルの頭上へと、金色の輪が光の粒を撒き散らしながらゆっくりと舞い降り、彼女にとある変化をもたらせる。

 その変化は――リングが通過した場所の衣装が消失、カオルの美しいボディーラインを光で包み込むのだった。

 爪先まで光に包み込まれた後、今度はリングの上昇と共に、足元から新たな衣装をまとい直す。


 ブラックとシルバーが気品と格調を漂わせる、レッグアーマー調のブーツ。

 胸元を強調するデザインもチャーミングな編み上げコルセットと、ホワイトを基調とし、パステルグリーンのアクセントに彩られた、鋭角的な趣のミニスカートドレス。

 そして黒く長い髪は、輝きを放つエメラルドグリーンへと変貌し、銀色のティアラを頂いている。


 その姿はまるで、ファンタジーに登場するかのような、「戦うお姫様」を思わせる出で立ちだ。


「さあ、戦闘特化式魔法少女形体に変換完了しましたよ。くれぐれも気をつけてくださいね、カオル……いえ、『メロ・リゾルート』!」

「了解。さぁて、と」


 新たな装いのカオルが、改めて白い人型の敵へと対峙する。


「来なよ、白いの。こないだのケリ付けてやる!」


 カオルの脳裏に、あの日の出来事が去来する。



 あの日――それは三ヶ月前、カオルがまだ「男」だった時の事……。




最期まで目を通していただき、誠にありがとうございました!

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