第九章 第十三話 実技テスト・個人編 11
「ん~と、続いては水間さん、柳生さんね」
「「はいっ!」」
個人技テストも、あと残り少し。そんな中、カオルはふと、とある事に気が付く。
「そう言えば……エリーはまだテストを受けていないな。『ヴァルゴ』だから、最初の方だろ?」
「え? あ、うん。私はね、ちょっと特別なんだ」
「特別?」
「お姉さま。エリーは特別で、個人技テストはヴァルゴ社立会いの下に行われるの。魔法少女の身体能力を計測するんだって」
千早が、エリーの「特別」の理由を語る。
「へぇ。で、エリーは特別なのか……だが、なんでヴァルゴ社が?」
「うん。なんでもね、魔法少女に合わせた銃火器やアーマーの開発のためなんだって」
「銃火器やアーマー? 魔法少女にんなモン必要なのか?」
「ん~、よくわかんない」
「けどさ、アーマード魔法少女とか、なんかカッコよくない!?」
そしてまた、音葉がカオル達の会話に口を挟む。
だが、言われてカオルも、少し色めき立った。
「うん、ちょっとかっこいいかも」
鋼鉄の武装をまとった実弾火器を持つ魔法少女。そんな姿を想像し、カオルの中の「男の子」が、ワクワクしている様子だ。
「ホント、鬼首ヶ原は戦闘マニアで武器オタクだな」
「そうね。でも、どっちかというと、男性っぽさが抜きん出ているって感じかしら?」
カーリーと彩香が、冗談っぽく、それでいてチクリと急所を突くような事を言う。
「ば、馬鹿言うなよ。私はれっきとした14歳の女の子だ! ホラ、そんな事より……新たな個人技テストが始まるぜ!?」
カオルは誤魔化すように――いや、誤魔化す気満々で、モニターを指差すのだった。
「はいはい」と苦笑いしつつ、モニターへと目を向ける二人。
そこに映されている二人は……
水間亜依夢。
トゥインクルスターズのトゥインクル・オレンジである彼女は、遠距離攻撃に特化したスタイルであり、得物として――
「な、なんだありゃ? ステッキ……じゃないな? もしかして」
「うん。バットだよ、かおりん」
彼女の右手に握られているソレは、オレンジ色に彩られ、先端にかわいい兎のようなマスコットがデコレートされている。
更に言えば、彼女が纏っている戦闘魔法少女形態の衣装は、オレンジと黒のツートンであり、それは一見してどこかで見た感じの配色となっており……。
「なぁ、あれってもしかして……読売ジャイアンツの……?」
「そう! にっくき巨人軍カラーなのッ!!」
鬼の形相の千早が、カオルへと解説を飛ばす。
そう。彼女は大の巨人ファン。
そしてある意味、千早のライバル。
『ジャビット! 一発カマすよ』
『オッケー』
そう言うと、得物を構えたトゥインクル・オレンジにとって、絶好のストライクゾーンに、魔法エネルギーが凝縮された「球体」が、どこからとも無く飛び込んできた。
『ナイスボール!』
――ガツーンッ!
目いっぱい振り抜いたそれは、見事に真芯でエネルギー球を打ち抜き――
――ズドンッ!
一直線に、悪魔獣のコアのある頭部を射抜き、遥か空へと消えていった。
『ホームランッ!』
ガッツポーズと共に、ダイヤモンドに見立てた悪魔獣の周囲を駆け回るトゥインクル・オレンジ。
それとは対照的に、ぶすっとした表情でそれを見つめる千早。
まるで巨人対阪神戦のようだ。そうカオルは心の中で笑うのだった。
そして、もう一方の生徒。
柳生環奈。
LWⅤにおけるラブリー・エメラルドである彼女は、双璧の一壁として仲間を堅守(A-)。
武器アイテムとして、右手薬指にエメラルドの指輪を輝かせている。
「あいつ、武器は持たないのか?」
「うん。でもね、あの指輪の力はすごいんだよ」
解説役のエリーが、再びその真価を発揮する。
すると、その指輪の真価を発揮するかのように、ラブリー・エメラルドが指輪をはめた右拳をぐいと正面に突き出し、
『いくよ、ピッピ』
『了解っピ―』
ピッピと呼ばれる雀によく似た使い魔、そしてラブリー・エメラルド自体が、「二人」に分身!
いや、その姿は二人から四人。更に四人から八人へと、数を増していく。
「分身!?」
「うん。でもね、それぞれが実体のある分身なの。分身も基本魔法攻撃がそのままの威力で打てるんだよ」
「ほへー、ソイツはすごいな。でも、実体があるって事は、もしヤラレたら?」
と、その瞬間。
油断からか、もしくはカオルの疑問に答えたのか、分身の一人が敵・悪魔獣の右腕による攻撃を食らう。
(そら、いわんこっちゃない。で、どうなる!?)
くの字に折れる、ラブリー・エメラルドの身体。
も、その姿は風船のように弾け、
――ドォンッ!
大きな爆発を巻き起こしたのだった!
「爆発した!? デコイトラップか」
「かんなちゃんの分身はね、分身自体が爆弾なんだって」
「なるほど……注意を引きつけつつ攻撃する、か。面白いな」
そして、いくつかの爆発により、敵・二式一号は完全に沈黙。
「は~い、二人ともお疲れさん」
『『ありがとうございました!』』
二人の魔法少女は、危なげのない戦いにより、個人技テストに勝利を飾った。
そして個人技テストは、いよいよ最終試験者へと順番が回るのだった。
最後まで目を通していただき、誠にありがとうございました!
次週より1~2週ほどお休みして、第九章の書き直しを行いたいと思います。
あまりもの失態の数々、申し訳ございませんでした。
再掲載、そして連載再開のあかつきには、どうかまたよろしくお願い申し上げます。