表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/111

第七話 VS赤坂千早



「インギー。今回も試合開始と共に、ジェイクを召喚。だが、今度は接近戦だ」

「近接戦闘ですか? あなたの武器は遠距離攻撃用ですよ、カオル」


 カオルの言葉に、ふと疑問を呈するインギー。


「分かってるさ。だから、ヤツの剣のレンジ外ギリギリでの攻撃に専念するんだ。なぁに、剣技能力B+だっていう郡山音葉アイツの動きにも、余裕で付いて行けたんだ。A+っつっても、所詮は十四歳の女の子……まぁ、どうにかなんだろ」

「そうですか、了解です。あ、でもですねカオル……今回もジェイクだけでいいのですか?」

「ああ、構わないさ。なにせこっちゃあ攻撃方法コマが少ないんだ。工夫して奥の手(・・・)を作らなきゃな」


 へへへと笑い、インギーとの作戦会議を終えるカオル。と、 


「ちーちゃんちーちゃん! 解析かんりょ~」


 そんな中、赤坂千早へと駆け寄る、小さな少女の姿があった。

 まだ小学生かと思われるような体躯と、あどけない顔。ふわりとしたセミロングの髪が金色に靡き、大きく愛らしい瞳は碧く輝いている。察するに、恐らくは外国人と思われる生徒だ。


「随分と速いわね、エリー」

「うん、だって相手はチュートリアルもまだ受けてない――」

「しっ! 声がおっきいわよエリー」

「あっと。ごめんにゃ、ちーちゃん」


 舌をペロッと出して、にへへと笑う金髪少女。その見た目の幼さは、とても十四歳とは思えない印象を与えるのだった。

 そんな小さな女の子に、赤坂千早は膝を折って背丈を合わせ、耳を近付け――


「んとね、解析の結果はね……」

「フン、なるほどね」


 やがてヒソヒソ話は終わり、ニヤリと表情を変える。


「面白いわ……ありがと、エリー」

「どーいたしまして!」

「それじゃ、行くわよトラッキー」

「おう! 一発キャンいわしたろや」


 背中に白い羽の生えた、デフォルメされた虎を従え、赤坂千早がにじり寄る。

 そんな彼女が湛える不敵な笑みは、カオルの神経を逆撫でするに十分だった。


「聖川先生、休憩インターバルなんて必要ないわ。とっとと始めちゃてください」

「え? でも赤坂さん、五分間の休憩を取るのはルールとして決まっている事。それは知ってるでしょ?」

「早くお願いします。この鬼首ヶ原って子を……今すぐ叩きのめしたいので!」

「ダメよ。鬼首ヶ原さんはさっきまで戦って――」


 正面切ってカオルへと挑発的な視線を送る、赤坂千早なる少女。

 そんな敵対心溢れる気配に、カオルの中の何かが、ザワザワと疼き始めたのだった。


「いえ、いいんです綾乃先生。戦いには『機』ってものがあるんですから。俺――あ、いえ、私だって今のこの闘争心を消したくないんで」


 静かに、淡々と「戦いへの意欲」を語り、カオルも赤坂千早へと対峙する。

 だが、見据える彼女の瞳には、新たな戦いへ望めると言う喜色が溢れていた。


「そ、そう。なら仕方が無いわ……ではこれより、第三戦目を開始します! 双方、名乗りを上げてください」



「 一 年 一 組 、 赤 坂 千 早 ッ !! 」



 まるで肺腑を抉るような、赤坂千早の名乗り声。それに触発され、カオルもまた裂帛の気合を込め、名乗り返すのだった。



「 一 年 、鬼 首 ヶ 原 薫 ッ ! 」


 

「それでは――デモ・マガバトル開始!」

「インギー、ジェイクだ!」

「了解カオル」

「トラッキー、『虎鉄』を召喚!」

「あいよ、旦那」


 一瞬の輝きを振りまき、赤坂千早の右手に、一振りの日本刀が生まれる。

 そして、静かにその鞘から抜刀――したその刹那!


「――うッ。は、速い!」


 カオルの予想を大きく上回る、急激な加速による間合い詰め!

 瞬き一つの間に、双方の間は赤坂千早の得物の攻撃範囲まで縮められてしまった。



「 で ぇ い っ ! 」



 まるで空間をも切り裂くような、両手での切り上げ。

 瞬時に「戦い」よりも「全力での回避」を選んだカオルだが、それでもなお、ギリギリのところで「事無きを得た」という状況。


(んにゃろう、中々やるじゃねぇか。改めて剣技A+の腕前というモノを思い知らされたぜ!)


 そう心の中で苦笑い……する余裕も無く、第二刃がカオルを襲う!


「遅いおそいッ! ガンナーの弱点は機動性の乏しいところ。いくら戦闘能力バトルセンスが人より秀でていても、己の魔法感覚マガ・センティーレを理解していなければね!」

「――ぐっ! クソッ」


 右に、左に、間髪入れず走る、一筋の輝き。それらを、どうにかこうにか避ける事で精一杯のカオル。

 追い詰められた小動物のような感覚に不快さを感じ、たまらずダッシュステップで距離を開ける。


 ――しかし!


「甘い! 近接戦闘者のダッシュから逃げられると思って!?」


 何度逃げても、瞬く間に、また白刃の射程圏まで引き戻されてしまう。


「こっちだって、やられっぱなしじゃ――」


 だがカオルも、何も考え無しに逃げ回っていた訳ではなかった。

 再度バックステップで大きく間合いを開け、距離を取り、


「逃げらんないっつってんでしょ!」

「――ないぜっ!!」


 赤坂千早の突進を、まるで誘い込むかのように待ち受けるカオル。

 パターン化された連続行動には、気の緩みが生じる場合がある。そんな可能性に勝負をかけたカオルは、はたして赤坂千早に付け込む一瞬の隙を見出し――発射ファイア


「喰らえッ!!」


 「パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!」と、乾いた銃声が瞬く間に四度鳴り響く。

 至近距離からの発砲に、ダッシュの勢いと幾許かの気の緩みが、魔法弾丸の着弾を許した!


「くぅッ!!」


 ――が! それはたった一発のみ。

 赤坂千早が見せた咄嗟の右側回避に、カオルが放った弾丸の三発は、そのまま空を突っ切り消滅。命中した一発も、左肩を射抜くだけの結果となった。


 一手リードしたか? と思われたその瞬間!


 赤坂千早は、右回避からそのままダッシュを見せ、再びカオルへと電光石火の接近を果たす。


 そう、彼女は怯まない! 恐怖に駆られないのだ。


 目標を持って動き、その役目を果たすまで駆け、働き、達成する。そのためには少々の犠牲など構っていられない。

 他の女生徒と比べ、彼女は剣の腕もさることながら、目的に対する意気込み、心構えが違う!


 須臾の刻、そんな想いに心が奪われたカオル。その結果――


「せりゃあっ!」

「――ッ! しまった!」


 赤坂千早が放った下段から上方への切り上げが、カオルの持つ「ジェイク」を弾き飛ばす。

 咄嗟の衝撃に、己の相棒を手放してしまった事への後悔マズイが、表情を窺わせたのだった。


「武器は奪ったわ。さぁ覚悟なさい! 鬼首ヶ原薫」


 剣先を突き付け、余裕を以って最後を通告する赤坂千早。


 だが! そんな彼女の隙を突いて、カオルは叫んだ!


「インギー、エリウッドだッ!」

「了解!」


 途端、カオルの左手に光の結晶が宿る。

 それは瞬く間に、黒鉄色のボディーを誇る、一丁の銃へと変わるのだった!


「もらった!」


 咄嗟の出来事に、対処が遅れるであろう赤坂千早。その一瞬に魔法弾丸をぶち込む!

 そんな計算の上での、カオルが打った一芝居フェイクは、ものの見事に――読まれていた!


 五つの銃声と重なるように、金属同士がぶつかり合う高音が鳴り響く。

 それはつまり、カオルが放った五発の魔法弾丸を、赤坂千早はまるで攻撃を分っていたかのように剣を構え……その全てを跳ね返したのだった。


「おいおい、ウソだろ?」

「どっこい、嘘じゃないわよ。あなたのそのもう一つの銃、ずっと警戒していたのよね」

「何? 警戒してた……だって? それはつまり――」

「そう、知ってたの。あなたにもう一丁、銃があるって事」


 カオルの脳裏に浮かぶ、さっき見た、赤坂千早と小さな金髪少女とのヒソヒソ話。


(そうか。あの時聞こえた『解析した』ってのは……俺の性能データを解析したって事か)


「はは。こちとら初心者だってのに、一切の手加減ナシなんだな」

「違うわ! 勝つための手段よ。たとえそれが、九ヵ月間みっちり魔法戦闘の訓練に明け暮れた者と、今日は入ったばかりのドシロウトの戦いだったとしてもね!」

「いちいちごもっともだ。なるほど、学年筆頭だってのも頷けるぜ」

「なら負けを認めて、さっさと降参しなさいよね!」

「そうだな。それも一つの手かもしれない……仕方ない、エリウッド・クリア」


 左手のエリウッドを格納し、まるで「こいつは敵わない」とばかりの表情を見せるカオル。


 しかしながら、その表情の裏には――


(やっぱ所詮は十四歳の女の子だな)


 そんな思いを巡らせつつ、赤坂千早を「かわいく」思うのだった。


(見せてやんぜ、ついさっきまで現役軍人だった『大人』の戦いってヤツを!)


 そう心で叫んだカオルが、突然赤坂千早の視界から――フッと消えたのだった!


「――ッ!」


 勿論、消滅した訳でも、煙の如く消え去った訳でもない。


 素早く赤坂千早の懐へと滑り込み、剣を構えた赤坂千早の腕を左右の手で掴むカオル。すかさず重心を預けると、千早は無意識に踏ん張ろうとして、足を開いてしまう――その瞬間を狙い、右足での足払い!


 不意を突かれた千早が、足元から揺らぎ崩れる!


 それは、日本防衛軍が基本戦闘の一つ。訓練学校を出た者ならば、嫌と言うほど身に染み付いてい格闘技――日本式組戦闘・柔術。


「え、何? ひゃッ!」


 驚きの声を上げて倒れ込むる少女の頭部に向け、カオルは間髪入れずに左手を構え、


「インギー、エリウッド!」

「了解!」


 言うが早いか、銃声が五度。まるで一時に発射されたかのような感覚で鳴り響く!


「きゃあっ!」 


 直後に聞こえた、絹を引き裂くような叫び。それは紛れも無く、赤坂千早が発した悲鳴であり、すなわち――


「そこまで! 勝負あり、勝者鬼首ヶ原さん!!」


 カオルの勝利を意味していたのだった。



最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ