第九章 第十一話 実技テスト・個人編 9
ダイアナ・ベイキンズ。
彼女の、執拗なまでのエリーへの勧誘の時に感じた、奇妙な恐ろしさ。
それは、14歳の少女らしからぬボディーライン――も、さる事ながら……何か内に秘めた、異様とも言える「冷やかさ」の存在だった。
「ダイアナ、か。以前、私に大きなコトを言っていたけど……それは実力あっての故なのか、今ハッキリするな」
カオルはわざと声に出して、彼女に感じた特異さを露わにした。
それは本来、解説者役を毎回買って出てくれるエリーに拾われる筈――が、今回は全くのスルー。
「ごめんなさい。ダイアナには関わり合いたくないの」という、無言の返答を見せていた。
「お姉さま。正直な事を言うと……彼女、ダイアナは間違いなく私と同等――いえ、もしかしたら、それ以上かもしれないわ」
代わって、千早が解説役を買って出る。
いや、解説役というよりも、同系の戦闘魔法少女として感じた評価という名の「畏怖」なのかもしれない。
「へぇ? 千早も相手の力量を上に見る事もあるんだな」
「そ、そりゃあまぁ……てか、あの子は特別だよ」
「特別?」
「そう。なんだかおっかない」
「おっかない、か」
一般的な生徒なら、そんな千早の曖昧な表現に『何言ってんの? あなたのほうが成績上じゃん』と、冗談めかしたフォローを入れる事だろう。
が、カオル自身、そう思わなくも無いという同意に、それ以上の言葉を紡げないでいるのだった。
「確かにさー、何考えてるかワカンナイとこあるよね。ダイアナって」
そんなカオルと千早の話に、音葉が割って入った。
それはまるで、一般的な生徒を代表したような口ぶりともいえるよう。
「そ、そうだよね」
千早がふと、戸惑う様子を見せ……すぐに笑顔を作る。
それは一瞬のこと、音葉へのわだかまりが顔を覗かせたのだろう。
(やれやれ。ここにもダイアナ以外に、不穏の種が転がってたか)
カオルが心の中で呟く。
けれどそこまでの心配を抱く懸念事項では無いと、すぐに気持ちを切り替えるのだった。
「じゃあ、その特別な生徒の実力、測らせてもらおうか」
そんなカオルの呟きと同時に、二人の異国生徒が、ゲートをくぐる。
その際。ダイアナは、カオルの方をちらりと見やり、小さく微笑んだ。
「なんだろう。俺の視線に気が付いたか?」
カオルは独りごちながら、ダイアナ達がバトルフィールドへと身を滑らせるのを見届ける。
すると、すぐさま――
『『敵、補足』』
まるで二人は同化したかのように、敵・確認を告げた。
が、それだけではない。
『『転・戦闘特化式魔法少女形態』』
二人が魔法少女への変化をシンクロして唱える。
それには、周囲の少女達も少々驚いた様子だ。
「へぇ。二人共、ヘンシンするんだ」
「魔法少女形態って……あんなの、二人ならノーマルスキンでも余裕なハズなのに」
それは、二人の異国少女の戯れなのか、それとも――
カオルには、なんとなくだが分かる。
「野郎のあの視線……もしかして、前々から私を意識していた?」
そして、その疑問は、次第に明確な「確信」となって、カオルに突きつけられたのだった。
白を基調とした中に、銀のワンポイントをちりばめた、まばゆい美しさのコスチュームのダイアナ・ベイキンズ。
白を基調とした中に、薄いピンクをワンポイントとしてちりばめた、ほのかな愛らしさ漂うコスチュームのグレイス・ハーレイ。
まるで地上に舞い降りた戦女神を思わせる、美しい出で立ちは、見る者を魅了する。
しかしながら!
ダイアナの持つ獲物に、その美しさに憧れる視線は、一気に暗転。そこはかとない恐怖に、一瞬落とされるのだった。
「何だ、あの巨大な鎌は?」
カオルもその一人。
ダイアナの持つ、白く巨大なデスサイズに、一瞬ぎょっとさせられた様子だ。
けれど、次の瞬間。
そんな事はどうでもよくなるような展開が、カオルを、そして生徒達を襲うのだった。
「あの動き……あれは!?」
それは、先刻見た、音葉の動き。そう、ダイアナはさっきの音葉の動きを完全にトレースしている。
素早い切込みで相手との間合いを縮め、一切無駄のない一閃にて、敵を仕留めたのだ!
それだけではない。
ふと目を移すと、隣のモニターに映し出されたグレイス・ハーレイの動きに、なんだか違和感を覚え――
「いや! あれはさっきの――俺の動きッ!」
彼女も、同じ遠距離特化系として、寸分違わぬ動きを披露。
カオルの時と同じく、天高く飛翔した後。手にしたロングバレルの対物ライフルで、見事に敵・悪魔獣のコアを射抜く一撃を放った!
「野郎、味な真似しやがって」
カオルの心中に、更なる「不穏の色」がぶちまけられた。
それは「心強い仲間」であるはずの同じ戦闘魔法少女候補生であるにも拘らず、二人から微かに漂う「敵」を思わせる何かを嗅ぎ取ったのかもしれない。
「はい、二人共おつかれさま~」
だが、綾乃先生は、そのことに一切触れず、ただ淡々と二人の生徒のテスト終了を告げた。
(単に気が付かない? いや、あのアヤちゃんの事だ。しっかり気が付いているハズ)
これが綾乃先生の、ダイアナとグレイスの実力を知り得た上での、二人への評価なのだろう。
カオルの受けた印象は、「綾乃先生も、彼女達グループに漂う得体の知れない何かをずっと感じていた?」というものだった。
つまりは、ダイアナ達には教師すら知り得ない謎がある。
ということ。
「こんなヤバい奴等に、うちの熟練菓子職人……もとい、凄腕探索人はやれないな」
そう零すカオルを、当のエリーはキョトンとした表情で受ける。
「えへへ」
力無く笑うエリオット・ヴァルゴ。
彼女もまた、ダイアナ達に求められる「何か」を秘めた少女である事を、カオルはまだ知らない。
最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!
まだまだ暑い日が続きます。
皆様方におかれましては、十分お体に気を付け、楽しい読書&執筆ライフをお送りくださいませ!