第九章 第九話 実技テスト・個人編 7
「ダメだ。二人共気負いすぎて、敵を追えていない。それどころか、自分の戦いの適性を殺している」
カオルが零す言葉に、周囲の生徒達は気付かされた。
自分も、「音葉が出来るなら、私も」という考えに毒されていた。という事に。
そこから先、生徒達の間での会話がほぼ無くなり、モニターを食い入るように見つめるという作業に終始する、という人数が増えはじめた。
(敵の動きを見極める)
(私の武器なら、どう戦うか?)
それまで、お気楽さと不安に浮かれていた生徒達の目は、脳内での対敵シミュレートに思考の大半を費やす、毅然とした瞳に代わりつつあった。
それほどまでに、音葉の垣間見せた実力と、それを受けて気負った生徒の見せた「差」は、戦闘魔法少女を目指す生徒達の刺激になったと言えるだろう。
『逃げんなこら!』
焦りを隠せないでいる、西大寺喜美子。
『お願いだから、じっとしてて』
自分の技を上手く活用できない、敷島法子。
ソロでの戦いは、自分を見失った者に逆風を与え続ける。
この後も、上手くダメージを与えられないままの戦いが続き……ようやく敵を沈黙させたのは、テスト時間ギリギリ――という、無様な結果に終わったのだった。
「は~い、二人共おつかれさま。上がってちょうだい」
『『ありがとうございました』』
気落ちした二人の挨拶が、見事にシンクロする。
そして、今回のテストで、おそらく最悪の結果であろう二名の魔法少女候補生が、一年一組専用体育館へと帰還を果たす。
「うわ~ん、やっちゃったよぉ~」
「……最悪だ」
半べそで項垂れる両者に、視線が集中した。
それは、友達としての憐れみや同情の視線ではなく、
「ごめん、二人共。今の戦いで気付かされたわ。ありがとう」
「キミちゃん、ノリ。仇は取るから」
同じ敵へと向かう仲間として、戦友としての、覚悟溢れる意識だった。
「……?」
「う、うん」
二人は、自分達が皆に与えたモノの大きさに気付く事無く、ただキョトンと頷くだけ。
だが二人の失態で、残り十数名の意識に大きな変革をもたらした結果は、大いに称賛できる事だろう。
そして、これが二人の犠牲で無かった事に、カオルは心底安堵したのだった。
「さて、お次は園田さんと田中さんね。スタンバイよろしく」
「「はい!」」
今しがた、西大寺喜美子と敷島法子に言葉を送った二人が、入れ替わるようにバトルフィールドへとその身を滑らせた。
両者の瞳には、程よい緊張感と、戦う者としての意思が漲っている。
先にやらかした二人を反面教師として、自らに合った戦いをしてみせる!
そんな意思が、具現化しているかのように、カオルには見えたのだった。
園田真千。
チーム「ブレイブ・フラワー」に所属し、遠距離攻撃系を得意とする、現在、成績「B-」の魔法少女だ。
彼女の狙撃能力は、カオルを基準として考えれば、まだまだ足元にも及ばないかもしれない。
が、それは今までの戦い方が、彼女の持つ遠距離戦闘での技に、あまりそぐわないバトルスタイルをとっていたせいである。
田中良子。
チーム「ブレイブ・フラワー」に所属し、召喚系にて戦う生徒であり、その成績は「B+」だ。
彼女もまた、今までの自らの戦いに疑問符を抱いていた一人である。
その訳は――
『敵、目視確認! アプリコット、転・戦闘特化式魔法少女形態! 後、召喚・コズミックZ!』
『あいよ、旦那!』
デフォルメ姿の狐「アプリコット」が召喚した、全長15メートルの巨大戦闘ロボット。その名もコズミックZ。
この大きなロボットもまた、その巨躯が災いし、機動性に欠ける面があるのだった。
しかしながら。
今回のテストでは、敵である二式一号も、俊敏な動きに乏しい。
更には、田中良子自身、何か策がある。そういった思惑を瞳の内に秘めているのだった。
『コズミックZ! フィンガーミサイル』
『ゴッ!』
召喚者の指示に答え、戦闘ロボの五指から、小型のミサイルが雨あられとグランドベイビーに向けて放たれる。
その威力は微小なれど、数に感嘆の要素がある。
今までは、そんな小さな破壊力しか生まない武器に頼る、などという事はしなかった。
が、今はその攻撃に、活路を見出したのだ。
『これは単なる足止め。そう、本命の攻撃はコレよ!』
田中良子が、爆発達の余波を受け、ピンクの髪を靡かせて言う。
『コズミックZ、ブレイブキャノン!』
『ゴッ!』
両肩に装備された、2門のキャノン砲。
そこから高密度の魔法エネルギーが炸裂し、敵目掛けて一直線に伸びた!
――ズズンッ!
2本の閃光が、ミサイルの爆発により防戦一方だった敵の頭部を――見事に貫通!
そこにあるのは、敵の急所であるコア。
一方。園田真千も使い魔に指示を出し、ブレイブ・フラワーのブレイ・ラベンダーへと、その身を変化させていた。
『まーちゃん! 召喚、エンジェルボウガン』
『おっけー』
小さなサルをモチーフとした使い魔・まーちゃんが、ブレイ・ラベンダーへと得物を召喚した。
それは、天使の羽があしらわれた、白を基調とする、愛らしさに溢れたボウガンだ。
『私は、鬼首ヶ原お姉さまのように、感覚で照準を合わせるなんて芸当はできない……けれど』
言って、敵の正面に立ちはだかり、まるで「あなたのエネルギー砲を打ってみなさい」と言わんばかりに、ボウガンを構えて挑発を見せる。
そんな姿を小癪に思ったのか、二式一号は、すぐさまその口へと、エネルギーを貯め始めた。
――ドウッ!
悪魔獣の口から射出される、野太いエネルギー光。それは、一直線に獲物を仕留めに掛かる。
が、その直前!
『エンジェル・スピード!』
ブレイ・ラベンダーの身体はフワリと宙に浮き、光速にも似たスピードで、エネルギー・ビームを回避。
そんな敵の頭上に、再びブレイ・ラベンダーの姿が出現し、エネルギーを放出しきって動かなくなった敵の頭部へと、じっくり狙いを定め――バシュッ!
空を裂き、一直線に真っ白な魔法光矢が、敵のコアの場所を、的確に射抜いた!
『『やった!』』
それはほぼ同時に、それぞれが敵・二式一号を沈黙させた、喜びの声。
『は~い、二人共お疲れさん。上がってちょうだいね』
『『ありがとうございました!』』
一人一人が、明確に敵を知り、自分を知って、最も効率の良い戦い方を選択する。
二人の戦いは、それに目覚めた魔法少女達の、少し遅い「第一歩」なのかもしれない。
最後まで目を通していただき、誠にありがとうございました。